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第十五章・斬り裂きロズウィック

「穿て!ウィンドアロー!!」



グォオ…!



「ふぅ…今ので最後みたいね…。ナキ、そっちは終わった?」



「ああ、カイト達も終わったみたいだ。村に戻ろうぜ」





俺達が依頼を始めて一週間がたった。依頼にも馴れ、戦いでも4人での連携が幾らかはとれるようになった。




「村周辺の魔物退治をしていただきありがとうございます。こちらは報酬の4000Gと村で採れた野菜です。どうぞお受け取り下さい」



依頼主である村の青年から報酬を受け取ると、村長らしき老人がこっちに歩いてきた。



「若いのに強いもんじゃな…ワシらは魔法について余り知識を持たない。そのせいか魔物を退治する程の力がないんじゃよ」



「確かに魔法を使うためには知・体・心の内1つでも欠けたら駄目だからな…」



「魔法を使えても力は人によって異なる。魔法も万能じゃないってことね」



レンとカイトが呟いていると村長が1枚の紙を出した。



「近頃山賊や盗賊が増えたがもっと厄介なのはこやつじゃ」



「斬り裂き…ロズウィック」



「こやつには関わらない方がいい。今近くの村に騎士団が来て探しているらしい」


「騎士団が!!どの隊が来てるんですか!?」



「そこまでは分からんの〜…しかし本隊ではないじゃろうな」



「そうですか…貴重な情報をありがとうございます」



2人に見送られながらナキ達は村を出た。








「ねぇナキくん、騎士団が来るのってすごい事なの?」



林道を歩いているとロロさんが上目遣いで聞いてきた。



「騎士団は殺人や密輸の犯罪者を捕まえたり、危険な魔物の討伐なんかをしているんだ。俺達とは実力も桁違いだし、本隊の聖王騎士団となると指一本すら触れることが出来ないと思う」



「それに騎士団は依頼だけじゃなく国王の命でも動く、騎士団が出向くってことはそれだけ危険な事なのよ」



「へぇ〜、そんなに強くて頼もしい人達ならその手配書の人もすぐ捕まるね!」



「案外俺達で捕まえられたりしてな!?なあ、ナキ!」



「ははっ…」(聖王騎士団…俺は約束を破った……今はもうあの人に会うことないだろうな…)



[どうしました、ナキ?]



[どうせ今考えてた事も読めるんだろ…モラ]



[心の声を聞くにはお互いに心を許した相手、そして聞かれても良いと思っている事だけです。無理に聞くことは出来ませんよ]



[そうか……]



今の俺にはレンの親探し、モラとの契約解除という2つの目的がある。



(今は考えるのを止めよう…そう……今は…)



そんな風に自分に言い聞かせながらモラとの会話を閉じた。



「あら?誰か倒れてるわよ!?」



「あの鎧は…!騎士団だ!!」



道端に鎧を着た兵士が3人倒れているのが見えた。すぐさまその場に駆け寄り意識があるか確認した。



「大丈夫ですか!何があったんですか!?」



「油断…した……奴は…1人じゃ…」



「奴?奴って…それにこんなに深い傷…」



「ナキ、今は治療が先だ」



カイトは兵士の傷口に手を当てると、治療魔法を唱え始めた。



「俺達でも応急処置ぐらいにはなるな…」



「この傷の深さだとどこか安静にできる場所でしっかり治療しないと……」



「さっきの村は遠いわね……近くにラスタっていう村があるわよ」



「よし、治療が終わり次第ラスタ村に行こう」


俺とカイトが1人ずつ背負い、ロロさんとレンで肩を貸しながらラスタ村に歩いた。



「あれは…騎士団ね」



村の入り口にある木製のアーチを潜るとレンが目を細めながら言った。



「ん?……誰か来るぞ」



村の中心の広場から騎士団の鎧を着た小太りの男が歩いてきた。



(鎧の質…種類…それに鎧の下に着ている茶色の服…新兵クラスの隊か…)



ナキは歩いてくる男と背負っている男の装備を交互に見ながら思った。



「君達は……なっ!?、我が隊の兵が…!」



「道端で倒れていたんです。傷の治療をしたいんですが…どこか部屋をお借り出来ませんか?」



「むむ…部屋は村長に頼んでみよう。それと、話を聞きたい」


村長の家の一室を借りてロロさんとレンは兵士の治療をしに行った。広場に残った俺とカイトは兵士を見つけた時の状況をありのまま話した。



「…っという感じです」


「そうか…我が隊は斬り裂きロズウィックという男を探している」



「まさか…この村を襲いに来るんですか?」


「絶対とは言えんが…奴が村を襲うことはないだろう。まあ、座ってくれ」



「…どうしてそう思うんですか?」



丸太に腰を降ろしながらカイトが聞き返した。


「奴は山賊や盗賊などしか襲わないのだ。そして金品を奪っていく…村や街、商人を襲った事は一度もない」


「たった1人でそんな事ができるなんて…」



「我々騎士団もロズウィックについてまだ詳しくは知らない…そもそもこの村に来たのも山賊を退治してほしいという依頼があったからだ」



「山賊…?この近くにですか?」



「なーに!山賊といってもただのゴロツキ共だ。たいしたことはない」



「あの…俺達も手伝って良いですか?」



「ダメだ、これは我々騎士団への依頼…君達の気持ちだけ受け取っておこう」



「そう…ですか。わかりました」



「ほらナキ、知ってる事は話したし行こうぜ」



「ああ……」


俺とカイトはその場を後にしレン達と合流した。









「騎士団…山賊退治に行ったみたいね」



窓の外を見ながらレンが呟いた。



空では夕日が沈もうとしていた。



(…数は10数人…新兵クラスの隊…大丈夫なのか)



ナキは椅子に座りながらそればかりを考えていた。



「みんな〜村長さんが今夜はこの部屋を使って良いって。あっ、も、もちろんナキくんとカイトくんは隣の部屋だよ…!」



「ロロ、それぐらいわかってるから早く入りなさい」



部屋の扉の前にいるロロさんにレンが呼びかけると、扉の近くにいたカイトが扉から素早く離れた。




「ロ、ロロさん…治療終わったの?」



「うん、後はゆっくり体を休めていれば大丈夫」



「そ、そっか…」



「マグヌス…何でそこまで怖がるの?」



「いやー…ロロさんだからという訳じゃないんだけど…」



ガタッ…


「俺ちょっと外行ってくるよ」



ナキは静かに椅子から立ち上がると部屋を出て行った。



「ま、待ってくれナキ!俺も行く!」



ナキを追うようにカイトも部屋から飛び出た。



2人で家の外に出ると、村人達が広場で夕食の用意をしているのが見えた。



「せっかくだから俺達も何か手伝うか」



「そうだな…俺あっちの方手伝ってくるかな〜」



薪割りをしている所にカイトは嬉しそうに歩いていった。



「俺は……」



「ねぇねぇお兄ちゃん!」



「うん?えーと…俺?」



近くにいた小さな男の子に呼ばれ、目線を合わせるように背を低くしながら笑顔で聞き返した。



「お母さんから木の実がたりないから取ってきてって言われたんだけど……」



「けど…?」



「怖いんだもん…暗いし…」



男の子は森の方を指差しながら弱気な声で行った。



「1人は危ないからお兄ちゃんも一緒に行くよ」



「本当に!?ありがとう!!じゃあ、早く行こう!」



小さな木の籠を背負うと森へ走り出した。ナキも遅れないように走り出した。








「まあ、こんぐらいで足りるだろ…」



籠一杯の木の実を見ながらナキは言った。



「少しおもい…」



「頑張れ頑張れ後は戻るだけだ」



(そう言えば…この先に騎士団が行ったんだよな…)



森の奥を見つめながらナキは思い出していた。



「お兄ちゃん…?」



「ああ、ごめんな。さあ戻ろ…」



「うわぁぁあ!!!」



森の奥から男のけたたましい悲鳴が聞こえた。



「何かあったのか…」



「い、今の…お兄ちゃん…」



「村まで走れ、村に着いたらお兄ちゃんの友達にこの事を知らせるんだ…できるな?」



「う…うん」



男の子が走って行くのを確認するとナキは森の奥へ走り出した。



奥へ行くほど肌で感じる湿った空気がより緊張感を溢れ出させる。



「誰か倒れてる…騎士団じゃなさそうだ…」



木々の間を抜け、ちょっとした広場にでると何人もの人が倒れていた。



「こいつら…例の山賊か?」



死んではいないが全員意識は失っている。



「騎士団はどこだ…っ!!」



さらに奥に進と隊長が倒れているのが見えた。




「隊長さん!!なっ!?……お前は…」




隊長の傍に寄るとそこには1人の男が立っていた。



180はある背丈に黒の衣服を身に纏い腰には刀を携えている。ギラギラと赤い目を光らせながらこちらを見ていた。



「斬り裂き…ロズウィック」



「お前も…騎士団か?」



男にしては高めの声だった。それにたいしてナキは小さな声で答えた。



「違う…俺は騎士団じゃない」



「………」



それだけ聞くと何もなかったかの様に近くの袋を手に取ると、こちらに背を向け歩き始めた。



「っ!…ちょっと待てよ…」



「……何だ」



「それは盗まれた人の金品だ…返せ…」



声が僅かに震えていた。それでも震えを押し殺してナキは言った。




「大人しく俺に捕まれ…斬り裂きロズウィック!」



「安心しろ……命は取らない」



血の様な赤い髪を揺らしながらこっちに振り向き、刀を鞘から抜き覇気を放つ。



(震えるな!震えるな…!!)



「アイススライド!うぉおお!!」



籠手を装備し腹に向かって一直線に右拳を振るう。



「単純な動きだ…」


ギンッ!



目にも止まらぬ速さで腹をめがけ振られた刀を左拳で受け止め、ナキは怯み後ろに下がった。



「重い…!」



「…崩旋…!」



眉間、右肩そして再び眉間を狙ってロズウィックは突きを放ってきた。



「くっ……っ!」



ナキは後ろに下がりながらなんとか突きを避けた。


「もらった…」



右手に刀を構え左足で跳躍し距離を詰める。その勢いで振られた横払いがナキに迫った。



(しまった…体勢が!)



先に放たれた突きでナキは左後ろに身を逸らしすぎ体勢が崩れていた。



(くそっ…間に合え!)



右足だけにアイススライドを唱えながら全体重を右足に乗せ、左足を軸にして回り後ろを取った。



「はぁあああっ!!!」



こちらも左拳を回転の勢いに乗せ、刀を振り抜いた無防備な背中へと放った。



ガスッ!!



鈍い音が聞こえた…いや感じたという方が正しいだろう。眼前から消えた次の瞬間、ナキは背中から伝わる強い衝撃に吹き飛ばされた。




「がはっ…!!」



「変わった魔法を使う…」



地面に刺されている刀を抜きながらロズウィックは呟いた。


(そうか…刀を軸に回ったのか…)



「…どうして山賊達の金品を狙うんだ…」



ゆっくりと立ち上がり顔を見ながら聞いた。



「…お前が知る必要はない」



「まだ殺人はしてないんだろ…今からでも遅くない…」



「投降しろ…という事か……無理だ」



そう言い残すと刀を鞘に収め去ろうとした。



「待てっ!」



「いや…待つのはお前だ」



ナキは追いかけ様とした足を止めた。辺りの空気が変わった気がした。




「これ以上俺の時間を減らすな…邪魔をすれば殺す」



一瞬背筋が凍った。先程とは違い殺気を感じる。



「何でだよ…罪を償って真っ当に生きればいいだけだろ!!」



「真っ当に…だと?」



「そうだ…他人と支えあって生きるんだ。1人で生きていくなんて寂しいだろ!」


思った事を全力で声にすると、ロズウィックからの返事は聞こえて来なかった。ただ…刀を震わす音だけが聞こえた。




「うぁあああっ!!」



獣の様に叫びながら刀を振り抜き、怒りに満ちた目でこちらを見た。



「お前は…殺す!!」



ナキは間髪入れずに振り続けられる刀を避ける事で手一杯だった。



「お前らが…お前らが拒んだんだ!!…俺達に孤独を選ばせたのはお前達だぁあああ!!!」




「俺達…!?ぐあっ…!」



言葉に気を取られ腹に一発くらってしまった。



「奇麗事を言うなぁあああ!!!」



さっきまでの冷静さはなくまるで別人の様に荒ぶっている。刀を構え命を刈り取ろうと突っ込んでくる。



「俺は…死ねない!!頼む、モラ!!」



[お呼びとあれば…いつでも]



全身に魔力が満ちていくのが分かる。そして、跳び込んで来る体に渾身の拳を振るう。



「連閃牙ぁあ!!」



右拳に力を集中させ最速で相手の腹に3回叩き込む。



「なにっ…!!急に…速く!?」



「くそっ!一発だけか…」



ロズウィックは空中で瞬時に反応し、拳を刀で防ぎ後ろに飛び受け身を取った。



「一気に決めるっ!!」



ナキは拳を振るい刀を振らせる隙も与えなかった。ナキの魔力が上がることで速さも、威力も比べ物にならないほどに増幅していた。


(消費が早いが…モラの力は強い…!)



「ふっ…!まだ甘い!!」



足下に振られた刀をナキは上に跳び避けた。



「そういう所が…甘いんだ!」



(この速さに追いつくのかよっ!!?)



「くっ…スラッシュモード!」



左籠手から刃を出し、跳び込んで来たロズウィックの刀を受け止めた。



衝撃によりナキは背中から地面に叩きつけられた。ロズウィックは更に上空へ跳び魔法を唱えていた。



「雷雲よ…我が刃に宿れ!!ボルテック!(降雷)」



膨大な量の青白い雷が刀を覆っていく。まるで雷が泣き叫んでいるかのように見えた。



「お別れだ…偽善者……天破雷鳴斬!!」



(あっ…死ぬ…)



仰向けに倒れながらそう思った。空からは一筋の雷となったロズウィックが刀を構え飛んでくるのが見えた。後2秒もしない内に俺はあの刀に命を取られるだろう。




(負けるのか…死ぬのか……あれっ…?)




(なんで負ける…?なんで死ぬ…?……相手は犯罪者だぞ…)




心の中でナキは自分に問いただした。



(俺は出来るだけ…精一杯人に優しくした……頑張った……善か悪といったら善だぞ………だったら)





「俺ガ……オレガァアアア!!!」




キィイインッ!!!



「受け止めた…だと!?」



左籠手を右手で支えながら刀を左籠手の刃で受け止めた。



「オレハ…ゼン…セイギ……オレハ…タダシィイイ!!!」




「な、なんだ…魔力が桁違いだ!!!」



[ナキ…!ナキ!!戻って下さい!]



「…んん…モ…ラ…なんだ……どうなってるんだ?」



ナキはフラつく体と意識をなんとか立ち上がらせ言った。




「魔力が上がったり…下がったり…まさか!お前も……!?」




ロズウィックは額に左手を当てながら独り言を呟いていた。



「ロズウィック…!…んっ…!!」



[ナキ…無理です。もう動ける力が残ってません]



「それでも…やってやるっ!!」足に力を込め一直線に跳んだ。未だに独り言を呟いているロズウィックめがけて右拳を放った。



「くらぇえええっ!!」



「お前は…いったい……」



「ロズっ!…だめっ!!」



「がっ…!かはっ…!」



突如横から来た何かにナキは飛ばされた。木に背中をぶつけ地面に横たわった体を動かそうとしたが全くと言っていいほど動かない。



(なんだ…何が…っ!?)



目を凝らして見るとそこには白いフードを着た小さな人間が普通より2倍くらいの体格があるグリーウルフの上に乗っていた。



「グルルルルッ!!!」



「この人……殺すの?」



「………いや、別にいい。行くぞ…」



ロズウィックはそう言いながら俺の方に何かを投げた。目の前に落ちてきたのを見るとそれは宝石だった。



「金だけは貰って行く……」



「……行って…」



グリーウルフはロズウィックと白フードを乗せるとあっという間に去ってしまった。



「……モラ…」



[…はい……]



「………ありがとう」



[………はい]



辺りは暗く何も見えない中、ナキはモラからの返事を聞くと目を閉じた。森に響く複数の足音を聞きながら。










「俺は…殺そうとしたのか」



自分でもわからなかった。あの時、心の中に抑えていた物が溢れ出す感覚があった。



「ロズ…?」



「心配するな…大丈夫だ。今日は痛まないか?」



「うん…元気。ロズは?」



「…俺も元気だ」



(とにかく…俺達には時間がないんだ。時間が…)

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