第二話 エースの証明
夏の地区予選第一回戦
スタンドには、今までとは比べものにならないほどの観客。
それもそのはず優勝候補の青藍高校がシード漏れしもう一校の優勝候補である徳沢高校と当たっているからである。
一年生の神崎蒼は
ついに、背番号「1」を背負っていた。
「マジで一年がエースかよ…」
「でもあいつなら納得だろ」
ざわめきの中心にいるのは、自分。
でも蒼は、相変わらず表情を変えない。
(いつも通り投げるだけだ)
プレイボール。
初回――
ズバァン!!!
「ストライク!!」
150キロ近いストレートが、外角いっぱいに突き刺さる。
「うわ…えぐ…」
観客がどよめく。
2球目、低めのスライダー。
空振り。
3球目――
高めのストレート。
バットは空を切る。
三振。
そのまま蒼は、圧倒的なピッチングを見せる。
3回まで完全試合。
ベンチに戻ると、有川がニヤッと笑う。
「な?いけるだろ、チームで」
蒼は一瞬だけ目をそらして、
「……まだだ」
とだけ言った。
でもその声は、少し柔らかかった。
しかし――
試合は簡単じゃなかった。
5回裏。
相手の4番打者。
今大会注目の一年スラッガー。
「……来るぞ」
キャッチャーが小さく呟く。
初球、ストレート。
――カキィン!!
鋭い打球がレフト線へ。
ツーベース。
試合初ヒット。
スタンドが一気に沸く。
(打たれた…?)
蒼の中で、何かが揺れる。
今まで、ほとんど経験したことのない感覚。
続く5番。
送りバント。
一死三塁。
ピンチ。
マウンドに、内野陣が集まる。
「大丈夫だろ、エース」
「一本くらい気にすんな」
「まだ0点だ」
口々にかけられる言葉。
蒼は黙って聞いていた。
(……なんでだ)
(なんで、こいつらはこんなに落ち着いてる)
有川が最後に言う。
「俺らがいるだろ」
その一言で、蒼の中の何かが変わる。
再開。
6番バッター。
初球、インコース。
詰まらせる。
打球はサードへ――
「オーライ!!」
サードが捕る。
三塁ランナーは動けない。
2アウト三塁。
蒼は深く息を吐く。
(任せていいのか…?)
(いや――)
首を横に振る。
(任せるんじゃない。一緒に抑えるんだ)
次の一球。
渾身のストレート。
ズバァン!!!
「ストライク!!」
最後は三振。
蒼は初めて、小さく拳を握った。
試合はそのまま勝利。
1-0。
完封。
試合後。
神崎が打たれたバッターが蒼の前に立つ。
「神崎、だよな」
背は高く、目が鋭い。
どこか余裕のある笑み。
「……誰だ」
蒼が言うと、そいつは笑った。
「覚えとけよ」
「次当たるとき、お前を打ち崩す男だ」
名前は――
黒峰 蓮。
「お前、すげえよ」
黒峰は続ける。
「でもさ」
「一人で勝とうとしてた頃の癖、まだ残ってる」
蒼の目が細くなる。
「……何が言いたい」
黒峰は振り返りながら言う。
「チームで戦う覚悟、まだ中途半端だろ」
「それじゃ、俺には勝てねえ」
その言葉は、図星だった。
夜。部員全員が寝たあと二人はこっそりと抜け出しグラウンドに立つ。
黒峰が言った「それじゃ、俺には勝てねぇ」がずっと頭の中で響いていた。
でも今日は一人じゃなかった。
有川がいる。
「投げろよ、エース」
蒼はうなずく。
(今度は――)
(本当の意味で、チームで勝つ)
放たれる一球。
それは今までで一番、重く、鋭く――
そして、どこか繋がっている球だった。




