プロローグ
「……もっと気持ちよくさせていい?」
低く、耳元で囁かれる。
私の目の前で、彼はゆっくりと髪を一房すくい上げながら、
アイスブルーの瞳が、まっすぐに私を射抜いた。
その日は、今までの人生で一番雨の降った日だった。
外は滝のような雨音に包まれている。ここは神殿の中。
通称、『番契約の間』。
番となる男女だけが足を踏み入れることを許された、閉ざされたこの部屋に私たちは駆け込んだ。
彼の手によって脱がされた湿ったローブや服が部屋に散らばっている。雨に濡れて冷えていたはずの体は、彼の手によってすぐに熱を帯びた。
ベッドの上で、全裸になった私と、少し前を乱しただけの彼。
——こんなふうになるなんて、知らなかった。
…もう、息がうまくできない。
これまで散々鳴かされて必死に耐えていると言うのに、これ以上何をすると言うのか。
触れられるたびに、身体が勝手に反応する。熱が、逃げない。どこに逃げればいいのかも、もうわからない。
目の前にいるこの男は…
——現代最強の魔術師。
アイヴァン・シュトラール・フォイエルシュタイン。
サラサラとした銀髪の髪に、白い肌。スカイブルーの大きな瞳に、スッと通った鼻筋。
誰よりも強くて、誰よりも冷静で、誰にも触れさせないような存在のはずなのに。その男が今、目の前で、わずかに呼吸を乱している。ほんの少しだけ、余裕を崩して。
視線が絡みつく。
いつの間にか服を脱いだ彼が、逃がさないとでも言うように両膝を掴む。
「……ほら」
落ちてくる声は、どこまでも優しい。
そのまま、逃げ道を塞ぐみたいに距離を詰めてくる。もう、後には引けない。
「……もう少しだけ、先までいってもいいよな?」
「……ねぇ、ちょっと待って」
「……あ?」
「そんなの……どうして入れようとするの?え、なにそれ。そんなの入るわけないじゃん!」
一瞬の沈黙。
くつ、と小さく笑う気配。
「……嬉しいこと言ってくれるよなぁ」
からかうような声音。なのに、距離はまったく変わらない。
「ま、もう無理なんだけどね」
耳元で、低く囁かれる。
「……こっちも限界」
ぞくり、と背筋が震えた。
「……俺も、もうやめれねーとこまできてるってこと」
くつくつと笑う、最強の軽い声音。
——なのに。次の瞬間、すっと表情が消えた。射抜くような視線。
それはまるで、獲物を狙う猛獣みたいで——
「……もう戻れねぇけど、それでもいい?」
低く、確かめるように逃げ道を残した、最後の一言。
心臓が、うるさい。怖い。それでも——
私は、ほんのわずかに頷いた。その瞬間。
お腹の奥――さらにその下に、これまで知らなかった違和感が走る。息が止まる。
どこかで、荒い吐息が混じる。
それが彼のものと気づいて、心臓が跳ねる。
「あっねぇっ……待って……っ」
こぼれた声は、もう抑えられなかった。
「……もう待てない」
低く、かぶせる声。
距離が、完全に詰まる。
刺激が触れられるたびに、思考がほどけていく。
——こんなの、知らない。
何もかもが、初めてで。
何もかもが、逃げられなくて。
そこから先は——まるで、知らない世界だった。
——こうして、二人の番契約は成された。
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