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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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第32話「偽りの証文」

つかつか、と。

アルフォンスは。セドリックの、前へと、歩み寄った。


掲げられた、まま、の——一束の、書状を。

その、紅の瞳で。ひたと——見据える。


しん、と、静まる、広間。


やがて。

アルフォンスは、静かに——口を、開いた。


「——なるほど。よく、できて、おる」


「だが。——一つ。解せぬ、ことが、ある」


その指が。

書状の末尾に、押された——一つの、紋章を、示した。


「この証文には。ヴァレンシュタイン家の、印が。確かに、押されて、おる」


「ロザリンド殿が、謀反を、企てた——何よりの、証。……と。そう、言いたいので、あろう」


「——なれど」


紅の瞳が。すうっと——細められる。


「ヴァレンシュタイン家の、印は。十年前。——その家が、"謀反の咎"にて、取り潰された、折に。すべて、お上に——没収された、はず」


ぴく、と。

セドリックの、肩が——動いた。


「——では、問おう。没収された、はずの、その印が。なにゆえ、今。真新しい、証文に。押されて、おるのか」


「答えは——一つ」


アルフォンスは。

ゆっくりと——書状から、顔を、上げた。


「この偽りの証文を、こしらえ得た者は。——その、没収した印を。今なお、手元に、持つ者。すなわち——」


その指が。

まっすぐに——セドリックと。その奥の、宰相を、指す。


「——メルツ家を、おいて。他には、おらぬ」





——どよめきが。

津波のように——広間を、駆け抜けた。


「な、なんと……!」

「では、あの証文は……メルツ家の、捏造……?」

「ま、待て。ならば——十年前の。ヴァレンシュタイン家の、謀反、そのものも……?」


ざわめきが。

止まら——ない。





「——なるほど。確かに、その印は。我らが、押した」


宰相が——平然と、言い放った。


え——、と。

広間の、空気が、揺れる。

否定、しない。それどころか——認めた。


「没収した、ヴァレンシュタイン家の、印は。今、国家が、預かり、管理している。——その、国家の印を。国家が、用いた。それの、どこに——問題が、あるというのだ?」


「な……」


アルフォンスの、隣で。ロザリンドが、息を、呑む。


「そもそも、だ」


宰相は。玉座の傍らから——ゆっくりと、見下ろした。


「ヴァレンシュタイン家は——謀反人。罪人の、家だ。罪人の、財産も。領地も。その印すらも——とうに、すべて。国家の、ものよ」


「国家の、ものを。国家が、いかに、用いようと——何が、悪い?」


無茶苦茶な——理屈。

だが。"権力"の座に、ある者の、口から、出ると。それは、奇妙な——重みを、もって、響いた。


ざわ……と。

広間の、ざわめきが。——今度は。アルフォンスのほうへと。疑わしげに、揺れ始める。


『……っ、まずい』


ひかりが、息を、呑んだ。


『あいつ、偽造を、否定しない。——"罪人の財産だから、国のもの。国が使って、何が悪い"って……開き直って。ぜんぶ、正当化、してきた……!』





「——では、問おう」


アルフォンスは。臆する、ことなく。まっすぐに、宰相を、見据えた。


「お主の申し条。何もかもの、拠り所は。——"ヴァレンシュタイン家が、謀反人である"。その、一点に、ある」


「ならば、問う。——その謀反。十年前の、その咎。——それ自体が。一点の、偽りもなき、真実で、あったと」


紅の瞳が、鋭く——光った。


「宰相殿。お主は——己の、一命に、懸けて。そう、誓えるか」


しん、と。

広間が、静まる。


——セドリックなら。

あの時のように、沈黙した、やも、しれぬ。その、問い。


——だが。


「……くっ。く、くくっ……」


宰相は。

喉の、奥で——嗤った。





「……誓う? ——馬鹿馬鹿しい」


侮蔑も、あらわに。彼は、言い放つ。


「よいか、小僧。——真実が、どうした。事実が、どうした。そのようなもの。——何の、意味も、ない」


「国が、"謀反人"と、定めた。——ゆえに、奴らは、謀反人。国が、"罪"と、決めた。——ゆえに、それは、罪」


「それが——この国の、(ことわり)。"正しさ"とは——力、ある者が。定めるもの、なのだ」


ぞくり、と。

広間の、誰もが——背筋を、凍らせた。


——真実でも。道理でも、ない。

ただ、"力"だけが。すべてを——決める。


それは。

アルフォンスの、"一命に懸けた、誠"も。"道理"も。

何もかもを——せせら笑う。


絶対的な——"権力"の、論理、だった。





ロザリンドの、頬を。

伝った、涙が——途中で、凍りついた。


(……同じ、だ)

(——あの夜と。何も、変わらない。真実なんて。あの男の前では——何の、力も、ない……!)


家族を、焼いた、あの"理"が。

今、ふたたび——目の前に、聳えて、いた。


『……武士さん』


ひかりの声が、震えた。


『あいつ、理屈で、戦ってない。——"力こそ正義"で。ぜんぶ、塗り潰してくる。証拠を崩しても、道理で追い詰めても……びくとも、しない』


『……それに。——もし、ここで。武士さんが、刀を抜いて、斬りかかったら』


ひかりの声が——いっそう、強張る。


『……"力で、ねじ伏せた"ことに、なる。あいつの言う、"力こそ正義"を——自分で、証明しちゃう。……武士さんが。ほんとうの"悪"に。"破滅王"に——堕ちちゃう……!』


『理屈も。刀も——通じない。……ねえ、どうするの。武士さん……!?』





しん、と。

静まり返った、大広間。


絶対の、権力を、前に。

誰ひとり——身じろぎ、すら、できない。


その、中央で。

アルフォンスは——ただ、静かに。立って、いた。


その、紅の瞳の、奥に。

いったい、何を、見据えて、いるのか。

——まだ、誰にも、分からない。


——勝負は。

まだ、何も。決して、いない。


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