邪神とは
捨て台詞を残し逃げる旦那様の後ろ姿を見つめる。
はぁ~なんで、あんな奴好きになっちゃたんだろ。
理由は分かってるけど・・・。
「シリアスはいつもあんな感じなのか?」
キーコちゃんの呆れた声に黙って頷く。
「どこかに行ってしもうたぞ。」
「自分の部屋に閉じこもるだけよ。」
「まるで赤子のような男じゃ。」
そうなのよね。
常識が薄いくせに自信満々で動くから危なっかしいのよね。
顔があれだから、もうちょっと大人っぽくしてくれたらいいんだけど、
そのギャップと偶に見せる陰の部分にくるものがあるのよね。
くぅ~・・・考えてたら熱くなってきたわ。
「それより、キーコちゃんはこれでいいの?」
大部屋を拡張すれば場所がとれるからもっと大きな神殿を作る事は出来る。
今は6畳一間の可愛らしい神殿だ。
「よい!神殿の形は何でもよいのじゃ!これで儂の力を十全に使う事が出来る。褒美をやろう、何がよい。」
「ん~・・・じゃあ、キーコちゃんの事、教えて!」
どんな食べ物が好きかとか、どんな服装が好みか分ればもっと仲良く出来るし。
「うむ、それでは何から話そうかの・・・・・まずは神の話じゃ。」
あれ、思ってたのと違う。
「お主等は、善神や邪神と呼んどるが、儂等にとってはそんな区別は無い。どちらも同じ神でしかない。」
「お主等が自分の都合で呼んどるにすぎないのじゃ。ここまでは良いか?」
こくりと頷く。
結構重要な事話してるような・・・。
「儂等が世界に干渉するのは自身の力を高めるためである。言うなれば国取りゲームをしとるにすぎん。」
「げ、ゲームなの?」
「神にとってはその程度じゃ、だからルールも決まっておる。」
「ちょ、ちょっと待って!ゲームで命がけで戦わせるの?なんの権利があって・・・。」
「ふむ、では其方等こそ、なんの権利があって生きておる?」
「えっ?・・・ちょっと待って、私達って勝手に生まれてきたの?神様が人間を作ったってお話が多いけど違うの?」
「いや、お主等は神によって作られた。じゃが勘違いしとるの。
お主等は自分を作った神を創造神とかいって讃えておるが、神の中では下の下の連中じゃぞ。
本能のまま動く獣と大差ない。」
「うそ?」
「そんな事で嘘をついてどうする。神の癖に不完全な世界しか作れんのが良い証拠じゃ。
魂の修行の場とか言いだす輩もおるようじゃが、何故修行が必要な魂を作り出す必要がある?」
「・・・・・・・・・・。」
「ショックかの?じゃが事実じゃ。そのため、世界の数は数多あり今も増え続けておる。」
「考えてもみろ。本当に邪神が邪悪で破壊を好む存在なら世界ごと破壊して終わりじゃ。何故そうしない?」
「答えはこんな世界でも自分の物にすれば若干力が上がるからじゃ。遊びで取り合うくらいには価値があるというわけじゃ。」
「な、なら・・・。」
「だから国盗りゲームじゃと言ったじゃろ。神にとってはその程度じゃ。」
「それに言っておくが神としては、お主等が善神と呼ぶ輩の方が、少数派の変わり者じゃからな。」
「えっ?どういう事・・・。」
「お主等、アリの巣のアリに名前を付けて様子をみたり、特別便宜を図ったりするか?しないじゃろ。」
「私達ってアリなの?」
「高次元の存在から見たらアリどころカビより矮小な存在じゃ。儂等のように分身体となってようやくお主等の言い分を理解出来るようになる。」
「まぁ、それでも力ある分身体ではお主等の言い分を理解する事は無理じゃろがな。」
「力のある分身体って?」
「例えばシリアスをこちらの世界に連れてきた存在じゃな。あれはもしかしたら、上位十傑の真に力のある分身体のせいかもしれん。」
「キーコちゃんはそういった事出来ないの?」
「無理じゃな。儂は不死じゃが、お主等勇者よりちょっと強い程度の力しか持たぬし、
監査官として管理している世界もこの世界を含めて3つだけじゃ。」
「それって、とんでもなく凄い事じゃ・・。」
「お主等から見たらそうじゃろが、神の分身体として見たらたいしたことは無い。無限にある世界の3つだけなんじゃからな。
それに監査官等と言ってはいるが要はゲームが滞った場合にケツを蹴り飛ばし強引に進める進行係でしかないからの。」
「話が大きすぎるわ。」
「そうじゃろな。続きを聞きたいか?」
私は首を振って否定した。
「まぁ、別に知る必要の無い話しじゃから、それでいいじゃろ。」
キーコちゃんはそのまま神殿の奥に行って座ってしまった。
不安になった私はシリアスの元にむかった。
あの話を聞いた後では彼に何か出来るとも思えないが会いたいのだ。
鍵のかかった扉を開けてくれた彼は不思議そうな顔をしながら私を部屋に入れてくれた。
彼の胸に顔を埋め震える私を彼は困った顔をしながら抱き締めてくれた。
キーコちゃんに聞いた話をを震えながら彼に話した。
「なるほどな。スゲーじゃん、キョウカ朗報だ!」
彼が何を言ってるのか理解出来ない。
なぜ、今の話が朗報なんだろ。
「あ~、分ってないか?」
こくりと懐く私に彼が説明してくれた。
「まずさ、別にこの世界で神が国盗りゲームしてたとして、俺達に何が関係するんだ?ぶちゃけ関係無いんだよ。俺達にとっては現実だし、それで不都合があるかっていうと無いんだよ。」
「でも、干渉して殺し合いをさせてるのよ。」
「干渉して無くても殺し合いはするだろ。国と国でさ。地球でもそうだったじゃん。そもそも不完全なんだからお互いを殺しあうんじゃね?」
「そ、それは分かったけど、それのどこが朗報なのよ。」
「あのチビ助は3つの世界の監査官なんだろ。無限にあるうちのたった3つ。それしか任せてもらえないなら間違いなく代理としてはどうでもいい存在なんだろ。」
「意味が分からないんだけど。」
「お前が会社の社長だとしよう。会社の命運をかけた仕事を任せるとしたら、仕事の出来る人と仕事の出来ない人のどちらに任せる?」
「それは仕事の出来る人よ。」
「そうだな。じゃあ、コンビニに例えば缶コーヒーのお使いを頼むとして、仕事の出来る人と出来ない人のどっちに頼む?」
「それは仕事の出来ない人じゃない。」
「そうだな、でもお前が言った物と違うコーヒー買って来るかもしれないぜ?」
「別にそのくらい気にしないけど。」
「そうだな。なら同じくこの世界が重要視されてないって事は何が起きても、まぁ、いいかで済む可能性が高いって事だ。」
「加えて、あのチビ助は勇者よりちょっと強いくらいでミーシャなら楽勝の相手だ。それって敵対されてもどうとでもなるって事だろ。」
「チビ助に何かあった場合、強力な援軍がきたら不味いと思ってたけど、それがまず無いと分ったのは朗報だ。」
私にも彼の言い分は理解できる。
それならこの世界を神々のゲームから切り離す事が出来るかもしれない。
確かに朗報だろう・・・でも、それは・・・。
「儂が嘘を言っていなければじゃな。」
振り返ると戸口にキーコちゃんがいた。
「嘘じゃないな。お前の話には矛盾点が無いんだよ。嘘なら話にずれが生じ違和感となるんだ。違和感すら感じないのは嘘じゃない可能性が高いんだ。」
「それでも、可能性なのか?」
「理解出来ない化け物共だ。こっちには理解出来ない理由ってのがあるかもしれんだろう。」
「確かにそうじゃな。じゃが種明かしをすると、この世界どころか全ての世界は神にとってどうでもいい世界じゃ。そして結果がどうあれ、それを覆すために何かすることは無い。」
「だろうな。それなら自分で世界を作っちまった方が早いだろ。」
「お主、考えておらんようで考えておるではないか。」
「お前も猫かぶるの止めたんだな。」
「もとよりかぶってはおらん。年を取ると考え方が子供に戻るのじゃ。その方が楽じゃしな。」
「で、俺等をどうするつもりだ。」
「別にどうもせん。好きに生きるといい。それも決められたルールの一つじゃ。儂が尻を蹴り上げるのも何もしないのも儂の自由じゃからの。」
「キョウカの様子が気になって来て見たが、良い物が見れたぞ。」
そういいながらキーコちゃんは手を揺らしながら行ってしまった。
まるで何もかも興味は無いとでもいうように。
そして、私の震えは止まっていた。
きっと彼がいれば大丈夫。
根拠は無いけどそう思えたから。
「儂もあのプリンがいいのじゃ~!シ~リ~ア~ス~!プリンを、儂にプリンを~!」
夕食の席で旦那様にバケツプリンを強請るキーコちゃんを見てると昼の事が嘘のように感じられる。
まるで旦那様と示し合わせて私を騙したんじゃないかと思える。
「やかましい、キンキンした声だすんじゃねー!脳に響くんだよ!」
とりあえず、我が家は平和だ。
宗教関係者各位へ喧嘩を売っているわけではありませんので、ご不快な表現方法や納得出来ない内容が書かれていても、遊びだと割り切って大目に見て頂けると有難いです。




