37.魔力の変質
意外とアルバートたちは魔物大発生の予兆について、すんなりと受け入れてくれた。
アルバートはライガの使い魔のことを知っていて、ゼントからの情報ということにしてある。
実際ゼントが森で確認してきて、大体、その通りだろうとの見立てだ。
騎士団長と魔術師長自ら森に入って確認しに行ったのが、魔物大発生予定の2日前。
そこで瘴気の異様な濃さが確認された。
当然、訓練は中止。
魔物大発生予定前日から騎士団と魔術師たちが森に入って、魔物を森から出さないようにしている。
すでに、少しずつ魔物は増えているのだ。
何か自分たちにもできることがないかと放課後、庭園の東屋でユリアとライガと私の三人プラス使い魔のゼントとで話をしていた。
ユリアと相談した結果、ユリアとレティシア二人ともがゲームと全く違う選択をした為に二人の能力も変質してしまったのではないかという結論に達した。
「私には幼馴染の恋人がいるから、そのままの生活が送りたかったんです。だから、極力魔法は使わなかったし、学院に入ってからも必要以上には練習していません。今、癒しの力は使えるもののゲームの中のユリアほど魔力が高くなくて」
ユリアが申し訳なさそうに目を伏せた。
「ゼント、二人の魔力について何か分かるか?」
しばらく私たちの話を黙って聞いていたライガがゼントに尋ねた。
ゼントは私たちを見て目を細めた。
「二人とも、同じような清らかな魔力を感じるな。二人の魔力を重ね掛けすれば、もしかしたら瘴気が祓えるかもしれない」
「重ね掛け…レティの水魔法か」
しばらく考えていたライガがつぶやいた。
「レティの水魔法とユリアさんの光魔法の重ね掛けならできるかもしれない」
「その可能性があるなら、私はやりたい」
ユリアを見ると、頷いた。
「私もやってみたいです」
「それなら、明日の大発生を待つよりは今すぐ森に向かった方がいい」
ライガが立ち上がった。
「ゼント、行けるか?」
「大丈夫だ」
子犬状態だったゼントが大きな狼になった。
初めてそれを見たユリアが目を輝かせた。
「すごい、本当に狼だったんですね。ゲームにも使い魔なんて設定なかったのに!」
「確かにね。でも、今は先に森に行きましょう」
盛り上がっているユリアを抑えて、みんなで森まで転移する。
そう!ライガは転移の魔法が使える。
こんなにチートな能力がある上、とても見目麗しいライガがモブなんて不思議でしょうがない。
目を開けると、目の前には魔物を倒している魔法師長たちがいる。
「なんで連れてきた」
魔物を一体倒すと、魔法師長が振り向いた。
「二人で魔法の重ね掛けをすれば、瘴気を祓える可能性があります。瘴気を祓えないと魔物の発生を止められないので、やってみる価値があると思います」
「やらせて下さい」
私とユリアは魔法師長に頭を下げた。
「俺とゼントで彼女達は守ります」
しばらく黙って見ていた魔法師長は
「分かった。レティの魔力は確かに清らかだし、光魔法との相性もいいだろう。よろしく頼む」
表情を緩めた。
「責任は私が取る。だが、ライガ、お前が何としてでも彼女達を守れよ」
魔法師長の言葉にライガは深く頷いた。




