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訓練開始 その3

 決闘で勝つための技の鍛錬が始まった。

 リオンが木剣を振る。カイルは反応し、受ける。

 だが、弾かれる。

 続けざまに二撃、三撃。防ぐ。だが、結果は同じ。

 「違う」

 リオンの木剣が止まる。

 「真正面で受けるな。受け流せ」

 「……はいっ!」

 最初に教えられたのは、相手の力を受け流す技術だった。

 小柄で非力なカイルが、長身のヴィンスと渡り合うために正面から受け止めないための、最低限の術。

 何度も打ち込まれる。最初は弾かれた。

 だが、繰り返すうちに、わずかに軌道が逸れ始める。

 「よし、いい感じだ」


 次に教えられたのは、“崩し”だった。

 踏み込んだ瞬間。わずかに触れただけで、体勢を崩される。

 「力じゃない。重心を見ろ」

 真似をする。出来ない。何度も失敗する。

 それでも、わずかに、相手の軸が揺れる。

 「……そうだ、その感覚だ」

 続いて、“返し”。

 流した瞬間に、打ち返す。

 「止まるな。繋げろ」

 最初は遅れる。間に合わない。

 だが、何度かに一度、剣が届くようになる。

 さらに、“間合い”。

 距離を詰める一歩。

 「考えるな。入れ」

 踏み込む。

 遅い。届かない。

 だが、次第に、距離が縮まる。

 そして最後に、教えられたのは決めの一撃だった。

 「これは、止まった相手に叩き込む技だ」

 リオンが言う。

 「動いてる相手に無理に当てるな」

 踏み込み。斬撃。速い。だが、当たらない。

 「止まってない」

 リオンが言う。

 「だから当たらない。相手をよく見て、タイミングを見極めろ」

 カイルは歯を食いしばる。

 その日、何度も繰り返した。

 流し、崩し、返し、詰め、そして――撃つ。

 出来るようにはなってきている。

 だが、完璧には程遠い。

 それでも 昨日の自分では、もうない。

 リオンはそれを見て、小さく息を吐いた。

(……思ったより悪くない)

 「今日はここまでだ」


 その日の鍛錬が終わり、カイルがふらつきながら寮へ戻っていくのを見送る。

 しばらくして、陽翔が口を開いた。

 「で、どうなんだよ。カイル」

 リオンは少しだけ視線を外し、短く答える。

 「……予想以上だな」

 「お、マジか」

 「適性はCだ。正直、もう少し時間がかかると思っていた」

 淡々と続ける。

 「だが、いい意味で予想外だったな」

 セラフが静かに頷く。

 「確かに。あの短時間であそこまで形になるとは……見事です」

 リオンは木剣を軽く肩に担ぐ。

 「学園で習う王立騎士式バトルアーツは、シンエイリュウの基礎だからな」

 「シンエイリュウ?」

 陽翔が首を傾げる。

 「僕が普段使っている実戦剣術だ。学園ではそれを簡略化して王立騎士式バトルアーツと言う名前で教えている」

 「へぇ」

 「貴族連中も取り入れて、自分の子弟に教えている」

 リオンは淡々と言った。

 「型だけとはいえ、あいつはずっと積み重ねてきたからな。基礎がしっかりしできていれば、発展技も習得しやすい」

 「なるほどなぁ……」

 陽翔は腕を組みながら、ニヤリと笑う。

 「ま、つまりアレだろ?素材は普通だけど、ちょっとは見れるようになってきたってことだろ?」

 

 ――パシィン!!

 乾いた音が響いた。

 「いってぇ!?」

 陽翔が背中を押さえて飛び上がる。

 振り向くと、セラフが鞭を片手にこやかに立っていた。

 「言い方というものがありますよ、ハルトさん」

 「いやだって事実――」

 ――パシィン!!

 「ぐあっ!?」

 「偉そうな事を言っていますが、あなたはどうなんですか?」

 「ど、どうって?」

 「リオンさんや私がカイルさんの稽古に付きっきりな事を良い事にずっと手を抜いていたでしょう?」

 「イ、イヤ……そ、そんな事は……」

 陽翔は気まずそうに眼をそらす。セラフは鞭を振り上げる。

 「ま、待て待て待て!なんで、いつも俺だけ!?今日だって、カイルは一度も叩かれてないのに!」

 カイルはこの特訓に賭ける思いは本物だった。弱い自分を知っているカイルはセラフに僕がくじけそうになったら容赦なく鞭でたたいてほしいと自らお願いしていた。しかし、結局カイルがセラフから鞭で他叩かれることは一度もなかった。

 

 「今のカイルさんの心に怠惰な気配はまるでありません。目的に向かってひたすら邁進するする姿勢は勤勉そのもの……そもそも、自ら叩いてくださいと言う人を叩いても興奮しな……いえ、カイルさんのような真面目な人は叩く必要がないですから」

 「待て!今、興奮しないって言いかけただろ!」

 「言ってません」

 「嘘つけ!やっぱり、お前、怠惰かどうとかじゃないくて、ただ、自分が興奮するかどうかで叩いているだろ!」

 「そんなことはありません」

 「目をそらすな!だったら、この場で女神様にそうじゃないって誓って見ろ!」

 パシィン!!パシィン!!パシィン!!

 「しつこいですよ!」

 「ぎゃああああああああああああ!!」


 地面に転がったまま呻いている陽翔に、リオンは小さく息を吐いた。

 「……お前も決闘に出るんだ。少しは真面目にやれ」

 「やってるっての……!」

 陽翔は体を起こしながら、不満そうに言い返す。

 「ていうかさ、俺は俺で別の特訓したいんだけど」

 「別の特訓?」

 リオンが眉をひそめる。

 「どうせサボりたいだけだろ」

 「違うって!」

 即座に否定する。珍しく、その声に軽さはなかった。

 「俺は本気だ」

 その言葉に、リオンは一瞬だけ目を細める。

 「……何をやってる?」

 陽翔は少しだけ視線を逸らし、それでも言い切った。

 「魔法の特訓だ」

 「魔法?」

 「もう少しで形になるんだよ。今のままでも戦えなくはないけど……」

 拳を握る。

 「俺だって、この決闘に賭けてんだ!嘘じゃねえ!」

 リオンは何も言わず、セラフを見る。

 視線を受けたセラフは、静かに目を閉じ、すぐに開いた。

 「……嘘はついていないようです」

 淡々と告げる。

 「どうやら今回は本気みたいですね」


 リオンは少しだけ考え、やがて肩の力を抜いた。

 「……そうか」

 一歩、歩き出す。

 「なら好きにしろ」

 陽翔が顔を上げる。

 「マジでいいのか?」

 「その代わり、結果は出せ」

 短く言い切る。陽翔はニヤリと笑った。

 「任せとけって」

 そう言って、さっさとその場を離れていく。

 その背中を見送りながら、セラフが静かに口を開く。

 「……少し、危ういですね」

 「だろうな」

 リオンはあっさりと頷く。

 だが――

 「……いや」

 一度、言葉を切る。

 視線は、去っていく陽翔の背中に向けられたままだ。

 「今回は違うかもしれん」

 セラフがわずかに目を細める。

 「違う……ですか?」

 「あいつなりに、本気でやってる顔だった」

 短く言う。

 夕焼けの光が、横顔を照らす。

 「結果はともかく、あそこまで言い切るなら、一度くらい信じてやってもいいだろ」

 セラフはほんの一瞬だけ、驚いたように目を見開く。

 だがすぐに、いつもの微笑みに戻る。

 「……珍しいですね」

 「そうか?」

 リオンは肩をすくめる。

 「たまにはな」

 こうして、決闘までの一か月は過ぎ、 その日が、目前に迫っていた。

 

 






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