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ベルタ戦記 〜整備長が整備を辞めるとき〜  作者: 谷橋ウナギ


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第十一話 『狭間』


    1


 殺人行為を讃えられし者。市民は彼らを英雄と呼んだ。

 礼装に身を包み頭を垂れ、精緻なる勲章を贈られる。リゼット陛下の手で直々にだ。これほど名誉なこともない。


 ファルファリア南部での戦いが小康状態になって数日。結果は公平な視点で見ても、エイデン軍の大勝で終わった。

 追い詰められていた【反乱軍】は士気も低く、戦力でも劣った。その上著名なエースも死亡し、撤退を余儀なくされたのである。


 その後も、脱走やエイデン軍に投稿する兵士が増えている。直ぐ消滅すると言うことはない。だが、持ち堪えるのも困難だ。


 この結果にラーズは寄与をした。ゴードンの殺害が特にである。よって王国から表彰された。勲章も得た。昇進も果たした。


 ラーズ“中尉”が今の階級だ。喜ぶべきことではあるのだろう。だが、ラーズの顔には笑顔はない。黙々とナイフを木に当て削る。


「……」


 ここはバレザントから宛てがわれた軍人としてのラーズの個室だ。

 と、言っても大したものはない。ベッドと机、個人用パソコン。後は木屑のためられたゴミ箱。ラーズの彫った木と、彫る前の木だ。


 木を彫っているときは何もかも、嫌なことは忘れて打ち込める。などと言うことは決してない。しかし何もしてないよりマシだ。

 最初は切り出されたそのままの木の塊に見えるこの木材。そこにナイフの刃を当てがうことで、人にとっての意味を付与してゆく。


 だが、この瞑想にも似た時間も無限に続けるのは不可能だ。呼び出しブザーが鳴り響き、ラーズはナイフを置いて立ち上がる。


「どなたですか?」


 そしてインターホン。その前に立ち、外を窺った。

 インターホンにはモニターがあって、カメラにより外の様子がわかる。ボタンを押すことで会話もできる。そこにいた意外な二人組とも。


 マリアとソフィア。どのような経緯で合流したか全くの不明だ。年齢は近く、性別は同じ。共通点はその程度であろう。


「マリア・アキレウス大尉です」

「ソフィア・グルーマン伍長であります」

「お待ちください。直ぐに向かいます」


 その二人を確認したラーズは通話を切って玄関に向かう。

 ソフィアはともかくマリアは上官。インターホンでは失礼に当たる。


 鍵を外し玄関のドアを開け、ラーズは二人組を出迎える。


「おはようございます。大尉。伍長。今日は……どのような要件でしょう?」


 そしてシンプルに二人へと聞いた。

 二人がラーズを訪ねる理由にラーズは見当すらつかなかった。


 片方だけなら理解はできる。マリアは同僚。ソフィアなら部下だ。軍務や機体の整備のことなど、ラーズに伝えることもあるだろう。

 だが、二人に接点などはない。出会ってまだたった数日である。意気投合した可能性もある。が、それでもラーズは訪ねない。


 と、いうラーズの疑問に対し、ソフィアの方が端的答えた。


「受勲と昇進をされた中尉に、お祝いの言葉をと思いまして」

「あの……私もです。ラーズ中尉」

「大尉とはそこで会ったのですが、せっかくですので一緒にきました」


 マリアがそのソフィアに同意して、ソフィアは追加して経緯を話す。


 筋は通っている、ようにも思う。だがラーズは納得していない。

 納得していないことは確かだ。しかし、邪険にできるはずもない。


「わかりました。では、とりあえず中へ。お茶くらいは出せると思います」


 一人で考えたい時である。しかし、それはラーズのエゴである。

 ラーズは未熟な人間でもあり、他者から学ぶことは数多ある。


 こうしてラーズはマリアとソフィアを自らの棲家へと招き入れた。

 とは言っても兵士の持ち部屋だ。流石に広いと言い難い。客間や食卓など存在せず、広めの寝室がそれらを兼ねる。


 その寝室すら使って数日。独自の家具などはあるはずもない。


「「お邪魔します」」


 それでも二人組は入って即、違いを認識した。

 特にマリア。ラーズの領域に、彼女を入れたのは初めてである。


「なんだか木の香りがいたします」


 そのため、マリアが見回し言った。

 一方、ソフィアは以前から部下だ。ラーズの持つ特技を知っていた。


「おー。新作いっぱいありますね」

「整備士時代の私物は無くした」

「え!? もったいない気がします」

「銃殺されないだけマシだった」


 めざとく彫り物を見つけたソフィア。ラーズは彼女に返事を返した。

 備え付けられた座布団を取って、床に三枚並べて置きながら。


 マリアとソフィアはその上に座り、ラーズは台所で湯を沸かす。

 そしてラーズも寝室へと戻り、ようやく話しをする基礎ができた。


「で、祝いたいと言うことでしたが……」

「そうでした! おめでとうございます」

「感謝します。ただ私の仕事が賞賛に値をするのかどうか」


 マリアの賛辞にラーズは答えた。

 賛辞は極々真っ当なものだ。実際ラーズは昇進している。ただ彼女が想定するよりも、ラーズの苦悩や葛藤は深い。


 ソフィアの方は直ぐに気がついた。付き合いが少し長いこともある。


「んー。もしかしたらですけれど、ゴードン中佐と知り合いでしたり?」

「伍長。どうしてそう思う?」

「何だか少し落ち込んでいるなと」


 鋭い観察眼である。整備士には有意な能力だ。

 ソフィアは人としてはともかくも、整備士としては有能と言える。


 問題はその有能な彼女にラーズはどう対処をするべきか?

 誤魔化しなどは直ぐに見抜かれる。正直なことにもリスクはあるが……。


「確かに、一日限りではあるが中佐と話をしたことがある」

「一日だけですか?」

「たまたまだ。職務で接したわけではなかった」


 とにかくラーズは誠実に述べた。

 誠実さは大事だ。何者も、誠実であるよう努めるべきだ。


 ラーズはそれを体現してみせた。故にこそ、他者にも要求できる。


「伍長。気遣い感謝する。しかし、一つ聞きたいことがある。今日、訪ねてきたこと。聞いたこと。それは君の意思だけによるものか?」


 ラーズは反撃とばかりに聞いた。

 本来聞くつもりはなかったが、話を逸らしたい思惑もある。ゴードン中佐の思い出は傷だ。葛藤するにしても一人が良い。


 そんな思惑の発言だったが、瓢箪から駒が出る事もある。


「実は、少将に頼まれまして。中尉から情報を得るように」

「それは……正式な命令か?」

「はい。たぶん。そのような感じかと」


 ソフィアはあっけらかんとそう返す。

 ラーズは衝撃を禁じ得ないが。


 少将が自分を探った事も。ソフィアが簡単に明かした事も。ラーズにとっては理解に苦しむ。ラーズならば取らない行動だ。


 そしてそれはマリアも同じらしい。ソフィアの隣であたふたしていた。

 しかし、それでラーズも納得した。かつてのマリアの行動について。


「マリア大尉はご存知でしたか?」

「いえ。私はその、そんなことは……」


 マリアは頭のいい人物だ。だが、嘘をつくのには向いていない。

 彼女も同じ命を受けていた。そう考えたなら説明がつく。配属当時の親しげな態度。少将が話をさせた事もだ。


 そして今も、露骨にあわてている。肯定を得るまでもない事だ。

 しかして疑問は尽きることはない。ラーズにはまだ問うべき謎がある。


「では伍長。仮に君の言うことが真実だと言う前提で話す。君は何故それを私に言った? 少将は何故、私を調査する?」

「『整備士は誠実にあるべし』と、整備長から叩き込まれました。それに口止めもされていませんし。あ、これは一つ目の答えです」

「二つ目は?」

「私も謎ですね。一応、推測は可能ですけど」


 それに対してもソフィアは返した。すらすらと。嘘の兆候などない。

 それはそれで驚くべきことだが。ソフィアはラーズの謎を知っている。本人すら預かり知らぬこと。知るべきかも判断できぬことを。


 しかし、ラーズは既に問うている。よってソフィアはラーズへと話した。


「グルルドに登用される直前、少将から質問されました。ラーズ中尉の乗っているハウンド──ヴェインについて何か知らないかと」

「ヴェインに何かある?」

「おそらくは。私は詳しく知りませんけども。整備マニュアルは読みました。それ以上、特別なことは何も」


 ソフィアの言ったことは推測だ。彼女自身前置きしたように。

 とはいえラーズにも納得できる。ラーズにもヴェインの出自は謎だ。正確には詳細を知らされる──その前にファルファリア軍は負けた。


「私も『実践データを集める』。聞かされたことはそれだけだ。そもそもが罰として乗せられた。見込みの薄い試作兵器だと……」

「それにしてはしっかりしすぎです」

「指摘されると返す言葉もない」


 ソフィアの指摘は真っ当だ。ラーズが証明し続けたことだ。

 事実としてラーズは生きている。ラーズも認めることしかできない。


 それにしても、ラーズは考えた。ソフィアは賢く信頼もできる。まだ早計かと考えていたが、相談するのも良いかもしれない。

 ラーズはラーズなりに考えた。この先も生き残る、その術を。


 ヴェインはソフィアの指摘した通り、高性能機体と言っていい。が、ラーズは満足していない。可能な限り、生き残るために。


 そのためラーズは立ち上がり、机の引き出しから取り出した。自ら印刷した紙の束。短時間で練り上げた計画を。

 そして、それをソフィアに差し出した。彼女の意見を取り入れるために


「これは?」

「ヴェインのカスタムプランだ。伍長。君の考えを聞きたい」

「では……少々お待ちくださいね」


 ソフィアはそれを手に取ると即座にページを開き閲覧を始めた。

 横に座るマリアも覗き込む。ラーズがそれを止める意味もない。


 内容は隠すべきものではなく、むしろ共有されるべきものだ。

 ただし、改修が行われるのか──それはまだ決まったことではないが。


 改修が実施されるには、少将の認可が必要である。だが、これはまだ提出していない。あくまでラーズ個人の計画だ。


 ソフィアはある程度それを読み込み、ラーズ対して感想を返す。


「プランは二つ……と、言うことですね。Aプランは武装の追加だけ。是非はともかく簡単に済みます。ただBプランは大掛かりですね。それにこのカスタム。ジル大尉……」


 ソフィアの反応はネガティブだった。

 しかして想定した反応だ。二つ目のプランは普通ではない。常人のためのカスタムではない。


 機体の各部に高い出力のスラスターを多量に設置する。それがラーズの立てたBプラン。ラーズが必要としているものだ。


 スラスターは噴射をすることで、機体を移動させる装置である。それはヴェインにも装備されている。ただし、適当と思われる数が。

 不要なスラスターを増やしても、パイロットが混乱をするだけだ。だが、使いこなした前例もある。ラーズはその兵士を知っている。


 逆にいえば知らない人物は、より奇怪に捉えることだろう。マリアが懸念を表明してくる。それもまたラーズの予想の通り。


「こんなにスラスターを増やしても、使いこなすのは難しそうです」

「前例がないわけではありません」

「本当ですか!? それは凄いです」


 マリアの感想に間違いはない。通常、考えられない兵器だ。

 しかし事実存在しているし、ジル大尉は自在に操った。


 そのジル大尉が敵にいる以上、ラーズも考えなければならない。


「まだただの紙の段階ではある。だが伍長、気には止めていて欲しい」

「了解です。熟考してみます」

「感謝する。では、お茶を淹れてくる」


 ラーズは言うと沸かした湯を使い、インスタント式の紅茶を入れた。

 対価がこれとはどうかと思うが、今振る舞えるのはこれだけだった。


    2


 ラーズがラーズで二人の仲間と対策を練っていたその当日。上司であるミネルヴァ少将と、その部下達も集い話していた。


 こちらは正式なる軍務であり、その場は特別なる会議室。ミネルヴァとアインと、そしてダグとは大型のモニターを凝視する。そこでは先日行われていた、戦闘の映像が流れていた。


 正確には、ラーズの駆るヴェインがゴードン機を仕留める少し前。ゴードン機が発射したロケットをヴェインが撃ち落としたシーンである。


 それが繰り返し流される。大事な場面ということだ。少なくとも、ミネルヴァが見る限り。故に、このメンバーを集めていた。


 ダグとしては不思議に感じたが、映像を見て考えが変わった。

 そのダグにミネルヴァが問いかける。無論、流れる映像についてだ。


「ダグ。この感想を聞かせてもらう」

「感想も何も、こいつは事実で?」

「従軍記者の特種だ。偽物ということはないだろう」


 ダグの感想も尤もだ。しかし、ミネルヴァは確信していた。この映像に加工などはない。原液だからこそ問題がある。


 一眼見てダグもそれに気がついた。よってダグも、その点を指摘する。


「そうは言われても、早すぎる。敵が構えてから発射するまで」

「中尉曰く『見て気が付いた』。で、発射の直後に落としたと。あの機の装備は知っていた。だから、気づくことができた……らしい」

「いやいや。知っていても早すぎる。こりゃ敵さんが不憫に思えます」


 ダグの意見を噛み砕くとこうだ。

 仮にだ。ラーズが敵のハウンドの武装を知り尽くしていたとして。それでも、ロケットのつけられている左手の動きは自然なものだ。それを見て意図を判別し、即座に対応して撃ち落とす。あまりにも時間が不足している。不可能と感じる──それほどに。


 対してアインが推論を述べる。映像を一時ストップしながら。


「やはり機体に何かあるのでは?」


 アインは悩みながらそう言った。

 だが、その論には問題が残る。ダグが考える限りに於いては。


 金髪で切れ者のアインだが、彼の職務はパイロットではない。それ故、発言には穴がある。

 ダグは直ぐにその穴を指摘する。


「機体でどうにかなるものか?」


 ダグは説明に喩えを用いた。


「荒野の決闘でもあるまいし、反射で先に撃てるもんじゃない。ましてや判断して撃ち落とす。発射直後にだぞ? 無理だろう。どんな機能がありゃあんな芸当、できるのか……あるなら教えてくれ」


 パイロットならば知っている。ハウンドの仕組み。操縦の仕様。

 機体と操縦者のやり取りは、ナノマシンを介して行われる。ナノマシンを伝わる信号は、一瞬ではあるが即時ではない。


 人体と同じだとしても、最速で0.1秒かかる。そこに思考、機銃の発射機構、それぞれ一瞬の時間を加算。最終的には数瞬遅れる。結果、迎撃は間に合わなくなる。


 人には瞬きの時間ではある。しかし、戦いでは生死を分ける。その時間を縮めるのは不可能。それはアインにも伝わったらしい。


「確かに。私も思いつきません」

「いや。わかりゃ良いんだ。熱くなった」


 それはそれとしてダグは謝罪した。

 実のところダグは怒っていない。この感情は──いわゆる恐怖だ。

 存在し得ないものを見た。それによりダグは恐怖を抱いた。


 そのダグにミネルヴァが問うてくる。それを成し遂げた人物について。


「貴様はラーズをどう思う?」

「真面目な兵士と思います」

「特別なところは?」

「いえ何も。これ以外は特段、ありません」


 しかしダグには思い当たらない。

 付き合いが短いというのもある。が、それを引いても普通ではある。怪しんだことも特にない。過去話も聞いたが自然である。


 ただしミネルヴァは知っている。何かある。彼女はそれを明かす。


「奴のハウンドは特別だ。ある計画で作られた機体だ」

「計画?」

「シャーマン計画という。ファルファリアの極秘の計画だ」


 ミネルヴァはダグにそう言った。苛立ちとも感じられる態度で。

 彼女はその計画を追っている。だが、把握するには至っていない。


「関係者の多くは消え去った。元大統領に聞いても知らん。残された証拠はハウンド数機。その一つがヴェインと言うことだ」


 そしてそのヴェインがラーズと共に戦場を駆け、戦果を上げている。

 おそらくそういうことだろう。何かあると誰でも考える。


「ダグ。貴様に仕事をくれてやる」


 そこで──と、いうべきか。ミネルヴァがダグへと命令をした。


「これより戦場では奴と組め。より近くでラーズを見極めろ」

「楽しい仕事じゃないですな」

「拒否するか?」

「いいえ。やりますよ」


 断る選択肢はダグにない。

 仲間を探るは不愉快だ。だが、やらねばならない時もある。


 それにだ。ダグにも興味は湧いた。謎の計画と、ラーズについて。


「ちなみにボーナスは……?」

「くれてやる」

「どうも。やる気が湧くってもんです」


 ダグは笑顔で親指を立てた。

 内心は複雑であろうとも。


    3


 戦争は何の前触れなどなく突然始まったようにも見える。だが、それは大いなる間違いだ。全ての物事には因果がある。


 クロ・ブルーバードはとある個室で、その因果の一端を垣間見る。

 どの基地にもある狭い部屋。それでも個室であるだけマシだが。クロはその部屋に置かれたベッドで、寝転がりながら彫刻していた。


 木にナイフを当てがい指で押し、目的の形へと近づける。しかし、その手つきはどこか危うい。怪我するというほどでもないのだが。


 クロも軍人である以上、ナイフの扱いには慣れている。だがそれはあくまでも武器として。彫刻刀代わりは無理がある。


 結果、作品も哀れなり。デフォルメチックと成り果てた。


「ふーむ。彼のようにはいかないな」

「可愛い鳥だと思います」


 そこに現れた彼の部下、ベイトが無慈悲にそう言った。

 素直な感想なのだろう。が、クロとしてはやや不服である。


「かっこいい鷹のつもりだが?」

「贔屓目に見ても鳩ですね」


 そこで主張してみたのだが、しかしてベイトは譲らない。

 まあ、実際彼が正しいだろう。それに今は他に聞くことがある。


「で、ベイト君。何か用事かな?」

「ええ。新たな指令が下りました」

「暗殺とかじゃないと良いけどね」

「移動です。今のところは……ですが」


 疑問に対するベイトの答えは微妙に歯切れが悪かった。

 その様子を見れば推測できる。素敵な話でないことは。


 よって、質問を追加する。組織の真意を得るために。


「場所は?」

「ジーガルド地上基地です」

「エイデン国境付近だな」

「よくご存知ですね?」

「こう見えて、結構真っ当な軍人なのさ」


 クロは告げると身を起こし、木でできた鷲を手放した。

 そしてナイフを回しつつ、瞬時に思考を巡らせる。


 元ファルファリアの土地でなく、エイデンの側に待機する。その目的なら思いつく。いくつかだ。そこから絞り込む。


「エイデンへの特殊な作戦か。もしくは単なる侵攻か……」


 状況を見れば判断は可能。判断をしておく必要がある。


「ベイト君。普通の兵達は?」

「国境沿いに集められています」

「我々だけではないんだな」

「ええ。そうです」

「だったら大事だ」


 クロはナイフを停止させ、鞘に収め、再び寝転がる。

 侵攻作戦だと言うことだ。それも、おそらくはとても大規模な。


「ほんと、碌でもない世の中だ」

「クロさん。準備をお願いします」


 ベイトが寝転がるクロへと告げる。


 命令なら仕方がないことだ。軍人であれば知っている。

 しかし叶うなら一瞬でも良い、不貞寝に興じたい気分であった。


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