表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
96/100

決闘 その2

 「先鋒前へ!」

 審判の声が第一闘技場に響き渡る。

 Dクラス側の先鋒として闘技場へ足を踏み入れたのは、陽翔だった。

 観客席からざわめきが起こる。

 「アイツか……」

 「適性検査で測定器壊した奴だろ?」

 「適性も全部Sランクってヤツだ」

 「でも、Dクラスなんだよな」

 「ああ、ダンジョン攻略授業じゃあ、練習用の罠に引っ掛かったヤツだ」

 「ダメじゃん」

 「でも、あいつのいたチームは総合成績で1位なったんだよ」

 「どういうことだよ?凄いのか凄くないのかどっちなんだよ」

 様々な声が飛び交う。

 

 その一方で、Aクラス側の先鋒もゆっくりと姿を現した。

 銀縁のモノクルをかけた細身の青年。

 落ち着いた足取りで中央へ進み出る。

 「Aクラス先鋒、アルベルト・フォン・アイゼンベルク」

 審判が名を告げる。

 その名前に観客席の一部がざわついた。

 魔法研究で名高いアイゼンベルク侯爵家の次男。

 Aクラスの中でも魔法戦を得意とする実力者だった。


 セコンド席。

 リオンは腕を組みながら静かに二人を見ていた。

 隣ではセラフ、シエラ、セリナがそれぞれの反応を見せている。

 陽翔は向こうで軽く手を振っていた。

 まるで遊びに来たかのような態度だった。

 「本当に大丈夫なんでしょうか……」

 セラフが不安そうに呟く。

 「わからん」

 リオンは即答した。

 「わからんって……」

 セラフが困ったように眉を下げる。

 リオンはため息をつく。

 「仕方ないだろ。この一か月、あいつは勝手に別メニューで特訓していたんだから。どんな特訓をしているのか聞いても、本番のお楽しみとか言って、詳細を教えないんだよ」

 「サボってただけなんじゃないのか?」

 シエラはいぶかしむ。

 「フフ……」

 セリナが薄く笑う。

 「我も同意見だ。おそらく、秘密の修練などではなく、ただ怠惰を貪っていただけだろう」


 「イヤ、それはない」

 リオンは即座に否定する。

 「毎晩、遅くに帰ってきて、訓練服もボロボロになっていたからな。魔法杖の調整のために何度も魔道具制作室に足を運んでたみたいだし……サボっていたわけではないんだろけど……」

 「サボっていたわけではないなら、問題ないのではなくて?」

 「イヤ……どうも嫌な予感がするんだよな……」

 「フフ……心配し過ぎです。『この決闘に賭けている』と言った時の彼の目に嘘はありませんでした。信じましょう」

 セラフは穏やかに微笑む。

 「ルーメン教の教義にもあります。信じる者に女神は道を示し、迷う者にも救いの光を与え給う。と、真に信じる者には、必ず女神の加護があるのです」

 「……だといいんだけどな」

 リオンは小さく呟いた。


 「先鋒戦、開始!」

 審判の声が響き、先鋒戦が始まった。

 闘技場中央へ進み出た陽翔は、肩を回しながら対戦相手を見る。

  一方、アルベルトは静かにモノクルへ手を添えた。

 「では、まず確認させてもらおう」

 モノクルが淡く光る。

 青年の眉が僅かに動く。

 「……ほう」

 もう一度確認する。だが結果は変わらない。

 「なるほど」

 モノクルを押し上げる。

 「測定不能か」

 観客席がざわつく。

 「測定不能?」

 「どういうことだ?」

 青年は陽翔を見る。

 「魔力量測定器マナ・ゲージ・コアを破壊しただけのことはある。君の魔力量は、この魔導解析鏡アルカナ・モノクルでも測定できないようだ」

 「おお!」

 陽翔の目が輝く。

 「なんだそれ!?」

 「魔導解析鏡アルカナ・モノクルだ。魔力総量、魔力流動、発動魔法の解析を行う魔道具だ」

 「マジか!かっけー!」

 陽翔が前のめりになる。

 「スカウターみたいじゃん!」

 「……スカウター?」

 アルベルトが困惑する。

 「なあなあ!」

 陽翔は興奮した様子で続ける。

 「測定不能になったら爆発したりしねえの!?」

 「するわけないだろ。そんな危険な物を目につけると思うか?普通にエラー表示が出るだけだ」

 「えー、つまんねえの」

 陽翔が露骨にがっかりする。

 「……何を言っているんだアイツは」

 リオンは額を押さえた。


 「君の噂は聞いているよ。魔力量測定器マナ・ゲージ・コアを破壊するほどの魔力を持ち、そしてすべての適性がSランク……」

 「おうよ!すげーだろ!」

 陽翔はどや顔で胸を張る。

 「しかし、その膨大な魔力をまともに制御できず、魔法を暴発させるため、実戦的な魔法運用は困難。言動は軽率。ダンジョン攻略授業では初歩的な罠に引っ掛かり、仲間の足を引っ張った。その後の成果を、まるで自らの手柄のように吹聴するなど――」

 一拍。

 「品性に問題がある人物だと聞いている。俗な言い方をすれば、クズ野郎という評価だ」

 「なっ!?酷い!誰だ!?そんな悪意100%の情報流した奴は!!?」

 「イヤ、九割事実だろ」

 リオンが突っ込む。

 「なっ!?」

 陽翔が振り向く。

 「いや、確かに練習用の罠に引っ掛かったり、多少話を盛っちゃったりはしたけど……!」

 「「「「多少?」」」」

 リオン、セラフ、シエラ、セリナの四人が、呆れた顔で声を揃えた。

 「うるせーよ!」

 陽翔が顔を赤くする。

 「最後はちゃんと活躍しただろうが!」


  アルベルトは静かに口を開く。

 「しかし、君が結果を残したのは剣術戦だったと聞いている。ならば、なぜ魔法戦を選んだ?しかも、相手を指定せずに」

 モノクルが光る。

 「決闘規定では、下位クラス側にルール選択権がある。つまり君は、自ら魔法戦を選び、なおかつ対戦相手の選定をAクラスへ委ねた。そうなれば、僕のような魔法戦特化の生徒が選ばれるのは明白だ。それを理解していなかったとは言わせない」

 陽翔はニヤリと笑った。

 「リオンはさー、『お前にはまだ早い』とか言って、剣術ばっかやらせてきたけどさ」

 一歩前に出る。

 「異世界っていったら、やっぱ魔法だろ!」

 観客席がざわつく。

 「魔法が得意なやつを、俺のド派手な魔法でぶっ倒す!そう――」

 陽翔がビシッと指を突きつける。

 「まさに王道主人公ムーブってやつだ!華麗にお前を倒して。俺は学園中の人気者になる!」

 沈黙。

 アルベルトが瞬きをした。

 「……?君の言っていることが、さっぱり理解できない」

 「安心しろ」

 リオンがぼそりと呟く。

 「ここにいる全員、理解できてない」

 「御託はいいんだよ!」

 陽翔が杖を構える。

 「構えろ!」

 口角が上がる。

 「俺の華麗な魔法、見せてやる!」


 陽翔は魔法杖を正面に構えた。

 深く息を吸う。

 次の瞬間、膨大な魔力が、陽翔の身体から一気に溢れ出した。

 「……!」

 観客席がざわつく。

 空気が震える。目には見えないはずの魔力の奔流が、熱を帯びた圧となって闘技場全体を包み込んだ。

 陽翔は杖を握る手に、さらに力を込める。

 魔力が杖へと流れ込んでいく。

 普段なら、この時点で暴発してもおかしくない。

 だが――

 「……暴発してない?」

 リオンが目を見開いた。

 魔力は暴れない。荒れ狂う奔流が、まるで一本の川のように杖へ収束していく。

 「まさか、本当に制御できるようになったのか……?」

 リオンの声に、驚きが混じる。

 セラフも目を見張る。

 「これは……」

 杖の先端に、赤い火種が灯る。

 小さな火球。だが、それは一瞬で膨れ上がった。

 炎が蠢く、うねる、伸びる。

 まるで生き物のように形を変えていく。

 「な、なんだ……?」

 観客席から声が漏れる。

 炎が尾を作る。四肢を作る。巨大な胴体が形作られていく。

 鋭い爪、しなる尾、天を衝く角。

 そして――

 咆哮するように開かれた顎。


 「これは……」

 アルベルトの目が見開かれる。

 観客席がどよめいた。

 誰もが息を呑む。

 陽翔の頭上に浮かんでいたのは、

 巨大な炎の竜だった。

 燃え盛る翼を広げ、赤熱する鱗を纏い、まるで伝承に語られる古代竜そのもの。

 それは、ただの火魔法とは思えないほど圧倒的な存在感を放っていた。

 「どうだ!」

 陽翔が得意げに叫ぶ。

 観客席から歓声が上がった。

 「うおおおおおおお!!」

 「す、すげえ……!」

 「なんだあの魔法!?」

 「ドラゴンだ……!」

 先ほどまで嘲笑していた生徒たちすら、目を見開いて立ち上がっていた。

 巨大な炎竜は、それほどまでに圧倒的だった。

 陽翔は口角を吊り上げる。

 完全に勝利を確信した顔だった。

 「一瞬で終わらせてやるよ!」

 杖を突きつける。

 「喰らえ!」

 陽翔が胸を張って叫ぶ。

 「爆炎覇竜滅殺砲バーニング・ドラゴン・バスター!!」


 だが、アルベルトだけは、微動だにしなかった。

 魔導解析鏡アルカナ・モノクルが淡く発光し、高速演算を始める。

 「魔力総量……解析」

 「魔導演算式……解析」

 「術式構造……解析」

 アルベルトは杖を構える。

 「風よ、穿て」

 風属性魔法が解放される。

 圧縮された風刃が一直線に走った。

 次の瞬間。

 ズバァン!!

 巨大な炎竜が、真っ二つに裂け、霧散する。

 さっきまで空を覆っていた炎竜は、まるで最初から存在しなかったかのように消え去った。

 「あれ……?」

 陽翔が間抜けな声を上げる。

 観客席が静まり返る。

 「…………」

 誰も、何も言えなかった。

 重い沈黙の中。

 リオンが、ゆっくりと額を押さえた。

 「確かに形状制御は見事だ。膨大な魔力をここまで精密に制御した技術は評価しよう……だが、それだけだ」

 アルベルトは淡々と陽翔の魔法を評価する。


 「ど、どういうことですの?」

 セラフがリオンに問いかける。

 「あいつは自身の膨大な魔力を制御し、あの見事なドラゴン型火魔法を完成させた。あんな芸当、僕だってできない。相当な魔法センスと努力なしではなしえなかっただろう。ただ……」

 「ただ?」

 「魔力の大半を“ドラゴンに見せるため”に使っている。翼、爪、角、鱗……細部を作り込み過ぎたせいで、本来、破壊力に回すべき魔力まで食われている」

 「つまりどういうことですの?」

 「つまり、見た目が派手なだけで、威力そのものは、初級火魔法ファイアボール相当ってことだ」

 セラフの笑顔が固まる。数秒の沈黙し、ゆっくり、こめかみに青筋が浮かぶ。

 「……は?」

 セラフの怒声が飛ぶよりも早く、アルベルトが動いた。

 「終わりだ」

 静かな宣告。アルベルトは左手を軽く振る。

 右手には自動詠唱杖。

 左手の指には、指輪型魔導杖リング・ワンド

 さらに手首には腕輪型魔導杖ブレス・ワンド

 複数の魔道具が同時に淡く発光する。

 「なっ――!?」

 陽翔の顔から余裕が消えた。

 「風刃エア・カッター

 「氷槍アイス・ランス

 「雷閃ライトニング

 三つの魔法が、ほぼ同時に解き放たれる。

 風が裂き、氷が穿ち、雷が走る。

 「ちょ、待っ――」

 ドガァァァン!!

 回避する暇すらなかった。

 三属性の連撃が、陽翔へ直撃する。

 安全装置である生命護符が眩く発光した。

 結界が張られ致命傷は防がれた。

 だが、衝撃までは殺しきれない。

 「ぐああああああああ!!」

 陽翔の身体が吹き飛ぶ。


 何度も地面を転がり、そのままリオンたちのセコンド席近くまで転がってきた。

 土煙が舞う。闘技場が静まり返る。

 アルベルトが杖を下ろした。

 表情は変わらない。

 「勝負あり」

 審判が宣言する。

 「先鋒戦――Aクラス、アルベルト・フォン・アイゼンベルクの勝利!」

 観客席がどっと沸いた。

 その一方で、セコンド席には、別の意味で重い沈黙が流れていた。

 

 


 

 

 


 


 

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ