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23 慌てるなよ、お姉さん

この突然の非難と殺気に直面しても、リオは微動だにしなかった。

手を離すどころか、むしろ私をさらに強く抱き寄せ、顎を軽く私の頭の上に載せる。その仕草には、親しげで、挑発の意味さえ混じっていた。


彼は横目で、下方に立つ激怒の王太子レオンをだらりと見下ろし、私の耳元にだけ届くほどの低い声で囁いた。

「動くな。慌てるなよ、お姉さん。今、引いたら俺たちの負けだ」


その声には、奇妙に人を落ち着かせる魔力があった。

驚きと恐怖で固まっていた私の体は、いつの間にか少しだけ力が抜ける。


リオは顔を上げ、今度は堂々と声を張った。

その口調には、まるで何か可笑しい話でも聞いたような、余裕たっぷりの嘲りが滲んでいる。

「王太子殿下、さすがですね。天にも地にも口を出し、今度は他人の“旧交”にまで干渉なさるんですか?俺とアリシアは久しぶりに再会して親しく話しているだけですが、殿下はそれが気に入らないご様子ですね?」


その一言が、レオンの怒りに火をつけた。

瞬間、空気が凍りつく。


「死にたいのか!」


レオンの剣が唸りを上げ、冷気が爆発的に膨れ上がる。

瞬く間に氷霜が竜の形を取り、空を震わせるほどの咆哮をあげた。

氷龍は凄まじい冷気を纏い、飛行船へと一直線に突進してくる。

通過するたびに空気が凍り、細かい氷晶が弾け飛んだ。


だがリオは立ち上がることすらしなかった。

ただ軽く片手を上げ、五指を開く。


瞬間、無数の光の符文が夜空の星のように散り、集まり、編まれていく。

そして巨大な“星の盾”が飛行船の前方に現れた。

その表面には星河が流れ、深淵のような法則の力が脈打っている。


――「ドゴォォォォォン!」


氷龍と星の盾が激突した!

耳を裂く轟音が空を貫き、大地を揺るがす。

魔力の衝撃波が津波のように広がり、周囲の空気を巻き込んで暴れ狂った!


大使館の結界が激しく揺れ、光幕には狂ったような波紋が走る。

外の地面は余波で削り取られ、深い溝ができ、土煙が舞い上がった。


――聖都は再び騒然とした。


無数の視線が光と影の中で交錯する。


「やっぱり“白月光”は白月光か……」

「婚約を解消されても、王太子はアリシア姫の隣に他の男が立つのが許せないらしい」


「だが協会の少主もさすがだ! あの一撃を軽く受け止めるとは……」

「これはもう、聖都の“双璧”の誕生だな!」


そんな噂が飛び交う中、魔力の嵐がまだ渦巻いていた。


リオの声が、冷たく、清らかに聖都の隅々まで響き渡る。

「――ふん。召喚秘境との婚約契約にすがりついて、ようやく王太子の座にしがみついているザコが……」


彼の口元に冷笑が浮かぶ。

「俺の、召喚士協会の“未来の主母”に、口を出す資格があると思っているのか?」


一語一語が、冷たい審判のように大気を震わせる。

「許嫁契約はすでに破棄された。お前は、何様のつもりだ?」


その瞬間、空気が完全に凍りついた。

雷鳴のような言葉が、レオンの心に叩きつけられ、

彼の怒りも誇りも、一瞬で“恥辱”と“蒼白”に変わる――。


***


見合いは終わり、リオは母妃に挨拶をして協会本部へ戻っていった。


だが、「協会の少主がアリシア姫を守り抜いた」という噂は、

まるで翼を得たように聖都を駆け巡り、私を再び渦中に押し上げた。


母妃は喜びと不安が入り混じった顔で、日に何度も私を捕まえては尋ねてくる。

「アリシア、リオはあなたのことを気に入っているのかしら?

あの日、あんなに守ってくれたのに……その後、顔も見せないなんて?」


私はもううんざりしていた。

「彼が気に入ろうが気に入るまいが、どうでもいいでしょ!

どうして“私が彼を気に入ってるかどうか”は聞かないの!?」


母妃は軽く私の頭を小突き、ため息をつく。

「バカ娘。そんな強がり言ってる場合じゃないの。

まだレオンがあなたの周りを囲んでた頃のままだと思ってるの?

現実を見なさい。あの人は協会の少主なのよ? 一目会いに来てくれただけでも大恩よ!」


……そんなこと、分かってる。

今の私にとって、この立場は崖っぷち。

聖国王室の圧力に逆らってまで私に求婚できる人なんて、世界にほんの一握りしかいない。

その中でも最も力があり、最も将来を約束された男――リオ。

なのにその彼は、よりにもよって、昔“私がいじめた”苦主。


ひと月が過ぎ、母妃はついに意地を捨てた。

秘蔵していた高価な伝訊符を取り出し、丁寧に言葉を選んでリオに送る。

「お暇な折に、ぜひ大使館へ。ゆっくりお話を……地主としてのお礼も兼ねて」


けれどその伝訊符は、海に沈んだ石のように、何の返事もなかった。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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