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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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第13話「学び舎日和」

学園に来て、ひと月ほど。


アルフォンスは、すっかり、学び舎の日常に、溶け込んでいた。

——というより。日常の、ほうが。彼に、振り回されつつ、あった。





魔法学の、実技の、時間。


課題は、的に向かって、己の属性魔法を、放つこと。

生徒たちが、火球だの、氷の礫だのを、放っていく中——アルフォンスの、番が、来た。


「ア、アルフォンス殿下。……その、あなたは。たしか、闇属性、でしたかな……」


教師が、恐る恐る、尋ねる。

"呪い児"は、おぞましい闇魔法を操る——そういう、噂を、警戒して。


だが、アルフォンスは。

きょとん、と、首を、傾げた。


「魔法、というものは。生まれてこのかた、使うた覚えが、ない」


『そうなんだよね……。原作のあんたは、闇魔法ぶっぱなす設定だったけど。今のあんた、魔法を覚えるより、素振りに、十年費やしてるから……』


「で、では。どうやって、的を……」


問われたアルフォンスは。

すっ、と、懐から——一本の、釘を、取り出した。


ひゅっ、と。

小気味よい音と共に、釘は、的の中心に、深々と、突き刺さる。


そして、つかつかと、的へ歩み寄ると——抜き打ちの、一閃。

的は、木っ端微塵に、両断され、地に、崩れ落ちた。


「——魔法では、ないが。これでは、いかんか」


教室が、しん、と、静まり返り。

それから、わっ、と、どよめいた。


『……"いかんか"、じゃ、ないんだよ。魔法の授業で、物理で的を破壊する人、私、初めて見た……』


「ま、まあ……的は、確かに、破壊、されておりますし……。か、可、と、します……」


引きつった顔で、教師が、頷く。

そして——生徒たちが向ける視線からは。いつのまにか、"呪い児"への怯えが消え、代わりに、隠しきれぬ憧憬が、にじみ始めていた。





昼下がりの、訓練場。


「——おい、呪い児!」


聞き慣れた、大声。ローランである。


「こ、この前のは、認めてないからな! まぐれだ、まぐれ! ……だから、その。て、手合わせ、しろ! 実力を、見極めて、やる!」


そっぽを向きながら、耳まで、赤い。

——要するに、強さに興味津々で、稽古を、つけてほしいのだ。


「望むところ。——いざ」


木刀を、構え。

ローランは、全力で、打ち込んだ。が——アルフォンスは、それを、そよ風のように、いなす。何度、挑んでも。掠りも、しない。


やがて、ローランは。

盛大に、地面に、転がった。


「……つ、つええ。なんだ、お前……くそ……悔しい……」


息を切らし、空を、睨み。

だが——次の瞬間には、むくりと起き上がり、目を、きらきらと、輝かせていた。


「お前、すげえな! どうやったら、そんなに、強くなれるんだ!?」


「基本を、地道に。——近道は、ない」


「……っ、よし! 俺も、やる! 明日から、稽古、つけてくれ!」


『……はい。また一人。原作で、物理的に令嬢を断罪するはずだった人が——弟子に、なりました』


ひかりの、乾いた呟きが、訓練場に、響いた。





放課後。

弟を迎えに来た、ユリウスが、開口一番。


「アルフォンス。今日も、息災で——」


と、言いかけ。

はた、と、口を、噤んだ。


「……む。"息災"、だと……? なぜ、私は。こんな、古めかしい、言い回しを……」


『感染してます、殿下。バッチリ。十年分の蓄積が、ここに来て、出てます』


「な……っ、わ、私は、第一王子だぞ! アルフォンスのような、古めかしい喋り方など、断じて——」


むきに、なった、その瞬間。

ユリウスの輪郭に、うっすらと、劇画の陰影が、差した。


『あ。絵柄も、来た』


「アルフォンス……! これは、お前の、せいだ! ……たぶん!」


真っ赤になって、弟を指さす、第一王子。


「はて」


当の本人は、涼しい顔で、首を、傾げるばかりであった。





夕暮れの、図書館。


ロザリンドは、いつものように、ひとり。窓際の席で、本を、読んでいた。

彼女の周りには、誰も、寄りつかない。"罪人の娘"の隣など、誰も、望まないのだ。


——だが。


アルフォンスは、ごく自然に。

その、向かいの席へと、腰を、下ろした。


「……何か、ご用かしら」


ロザリンドの声は、硬い。


「いや。婚約者が、ひとりでおると、見えてな。隣に、おっても、構わぬか」


当然のように。彼女を、"婚約者"として、丁重に扱う、その態度に。

ロザリンドは、また、虚を、突かれる。


しばしの、沈黙の後。

彼女は、ぽつりと、皮肉を、こぼした。


「……物好きね。罪人の娘の隣だなんて。あなたの評判まで、地に落ちるわよ」


アルフォンスは、本から目も上げず、静かに、答える。


「それがしの評判など。とうに、地を這うておる。今さら、何ほどのことも、ない。——それに、だ」


そして、顔を、上げ。まっすぐに、彼女を、見た。


「人の値打ちは、他人の囀りで、決まるものでは、ない。それがしは——己の目で、見たものしか、信じぬ」


ロザリンドが、息を、呑む。


(……また、この男は。こういうことを、平然と)


彼女は、ふい、と、顔を、背け——けれど。

その口元が、ほんの少しだけ、やわらいだ。


「……勝手に、すれば」


拒絶のはずの、その言葉からは。

いつもの刺が、ほんの少し、抜け落ちていた。


『……お。ちょっとずつ、氷、溶けてきてる……かも』


ひかりの、囁きを、よそに。


呪い児の王子と、罪人の娘の——何でもない、夕暮れの、ひととき。

学び舎の日々は、こうして。少しずつ、あたたかな色を、帯びていくのだった。


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