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十二試艦戦

個人的な調査では資料の限界がありあくまでも表に出ている部分を集めただけになってしまった。

まさかこんな事情だったとは。

それではもったいないと言うよりもつまらないので、実録風にしてみた。

後でこれを元に起稿する作家さん、済まぬ。



光綾出版  文芸部歴史係  島田昭博


この性能要求書は厳しいです」

「そこをなんとかするのが君たちだろう」


 そう言われてしまう三菱重工名古屋航空機製作所の面々。

 新型艦上戦闘機について海軍側と打ち合わせ中であった。

 性能要求書には不可能だろうという数字が並んでいる。特に航続距離。

 計画中の十試艦攻を上回る航続距離を求められていた。

 要約だが優先順位として以下のものがあった。


1.艦攻と艦爆を護衛して空戦の後帰投できること。

   進出距離は最大五百海里とする。

2.空戦性能優秀なるをもって良しとする。

3.速度は欧米新型機に負けないこと。

4.整備簡便なるをもって良しとする。

 

 開発陣は本当に困った。目標値が高すぎた。

 その後、数回の折衝を経て最終的に纏められた性能要求書には。


1.航続距離

   三百海里進出+戦闘三十分+帰投三百海里+三十分を満たすこと。

2.空戦性能

   運動性良好であること。

3.防弾装備は米軍機に搭載され始めたブローニングM2に耐えうること。

4.速度及び上昇力

   高度三千メートルで二百八十ノット以上。目標三百ノット。

   高度五千メートルまで六分三十秒以内。

5.整備簡便なるをもって良しとする。

   複雑な機構を多用しないこと。

   必要であれば装備可であるが、信頼性を確保すること。

6.国産空冷発動機使用のこと。  

7.無線機は電信と電話、双方を装備する。無線方向探知機の搭載。

8.武装

   九七式7.7ミリ固定銃2丁 装弾数各五百発

   試製九九式二号銃2丁     装弾数各六十発


 主な項目は以上であった。



「航続距離の最後三十分は?」と聞くと、空母上空での着艦待ち時間だという。

「今までは搭載機数も少なく待ち時間は少なかったが、今後大型空母で多数の機体を搭載するので待ち時間も延びる。ガス欠で不時着水し機体を海に捨てるのを避けたい」とのたまう。

 空戦性能の要求が変わったのは、次々と進歩する機体に前世代の機体と比較する意味が薄いという考え方が増えてきていたからだ。

 防御力重視は渡洋爆撃で九六式陸上攻撃機があっさりと撃墜されたことから始まった。この事件は性能要求書が纏められる以前に起こり、至急として要求に盛り込まれた。

 何しろ高価な機体と手間暇掛けた搭乗員が一瞬で失われる。機体はまだ良いが搭乗員の数が少ない日本海軍には大きな痛手である。このまままだと搭乗員がいなくなると。

 その後、護衛戦闘機は必要だし防弾装備も必要となった。  

 整備簡便なるをもっては「空母という限られた空間と人数で整備するので複雑怪奇な機構を避けてくれればいい。どうしても必要なら採用しても良い」と。

 無線の電信・電話双方装備は「戦況の変化に対応するために必要である」と。

 無線方向探知機の搭載は「単座機で進出距離三百海里ともなれば帰投時に迷子になる事もあるだろうから確実に母艦に辿り着かせたい」と。

 

 残りの項目は上記を満たしていれば、かなり大目に見るといってくれた。



 基本となる機体構成と発動機だが、機体構造は当然単葉とする。

 発動機は大量のガソリン搭載や重量のある無線機複数に防弾装備の重量を考えると機体も大きく重くなり自社の[瑞星]では馬力不足と考えられた。[金星]なら最低限条件を満たせると考えられ、将来的な馬力向上策も開発中で適当とみられた。

 しかし、そこで海軍から中島[栄]の使用を求められた。

 何故わざわざ馬力の小さい発動機を使うのか海軍に問い詰めるが、金星よりも燃費が良いので栄を使えの一点張りだった。

 速度性能など要求値を満たさない見込みが大きいがそれでも良いかという質問には、九六艦戦よりも二十ノット程度優速ならかまわないと。海軍は速度よりも航続距離を取ったようである。


 それでも設計陣は奮闘し要求値に近い戦闘機を生み出した。少ない馬力で速度を出すために小型の主翼を採用。翼幅は狭くしたが弦長を大きく取ることで面積を稼いだ。旋回性能は無視される。それでも翼面荷重160kg/㎡で艦上機として危ぶまれた。フラップを大型化し、着艦速度を遅くした。補助翼が小型になり、小型主翼の高翼面荷重と相まって旋回性能は期待できない。

 大量のガソリンは主翼4カ所と胴体の操縦席後部の大型タンクに納められ、苦心して開発された防弾ゴムをタンク外装に貼り付け、さらに防弾鋼板を張るという方法で防弾としている。操縦席後部のタンクは防弾装甲板で2重に守られており操縦者を守る。燃料タンクの内袋式自動防漏タンクはゴムの開発が出来ずに諦めている。

 風防全面防弾ガラスは無理で、正面のみ防弾ガラスとされた。機体側面の防弾は無い。

 各部が重くなり機体も堅牢な構造が要求された。余計に重くなる。

 手動であるが発動機と燃料タンクへ消火装置が設置された。


 試作機が飛んだのは昭和十四年四月で初飛行は成功した。

 その後主脚強度の不足や補助翼の形状変更、通信機の性能が安定しないなど細々とした改良が続けられた。


A6M1c   昭和十五年三月 試作9号機

全幅    10.8メートル

全長     8.9メートル

全高     3.5メートル

自重     2.3トン

全備重量   3.2トン

発動機    栄一二型  離昇出力 940馬力

最高速度   270ノット/3000メートル

上昇力    5000メートルまで6分50秒

航続距離   980海里(正規)+500海里(増漕有)

武装     九九式一号二型機銃2丁  装弾数各60発

       九七式7.7ミリ機銃2丁 装弾数各700発   

       三番または六番を両翼下に左右各2発搭載可能


 海軍は速度性能以外は要求を満たしたと認め試作九号機と同仕様の機体を昭和十五年八月に零式艦上戦闘機一一型として制式化した。 

 航続性能は増漕有で満たしている。最終的な翼面荷重は148kg/㎡となった。 


 現場では回らないとして非常に不評であった。特に源田実を始めとする格闘戦重視勢力からはぼろくそに言われた。

 空母への着艦は着速こそ速いものの機体安定性に優れ慣れれば難しくないとされた。

 不評な中でも、水平面の定常旋回でなければ九六戦に勝てるとしてやり方次第だと重防御を褒める一党もいた。その一党は横転性能が良いことで高い機動性を発揮でき高機動で空戦をすれば良いとしていた。






 零式艦上戦闘機最初の実戦は重慶上空での空戦だった。実戦に投入されたのは若干の改良を施した二一型16機である。I-15やI-16といった旧式敵戦闘機30機あまりを撃墜。零戦の損害無し。という旧式機相手でも信じられないくらいの戦果だった。この時、明らかに防弾装備がなければ操縦員や燃料タンクが被弾していただろう弾痕が何機かにあり、重防御の有効性が確認された。

 中国上空で次に当たったのはアメリカ製戦闘機だった。カーチスP-36であるが輸出用廉価版モンキーモデルであり参考にはならない。が、ここでも重防御に助けられている。

 旧式機と廉価版相手に続いた空戦が初めて新鋭機との空戦となったのが、フィリピン戦だった。

 P-40が相手だ。

 ルソン島各地の航空基地を空母部隊が制圧する作戦であった。しかし、ここで躓いてしまう。300ノットを超えるP-40に、出ても270ノットの零戦が翻弄されてしまった。格闘戦性能は辛うじて勝てたが、速度差が効いた。

 決着を付けたのは20ミリ機銃の破壊力だった。ここでも重防御によって助かった機体が多い。


 さすがに速度不足がまずいと実感していた海軍上層部は栄二一型への換装を命令している。三二型の登場である。

 三二型は出力向上と推力式単排気管採用に若干高速翼型にした主翼で30ノット近い増速を果たした。だが引き換えに航続距離の低下を招いた。そこで外翼前縁へ燃料タンクを装備。航続距離減少に対処した。この前縁燃料タンクは最初に使い切る前提で防弾は無い。空になったら炭酸ガスを充填し残存燃料や気化したガソリンに引火しにくくしている。

 この型より自動消火装置が付けられた。

 20ミリ機銃は長銃身の二号三型銃で装弾数100発の新型弾倉になった。


A6M3   零戦三二型   昭和十七年五月

全幅    10.8メートル

全長     8.9メートル

全高     3.5メートル

自重     2.4トン

全備重量   3.4トン

発動機    栄二一型  離昇出力 1130馬力

最高速度   298ノット/6000メートル

上昇力    5000メートルまで6分40秒

航続距離   930海里(正規)+460海里(増漕有)

武装     九九式二号三型20ミリ機銃2丁 装弾数各100発

       九七式7.7ミリ機銃2丁    装弾数各700発   

       三番または六番を両翼下に左右各2発搭載可能


 この型は各地で引っ張りだこだが、敵戦闘機に高速機の出現が予想されており、さらなる高速化が望まれた。

 栄の強化は遅れており金星の装備が検討された。


 戦線では零戦が健闘しているが、落とせないが落とされない状態で空戦結果は推移している。


次回更新 8月02日 05:00です。

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