表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/43

第9話「外見など、ただの器」

王立学園での、日々が、始まった。


そして——アルフォンスは、たちまち。学園中の、注目の的と、なった。


理由は、単純。

"呪い児の王子"が、皆の想像していたものと——あまりに、違っていたからだ。


回廊を、歩く。

白銀の髪が、陽を弾いて、煌めく。紅の双眸は、涼やかに澄み。背筋は、まっすぐに、伸びて——一歩ごとに、鍛え抜かれた、静かな威が、にじむ。


「あれが……呪い児の、王子?」

「聞いてた話と、ぜんぜん違う……」

「むしろ、すごく……凛々しい方、ね……」


ざわ、ざわ、と。

すれ違う令嬢たちが、頬を染め、ひそひそと、囁き交わす。


『……ねえ、武士さん』


ひかりが、呆れたように、囁いた。


『あのさ。原作のあんた、こんなんじゃ、なかったんだよ』


「ほう?」


『引きこもって、病んでて——目の下にクマ作って、げっそりガリガリで、どよーんとした、陰の塊みたいな美形だったの。"いつ闇落ちしてもおかしくない"って、言われてたくらい』


「……それは、難儀な」


『なのに今のあんたときたら。離宮で十年、母上に愛されて、兄と稽古して、ちゃんとメシ食って、健やかに育っちゃったもんだから——』


ひかりは、深々と、ため息を、ついた。


『陰の美形のはずが、凛々しさMAXの、健康優良イケメンに、大変身。……設定、変わりすぎでしょ』


と、その時。


「——学び舎とて、武士は武士。一瞬たりとも、気を抜くまじ」


きりっ、と。

ひとり勝手に気を引き締めたアルフォンスの面が、すうっ、と——あの、眉太の、劇画調に。


「きゃっ……な、何、今の顔!?」

「さっきまで、あんなに麗しかったのに……!?」


通りすがりの令嬢たちが、ぎょっと、後ずさる。


『出たァ! だから作画! 学園でも、やるの!?』





そんな、騒ぎの、さなか。


ひとりの少女が、まっすぐに——アルフォンスのもとへ、歩み寄ってきた。


淡い、亜麻色の髪。すみれ色の、優しい瞳。纏う空気は、春の陽だまりのように、あたたかい。


『……あ。来た』


ひかりの声が、ひときわ、緊張を、帯びた。


『武士さん。あの子が——アンジェ。平民出身の、特待生。光魔法の使い手で、聖女候補。……そして』


ひかりは、ごくり、と、唾を、呑む。


『——この乙女ゲーの、ヒロイン本人。原作で、攻略対象を根こそぎ落としていく、主人公。フラグの、大本命だよ』


アンジェは、アルフォンスの前で、立ち止まると。

くもりのない瞳で、彼を見上げ——にこ、と、微笑んだ。


「はじめまして。アンジェ、です」


そして、彼女は。

周囲の、ひそやかな嘲り——"呪い児"という、囁きを、聞きとがめたように。少しだけ、眉を、寄せて。


まっすぐに、言った。


「あの。——その髪も、瞳も。気に、しなくて、いいんですよ」


「……」


「みんな、勝手なことを言うけど。わたし——とても、綺麗だと、思います。あなたの、その色」


それは。

原作で、幾人もの攻略対象の、凍えた心を溶かしてきた——伝家の宝刀。

傷を、まるごと、受け入れる。聖女の、慈愛。


——の、はずが。


アルフォンスは。

きょとん、と、首を傾げ。それから、静かに、頭を、下げた。


「——かたじけない。なれど、大事ない」


「え……?」


「それがし、己の色を、気に病んだことなど。ついぞ、ない。……外見など。ただの、器よ」


「…………あ」


アンジェの、微笑みが。

ぴたり、と、固まった。


優しく、受け入れた、はずが。

受け入れられる、前に——「気にしておらぬ」と、さらりと、流されて、しまった。


ふつう、ここで。

相手は、「君は……他の者と、違うのだな」とか。「初めてだ、そんな風に言ってくれたのは」とか、零して——ぽっ、と、頬を、染めるはずで。


なのに、目の前の王子は。

ただ、涼しい顔で、立っている。


「……えっと。は、はい……」


アンジェは、すっかり、調子を、狂わされて。

所在なげに、視線を、さまよわせた。





『…………うわぁ』


その一部始終を、見ていた、ひかりが。

がっくりと、頭を、抱えた。


『なんも、起きない……。ヒロインの、必殺イベントだよ!? "傷の受容"だよ!? 原作なら、ここで好感度、ドカンと上がるやつ!! なのに——完っ全、不発!!』


「うむ? 何か、まずいことでも」


『まずいっていうか……いや、フラグ折れてるから、こっちは大助かり、なんだけど!』


ひかりは、肩を、落として。


『……正直さ。ロザリンドの時は、あんた、ちょっと"強さ"に、感心してたじゃん。だから——ヒロイン本人が相手なら。さっすがに、ちょっとくらいは、何か起きるかも、って。思ったんだよ、私も』


そして、ぼそり、と。


『——びっくりするくらい、ゼロだった。執着ゼロ装甲、ヒロインの主人公補正にすら、ノーダメージ』


涼やかな顔で、ただ首を傾げる、白銀の武士を見上げて。

ひかりは、もう一度、深い、深い、ため息を、ついたのだった。


——乙女ゲーの、主人公が。

攻略に、失敗した。


そんな前代未聞の珍事が、誰にも気づかれぬまま、ひっそりと起きた、一日であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ