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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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第33話「抜かぬ刀」

絶対の、権力。

誰も、逆らえぬ——その、沈黙の、中。


アルフォンスは。

ゆっくりと——腰の、光丸へ。手を、伸ばし。


——そして。

その手を、すっと——離した。


「……抜か、ぬ」


ぽつり、と。

その、ひと言が。広間に、落ちる。


『……え?』


ひかりが、戸惑った。





「宰相殿。お主は、申したな。——『力こそ、正義』と」


アルフォンスは。

静かに——その男を、見据える。


「ならば。——今、ここで。それがしが。お主を、斬り伏せれば」


「それは。お主の、その言葉を——それがし自らが、"正しい"と。証してしまう、こと」


「のみ、ならず」


紅の瞳が、わずかに——伏せられた。


「力にて、意に染まぬ者を、屠る。——それは。お主と、何ら、変わらぬ。畜生の、道」


(それがし)は。——その手には、乗らぬ」


ゆっくりと。

アルフォンスは、光丸から——完全に、手を、放した。


『……武士、さん』


ひかりの声が、震える。


『……そっか。斬らない。——斬っちゃ、だめなんだ。斬ったら、あいつの思う壺。……自分から、破滅王に、なっちゃう』


『刀を、抜かないことで。——あいつの、罠を。かわした……!』





「——だが」


アルフォンスは。

すっ、と——顔を、上げた。


「刀を、抜かぬ、からとて。——退く、つもりは。毛頭、ない」


その視線が。

宰相を——通り越して。


広間の、奥。

玉座に、座す——ただ、一人へと。向けられた。


「宰相殿は。先ほどから、しきりに。——『国が』『国家が』と。仰せに、なる」


「なれば——某は。その、国家に。問い、申す」


すっ、と。

アルフォンスは。その場に——片膝を、ついた。


されど、その眼差しは。

まっすぐに——国王を、射抜いて、いる。


「国王陛下。——此度の、この断罪。この、『正しさ』」


「——まことに。陛下、御自身の。御心にて、ございますか」





しん、と。

水を、打った、ように。広間が、静まり返る。


——誰もが。気づいて、しまった。


宰相は、ずっと。『国が』と、言って、きた。

——だが。"国"とは、誰か。


この国の、(まこと)の、主は。

あの、玉座に、座す、御方を、おいて——他には、いない。


宰相の、"力"。その、すべての、拠り所は。

——本当は。この、国王の、権威を。借りた、ものに、過ぎなかった。


「……陛下」


宰相の、額に。

初めて——うっすらと。汗が、滲む。


「お気に、なさいますな。これは、すべて。国の、安寧の、ための——」


「——っ、ま、待って、ください……!」


震える、声が。

宰相の、言葉を——遮った。


人々が、いっせいに、振り返る。

——アンジェ、だった。


一度は。

"錯乱"と、"脅迫"の、せいに——すり替えられ。握りつぶされた、声。


それでも、彼女は。

衆人の、視線に。膝を、笑わせ。声を、震わせ——なお。一歩。また、一歩、と。前へ、進み出る。


(……刀も、抜かずに。あの人は、立ち向かってる)

(——なら。わたしも。もう、逃げない)


「……国王、陛下。畏れ、ながら——発言を、お許し、ください」


胸の前で。

ぎゅっ、と、手を、握りしめ。アンジェは——まっすぐに、顔を、上げた。


「わたしは……ロザリンド様に。害を、加えられたことなど。——ただの、一度も、ありません」


「あの『証言』は——ぜんぶ。作り話、です」


ざわ、と。広間が、揺れた。


「わたしは。ずっと——あの方に。セドリック様に」


その指が。

震えながらも——はっきりと。セドリックを、指した。


「"お前は、特別だ"。"あの女を、許すな"。……そう、囁かれ。——いいように、利用、されて、いました」





「——っ」


セドリックの、涼やかな、仮面が。

ぴし、と——音を立てて、ひび割れた。


最後まで、隠し持って、いた——"聖女の証言"という、切り札。

それが、今。衆人の、前で——己自身を、指す、刃と、なる。


「ち、違う……! 私は。そんな、ことは——」


いつも、氷のように、冷静だった、その声が。

初めて——うわずった。


「——その娘の、言葉に。嘘は、ないわ」


凛と。

進み出たのは——イザベラ。


「闇に、囚われかけた者の、目を。わたくしは……誰より、よく、知って、いるの。この娘は、今——己の、足で、立った。それが、何よりの、証よ」


「俺も、見てたぜ!」


ローランも、吼えた。


「アンジェは、ずっと、苦しんでたんだ! こいつに——いいように、操られて……!」


「——私からも。はっきりと、証言、いたします」


ユリウスが、一歩、前へ、出る。


「セドリック・メルツの、数々の、策謀。生徒会長として——もはや、看過は、できません」


うっすらと、引き締まった、面構えの。

婚約者連合の、青年たちも——次々と、頷いた。


——もう。

この場に。セドリックの、嘘を、信じる者は。——ただの、一人も、いない。


ひとつ。また、ひとつと。

アルフォンスが、これまで——救い。そして、変えて、きた、人々の、声が。


今、ひとつに、束なって。

"偽りの、正義"を——打ち崩して、いく。


「……ええい!」


宰相が——吐き捨てた。


「たかが、聖女くずれと。小僧どもの——世迷い言! そんなものが、いったい、何だと、いうのだ!」


「——黙れ」





低く。

されど、広間の、隅々まで——響き渡る、声。


国王が。

ゆっくりと——玉座から、立ち上がった。


長きに、わたり。

政の、多くを、宰相に、委ね。沈黙を、保って、きた——老王。


その瞳が、今。

静かな、怒りを、湛えて——アルフォンスを、見下ろした。


「……白銀の、髪。(あか)の、瞳」


「忌み子と、呼ばれ。生まれた、その日に。——余が。その、小さな命を、抱き上げた、時」


王の声が。

どこか——遠くを、見るように、揺れる。


「あの赤子の、瞳の、奥に。——余は、確かに、見た。濁りなき、まっすぐな……"何か"を」


「——あの時、見た、ものは。やはり、間違いでは、なかったようだ」





国王の、視線が。

今度は——氷の、ように。宰相を、貫いた。


「宰相よ。——そなたは。余の、名を、(かた)り。『国の、正しさ』と、(うそぶ)いて」


「——いったい。幾人の、無辜(むこ)を。その手で、焼いて、きた」


「な……陛下。何を、仰せに、なります。私は、ただ——」


「ヴァレンシュタインの、件。——一から、洗い直す」


ど、と。

広間が——どよめいた。


「真実も、道理も、関わりが、ないと、申したな。——力こそ、正義だと」


国王は。

一歩、また一歩——玉座を、降りて、くる。


「——よかろう。ならば、宰相。その『力』とやら。今、この時を、もって。——余が、取り上げる」


「衛兵。——捕らえるべきは。そこな、宰相、メルツ。——その、ほうだ」





——一瞬の、静寂の、のち。


広間の、衛兵たちが。

今度は——宰相、メルツへと。一斉に、向き直った。


「ば……馬鹿な。馬鹿な! 私は、宰相だぞ! この国の、すべては、私が——!」


絶対の、はずだった、権力が。

その足元から——音を立てて、崩れて、いく。


——力こそ、正義。

ならば。その、最も、大きな力たる、王が。『否』と、言えば。


その理屈は。

たちどころに——己自身を、縛る、縄と、なった。


『……勝っ、た』


ひかりが、呆然と、呟く。


『刀を、一度も、抜かずに。武士さんは……あの、絶対の、権力を。——ひっくり返して、みせた……!』


静かに、立ち上がる、アルフォンスを。

ロザリンドが——涙の、滲む、瞳で。見つめて、いた。


——白紙だった、はずの、物語に。

今、確かに。


"誰にも、書けなかった、結末"が——刻まれ、ようと、して、いた。


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