下水を飲み干したドブネズミ
「・・・ァ(間違い、ねぇ・・・ッ!インフェルのおっさんを殺ったのは)」――
その時、ダンはとうとうとんでもない存在と鉢合わせてしまっていた。
前方の姿を視認したワンテンポ後、ダンはこれまでの傭兵キャリアの中で感じた事がない程のプレッシャー、そして武者震い半分恐怖半分という震えが身体的反応としてダンに表れ出ていた。戦士が感覚的にはかるような前方の圧倒的オーラを目の前にすると、多汗と手のそうした類の震えが嫌でも出てくる。それと同時に口が大きく開いたまま硬直していた。
「・・・フンン・・・フンン・・・フンン…」
その時、ちょうどロングソードの柄を両手で逆手持ちにした形で、杖のように自身の前地面に差し込んで体重を預けて片膝をついた体勢をとっていた「聖堂」は、大きく肩で呼吸していた。
悪魔を滅ぼしたのち、「聖堂」はあれから数百メートルほど移動したが、そこでついに開いていた傷口からの出血が止まらなくなってしまい「聖堂」は上述の体勢になって結構しんどそうに休憩していた真っ最中だった。しばらく休憩していたのを表すかのように片膝をつく「聖堂」の足元には少し血だまりが広がっているのが確認できる。
出血は水漏れのように一滴一滴だが激戦を経た後の影響からか今の所止まりそうになく、またインフェルの死体から直線移動でないにしろ、たった数百メートル歩いただけでここまでなので、かなり状態が心配される様子というのが見るからに伝わってくる。一方、上述の片膝のつき方はカッコよさが感じ取れる。
「・・・・・・」ガチャン
直後、後方からの気配と視線を感じ取った「聖堂」はそこで振り返る。
振り返ると、上の状態で突っ立っていたダンがいた。もちろん「聖堂」にとってはまた現れた名もなき敵で、「聖堂」はすぐに戦闘モードのスイッチを入れたのかそこで肩の呼吸をピタッと止めてゆっくりと立ち上がり始める。
同時に全身を振り返させながら、完全に立ち上がると「聖堂」は少し立ちくらみを見せるが、先前方のダンと見合う形になり対峙する。
ガチャン、バシッキィィィフォォォン「悪魔の次は・・・・・・・・・”下水を飲み干したドブネズミ”か。・・・弱いな」
そこから「聖堂」は地面から抜いたロングソードを片手にとると構えを作りながら、先のダンをじっと捉えそう呟いた。教会勢のお約束である、出会った敵の名づけ論評だが、言い換えるとダンは”底辺社会の覇者/王”という程度で、明らかその放つオーラから格下だと見下していたといえた。(先がインフェルだっただけになおさらで)ダンほどの実力者を”弱いな”と言い切れる世界最強レベルの「聖堂」のこの凄み。一方で、確かに実力差は概ねその通りなのだろうが、今あえて口に出すのは少し自分を鼓舞するような強がりにも捉えられる。
ガチャン「・・・この程度ならば迅速に終わらせてやろう。教会の光は、我が剣と共に有り・・・!」プシュィィィィイイン…!
ワンテンポ後、「聖堂」はそうした余裕のある発言とは裏腹に、どことなく焦る感じですぐにロングソードを上に掲げてビームソードへと変えた。ややいつもの一連の動作とは省略気味でやはり止まらない出血の中、すぐに終わらせようという思考が滲む。
病み上がりからインフェルとの激闘を経て、今から始まろうとしているダンとの戦闘に挑むこの時の「聖堂」はここまでを振り返るまでもなくあまりにも状態が悪い。
もちろんダンの方も私兵戦~セバーロレス戦までの戦いを経ているので万全の状態ではないが、比較して「聖堂」の方が断然現状態が悪いのは確実といえた。
――(こいつだ・・・ッ!)
そうした「聖堂」の構えを目にしながらダンはそう強く思ったのだった。
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―エリアF―
少し前。
「・・・チッ、さっきからもう小粒のザコにしか出くわさねぇ・・・こりゃあ、そろそろこの戦場もお開きだな」
その時、ダンはそうした小言を呟きながら歩いてエリアFに入ってきていた。※ep.265の後、ダンは適当にしばらくうろついて遭遇した私兵たちを狩っていたのだが、ダンが口にする通り一度に出くわすのが一人、二人といった数で頻度も低い、開戦当初に比べると明らか戦場全体が盛り下がってきていると実感できる場面があった。
その時。
ドゾッ、ドゾッ…「・・・・・・?すげぇな。誰だ・・・?ここまでやれんのは」
そんな感じでエリアFに入ってきたダンは、そこで周囲の景色に目をやる。吹き飛んだ倉庫群などあまりにも破壊された残骸の痕が広がっており、思わずダンはそう口にしていた。
ドゾッ、ドゾッ…
そして、そこから少し歩いていくと、ダンはぽつんと佇んだままの物陰を遠くから見つける。
見つけるとダンは自然とその近くまで歩いていく。
そして、ついに見てしまう。
ドゾッ、ドゾッ・・・!「おい、マジかインフェルのおっさんって死ぬのかよ・・・ッ!!」
そう、ほぼ正座したままの胴体とそこから斬り離されて人生最高の凶悪笑顔のまま生首姿になっていたインフェルの死体だった。
そんなインフェルの死体を間近で見下ろして捉えた瞬間、ダンは結構驚く口調でそう言っていた。ただここでの驚きは親しかった・交流のあった人物(自身の古くからの先輩)が死んでいたという現象自体にではなく、インフェルという存在が死んでいたという事に対してかなり驚いている反応といえた。
傭兵という職業柄、親しい人物が死んでいようが実際の所これといって特に驚きはしない。ただ、自分の中で最強の人と認める人が戦場において今こうして目の前で、インフェル”が”死んでいる事にダンはかなり驚いていた。
「・・・・・・」ドゾッ、ドゾッ…
ワンテンポ後、ダンは案外余韻を残さないあっさりとした感じで再び歩き出して、インフェルの死体からどんどんと離れていく。ただ、呆然とした感じの表情は歩いている間も抜けなかった。
そうして、ダンはエリアF内を進んでいき、特に目的もなくまだ無事だった倉庫群の方に向かって行った。
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ガチャゴオオォォン!!ドゴオォン!「・・・・・・ハ、ハ、ハ、ハハハハッ!おもしれぇ!やってやるよッ・・・!聖騎士野郎ォ・・・!」
否応なく「聖堂」と出くわしてしまったダンは次の瞬間には、恐れながらも笑い始めて勢いよくクレイモアを抜いて構えると、戦闘態勢に入る。凶悪に見開いた両目で「聖堂」を捉えたダンはそう勢いよく言い放っていた。ダンも傭兵歴が長いので装備を見ればだいたい戦士の職業(戦士の嗜好性)がわかる。
ガチャン「・・・ドブネズミ如き。到底私の次元に届いていない」
そうして両者完全に戦闘の構えを見せた直後「聖堂」はそう言いながらいきなり開幕「サンクタ・イリス・ルミナ(雷ver.)」を発動していく。




