プロポーズ大作戦(罠)
俺がゴルド達との会談を終え、心安らかに少し酒でも飲もうかとしていると、コアルームの扉がドンドンと叩かれた。
シスやリアならあんな乱暴な叩き方をしないので一気に警戒モードになる。
「だ、誰だ?」
扉越しに問いかけると「・・・・・。」声が聞こえた。
小声過ぎて聞き取れない。
すぐにスクリーンに映し出すと双子が扉を叩いている。
魔法職のくせにゴルドで鍛えたのか打撃力が強い。
「お前等、何の用だ?」
声をつなげると抑揚のない声で話し出す。
「来て。」
「用ある。」
「先に行け!すぐ行く!」
双子を先に戻し、転送で大部屋に移動する。
大部屋に移動すると共に懐かしい匂いが鼻孔を直撃する。
大部屋に簡単なかまどが作られていた。
「カレーか・・・。」
「シスさんやリアさんに聞いたら食べた事無いって言うから、作ってみたの。それでお礼としてはなんだけどシリアスさんもどうかなと思って・・・。」
「不気味な色。」
「匂いはいい。」
双子達はカレーの色合いに警戒しているようだ。
シスとリアも遠巻きに見ている。
ああ、なるほど、毒味として呼ばれたのか。
「カレーは久しぶりだ。頂こう。」
ご飯は飯盒のようなもので炊いたようだ。
キョウカがご飯の上にカレーをたっぷりよそってくれた。
「いただきます。」
スプーンでカレーを一口頬張る。
皆が見つめる中でカレーを頬張った。
何故、キョウカまでもが見ているのか不思議だった。
自信が無かったのかもしれないが、カレーなんてルーさえあれば不味く作る方が難しい料理だ。
「ど、どうかな?」
「ん?普通に美味い。」
俺の返事をよそに双子は勝手に食べ始め、シス、リア、キョウカの3人は俺の食べる様を祈る様に見つめていたが、俺が完食すると歓声をあげた。
意味が分からない。
「おめでとう、キョウカさん!」
「おめでとう、キョウカ殿、これで3人一緒だな。」
「ありがとう、リアさん、シスさん。これから宜しくね!」
「めでたい。」
「祝。」
騒ぎ出した女性陣を不思議そうに眺めていると、皆がこちらに近づいてきて抱き着いてきた。
いい匂いだし柔らかくて気持ちがいいが、どうなっているんだ?
双子も俺の服に顔をグリグリこすり付けてるが、口のカレーをぬぐってるわけじゃないよな。
「すまん、説明を頼む。」
無理だ理解の範疇を超えている。
問題文無しのクイズのような物だ。
いきなり、さて答えはなんでしょうと言われて分かるわけがない。
「えっと、ご主人様がキョウカさんのプロポーズを受けて承諾したんですよね?」
「えっ?キョウカ、それってお前の生きていた村のマイナールールか?」
「失礼ね、元は東京都民よ。それよりシリアスさん、常識も抜けてるの?」
なんですと・・・・。
俺の記憶にそんな斬新なプロポーズの記憶はない。
やり方によっては罠じゃねーか。
「覚えて無くても責任はとってもらうからね。完食した後の断りは死を意味するわよ。」
お前はどこの戦闘部族だ!
「いや、俺とお前はそもそも敵味方の間柄だろ。結婚なんて無理に決まってるだろ。」
「大丈夫よ。もう、この迷宮を私の管轄として申請してあるから。誰もグダグダ言わないわ。」
「縄張り。」
「私達がルール。」
いや、お前等は元々唯我独尊だろ。
「よく分からないが、キョウカと結婚すればこの迷宮はキョウカの縄張りになって、侵入者が来なくなるでいいのか?」
「ちょっと違うけど概ね間違ってないわ」
なんだろう、キョウカの笑顔がジャイ〇ンの笑顔に見える。
「これで私達もここに住める。」
「ケーキの配給を要望する。」
「ゴルドはどうするんだ?」
「奴は用済み。」
「既に手順通り処理した。」
どういう意味だ?
「あぁ、ザキちゃんとルドちゃんは私の従者になったのよ。ゴルドさんはソロ勇者になったって事よ。」
「元々役立たず。」
「肉壁要員。」
凄い毒舌ぶりだ。
「じゃあ、キョウカ殿が本妻で、わ、私とリアが妾って事でいいのかな。」
えっ!
「それじゃあ、旦那様!今日は新婚初夜なんだし豪華なお部屋を作って下さい。」
えっ!
「・・・・いや、ちょっと待て。ちゃんと結婚式をあげてからにしよう。明日皆で案を出して、明後日、結婚式の準備をして、3日後に結婚式にしよう。」
「旦那様~、そんなに大切にしてくれるなんて・・・。じゃあシスさんとリアさんも一緒に合同結婚式にしましょう。」
「いいの、キョウカさん?私達妾なのよ。」
「いいの!みんな一緒で平等が我が家のルールよ。いいでしょ?旦那様。」
「あ、あぁ。そ、そこらへんは女のキョウカに任せる。男の感覚だとよく分からないところがあってだな・・・。」
「任せて、盛大な結婚式にするわよ。」
「招待客がいないし、それは無理だろ。」
「大丈夫、任せて!」
「そうか、それなら俺は自分の部屋に戻る。3人の部屋はリア達と同じ部屋を作っとくから、後は任せるな。」
俺はそう言い残しコアルームに転移した。
冷静を装ったが、心臓がバクバクしている。
なんだ?俺がおかしいのか?
あれが普通なのか?
自分の記憶以外も無くなっているのか?
モヤモヤするし不安だ。
明日、ゴルドに相談しよう。




