自分の人生はシナリオなんて無い。
考えすぎて話が変な方向に行きそうになったりと色々あったけど、やっと最終話になりました。
「私は無実です」
司法省の尋問室で痩せぎすの男が必死にバロースに訴えていたが、バロースは男の方を見てもいない。
「ベイレーン元男爵、まだお前は養女の事を独断で動いたから知らない、と言うつもりか?」
バロースの部下が書類に手を置きながら呆れたような顔でベイレーンを見ている。
「あれを養女にはしましたが、あんな大それた事をするとは思わなかったのです」
「侯爵令嬢殺害未遂。未成年とはいえ温情はありません」
レイチェルの処罰は既に行われており、最北端の監獄での強制労働を命じられ、一生を其処で送る事も決まっている。
「私はこの国の為、貴族としての責任を……」
既に爵位は剥奪されているのに必死に無実だ、と叫ぶベイレーンに漸くバロースが目を向けた。
「エナリソンの軍部は将軍の何人かを処罰した」
「そ、それが何か」
冷や汗なのかぼたぼたとベイレーンの顔から汗が落ちる。
「エナリソン王家はキフェルの盟約に従い、王国に従順の親書を送ってきた」
バロースが何を言いたいのか理解出来ないほど馬鹿では無いはずだ。
いや、理解出来るからこそ、その意味に必死に言い訳を被せようとしているのだろう。
「大公からも、お前から良からぬ提案をされた、と訴えがあった」
おそらく大公は、お気に入りになったディーンの部下である彼女に洗いざらい話したのだろう。
そして彼女を通して必死に保身を図ったに違いない。
政治的に無力である王族が身分を剥奪されては、死刑を宣告されたも同じだ。
「わ……私は大公様のお心をお慰めしようと」
「時間の無駄だ。連れて行け」
バロースは興味が無くなった玩具を捨てるようにあっさりと言い放った。
必死に無実だ、と叫んではいたが誰もベイレーンに同情の目を向けず、彼はズルズルと引き摺られるように執務室から連れ出された。
「あの程度の頭でレディ・アリッサに挑もうとは、愚かすぎて笑いも出ないぞ」
バロースが吐き捨てる様に言うと側にいた部下は冷ややかに笑う。
「己が1番だと盲信している者は他者を見ないものです」
部下の言葉にバロースは頷いた。
「得難い存在だ。あの方が国母となられたらこの国はどれ程洗練されたものになるのだろう」
うっとりとした顔でバロースがアリッサの事を考えていると少し不貞腐れた声がバロースの思考を遮った。
「僕が彼女の夫の1人になれればさらに王国も安泰なのでは?」
「確かにそうだ。だが、レディ・アリッサはそれを望んではいない」
アリッサはこれ以上、夫となる者を望んでいない。
簡単に言えば、ファビアンを異性として見ていないのだ。
「バリエール宰相令息、権力が一点に集中するのは命令系統が安定するが、危険であることも意味する事を理解していない、とは言わせませんよ」
王国を支える宰相までもが、もしもの時意見の言えない立場になっているのは危険である。
「僕は彼女の保険って事?」
「レディ・アリッサは深く物事を考えていらっしゃいますから」
最悪の事も頭の隅に置きながら行動する彼女をファビアンはうっとりと思い出していた。
「本当に聡明だよな。あぁ、本気で夫の1人になりたいよ」
「殿下達を出し抜けるなら、可能性はゼロではないですよ」
「無理だね。あんな魔王みたいな人を出し抜ける筈がない」
うっとりとしていたファビアンの顔が嫌そうに歪む。いつの間にか、強引で周りの事など気にもしていなかった王太子殿下は味方には温情あふれるが、敵に対しては魔王の如く有能で抜け目のない人物に成長していた。
「殿下だけではないですからね。腹の中が真っ黒な人は」
元々影であるディーンだけでなく、騎士道精神に溢れるヴォルフや温厚そうなライルまでも一癖も二癖もある存在になっていた。
「まっ、アリッサの側にいる為には純粋だけじゃ無理だしな」
ファビアンは自分がまだそこまで成長していない事は痛感している。
くしゅん。
アリッサが小さくくしゃみをした。
「誰かが噂してるのかしら?」
向かいの席に座っているソフィアが首を傾げた。
「そうかもしれません。ですが、悪い噂ではないでしょう」
穏やかな笑みを浮かべているアリッサは女でも見惚れてしまうほどの美貌。
ハードモードの逆ハーエンド後の特別シナリオはかなり濃密なシーンが多過ぎて覚えていないしあり得ない、と思ってたけど今のアリッサを見ていると攻略キャラの執着心ならばあり得る、と思えるほどだ。
「でも、特別シナリオでは……」
「ソフィア様。此処はゲームの中ではありませんし、私、乙女ゲームは知らないので、お約束は守りません」
にこり、と笑うアリッサはゲームのキャラでは無い。
学生生活はまだ続くし、ヒロインから断罪を受ける事も無くなった。
ソフィアは小さく頷き
「そうね。アリッサは乙女ゲームのお約束なんて守らなくていいのよね」
「はい。ソフィア様も」
綺麗な笑顔のアリッサ。
やっとこの世界は乙女ゲームでは無い、と認める事が出来る。
これからは自分の人生を切り開いていくだけだ。
まぁ、アリッサが居ればなんとかなりそうな気がするけど、ね。
終わり
ここまで読んで下さった方々に感謝しております。
拙い文章や読み辛い表現など多々あったと思いますが、これからの精進の為、とお目溢しいただけたら幸いです。
また、別の話でお会いできる事を心から願っています。




