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訓練開始 その2

 翌日の放課後。

 校舎の喧騒が遠ざかり、訓練場には乾いた風だけが吹いていた。

 昨日と同じ場所。だが、そこに立つカイルは、もう昨日のカイルではなかった。

 カイルは一歩前に出て、頭を下げた。

 「……お願いします」

 その声は、まだかすれている。だが、震えはなかった。

 リオンは一瞬だけカイルを見つめ、やがて小さく頷く。

 「いい目だ」

 昨日のやり取りを知らないセラフはカイルの変化を不思議に思う。

 「昨日とずいぶん、雰囲気が違いますね……まるで死の恐怖を一度越えたような……そんな雰囲気がします」

 「まあ、近からずも遠からずってやつだ。カイル、ハルトと一度立ち合いの稽古をしてみろ」

 「え、俺?」

 陽翔は面倒そうに頭をかいたが、すぐに前へ出る。


 「ま、いいけどよ。昨日と違うってんなら見せてみろよ」

 カイルは小さく頷くと、木剣を構えた。

 向かい合う。距離を取る。ただそれだけで、心臓が強く脈打つ。

(怖い……)

 喉が渇く。手のひらに汗が滲む。

 いつものと同じだ。

 (……でも)

 逃げ出したくなる衝動はある。視線を逸らしたくもなる。

 それでも、目は、相手を捉えていた。

 陽翔の肩の動き。重心。踏み込みの予兆。全部、ちゃんと冷静に見れている。

 そのことに、カイル自身が一番驚いていた。

 「いくぞ!」

 陽翔が踏み込む。陽翔の剣は毎日の特訓のおかげでずいぶん上達した。

 鋭くそして早い。

 昨日までの自分なら、ここで終わっていた。身体が止まり、何もできずに叩かれていただろう。

 だが、カイルの腕は動いた。反射的に剣を出す。

 ――受けた。

 鈍い衝撃が腕に伝わる。

 重い。だが、耐えられる。

 そして、そのまま、流れるように剣をずらす。

 完全ではない。だが、逸らした。

 「お?」

 陽翔がわずかに驚く。

 カイルはその隙に、一歩踏み込む。

 ぎこちない。だが―前に出た。

 剣を振る。軽い一撃。それでも――


 「っ……!」

 陽翔に、かすった。カイルは目を見開く。

(当たった……?)

 信じられない。今、自分はちゃんと立ち合いが出来ている。

 逃げていない。止まっていない。戦えている。

 「へぇ……」

 陽翔がニヤリと笑う。

 「やるじゃねえか」

 「……っ、もう一度!」

 カイルはすぐに構え直した。

 迷いは、もうない。

 再び打ち合う。今度は、受けるだけじゃない。

 自分かから、踏み込み撃ち込む。

 何度か打ち合い、距離が開く。カイルは荒い息を吐いた。その目には確かな光があった。

 「……出来てるな」

 リオンが静かに言う。

 「恐怖はあるか?」

 「うん……でも……戦えている……恐怖に負けていない……?」

 一瞬、言葉を探し、はっきりと言った。

 リオンは満足そうに頷く。

 「それでいい」

 そして一歩前に出る。

 「じゃあ、次に行くぞ」

 木剣を軽く肩に乗せながら言う。

 「ここからは“戦い方”を教える」


 リオンは木剣を構えた。

 「いいか。今のお前は最低限、戦えるようになっただけだ」

 その言葉に、カイルは息を呑む。

 「それだけじゃあ、奴には勝てない」

 言い切る。否定ではない。事実だった。

 カイルは、何も言えずに頷いた。

 「だから教えてやる。勝つための動きを技を」

  リオンは、ゆっくりと一歩踏み込む。

 「……始めるぞ」

 

 

 




 

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