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プロローグ
サクラはその手を放さなかった。ハルとつないだ、その手を。
太陽は何時間も前に沈んでいたが、壊れかけの電灯が一つ、あたりの情景を照らしていた。二人の幼い足元に、無骨な岩と申しわけ程度の雑草が生えている。
「ねえ、『せーの』でここから飛び降りよう。ハル」
サクラは言い終わらないうちに一歩、また一歩と歩き出す。ハルの手を引いたまま。やがて2組の足は歩みを止める。次に踏みしめるべき大地は、無い。代わりに彼らの眼下に広がるのは、ただ広く深い海だ。
生死の選択をした彼らを目にして、誰が「幼い」と形容できるだろうか。
「ねえ、サクラ。この海の底で待っているのかな?」
「ううん、ちがうわ。お母さんたちはお空の上にいるの」
二人が見上げた空には、無数の星が輝く。星座に興味の無いサクラにもオリオン座はハッキリと分かった。
古代ギリシアの英雄のゆるぎない力強さは、どこか母の存在に通じるものがある。そう二人には思えたのかもしれない。
星空を背に、サクラのシルエットがいっそう際立った。ハルの右手をしっかり掴んだシルエットの口から静かに言葉が聞こえる。
「せーの」




