【a5d:a6d】-[4]-(4)
玄関に戻ると、ヤムとベリーはリュックサックと小銃を、片方の肩に担いでいる。
「カユー様の装備はこちらです」
と木箱の上のそれらをオリバーは手で指した。
「ありがとう」
カユーがオリバーに云い、ヤム達と同様、肩に担ぐ。
扉を開けて外に出ながら、オリバーがイーヴィへ問うた。
「――〝川〟を渡るまでは、サヴァナの御方に警戒をさせないため、弾は空でと仰せだったのでしょうが、作戦が始まってからはどうなさるのですか。サヴァナにある弾が合うとは限りません」
イーヴィは「ふ」と苦笑を見せて、肩を竦めながら答えた。
「それこそ、『空』が確認出来た砦やトーチカから『拝借』すれば良いさ。――昨夜、タロー殿が仰っていた。シド君が居たトーチカに兵糧は無かったのに、弾薬だけは潤沢だったと」
それは事実だ。カユーが「嘆かわしい」という意味の渋面を作って頷いた。
「シド、『拝借』した後の弾薬や銃器は、サヴァナの警備隊長殿の管理に置くようにしなさい。『作戦』実行時以外、平原に居る間は、基本的に『丸腰』で居るように。――『警護』『護衛』『護身』に携行するのも、余程不審な人物が居ない限りは、ナイフ程度で」
「はい」
「ヤム君とベリー君も、シドの指示ばかりを待つのではなく、出来るだけ、努めてサヴァナの指揮系統や機器に慣れるようにな」
「はいっ」
――そうこうしているうちに、太陽はかなり高くなっており、サヴァナからやってきた工員達が昼食を取ろうとしているのか、西に設えたテント付近が賑やかだった。
「――こりゃ、わぁ! 肉ばっかり選らんでネギも取らんなっ――汁も吸わんと、汗かかれんでっ」
これは、リッカの声だ――昨夜はかなり「余所行き」の言葉遣いをしていたのだと分かる。周囲が身近な者ばかりだと、弟や父親と同じくらいに訛りがきつくなるようだ――イーヴィの口元が微かに綻んだ。
西の方に向いて見渡しても、ジンと剛義の姿が見えないので、揃って探査車の方へ近づいた。
その他が整列し、イーヴィがステップの前に立ったところで、高いところにある探査車の扉が開いた。姿を見せたのは剛義である。
階下のイーヴィに気づき、剛義は「おっ」と瞬きをした。
続けて、ジンも出てくる。
二人に道を譲るように、ステップの前から離れ、整列した隊員の前に代表として立った。
「『婆さんちの記者会見』は一区切りついたかい」
剛義の言葉に、イーヴィとカユーは「あ」と一度口を開き、ばつが悪そうに苦笑した。
「いえ、それが……実はそちらは、大して確認しておりませんで」
「あら」
だとすると、此処に姿を見せるのに随分時間が掛かったのでは、と思い、ジンも小さく首を傾げた。
それで、剛義とジンに、カユーに託した新たな任務と、オリバーから提案された「捜索・救助作戦」案の一つを簡潔に説明した。
――表に出さずに感心しながら聞いていた剛義とジンだったが、
「後から後から、貴方方には依願を追加する格好になってしまって、申し訳ありませんが……」
とイーヴィが本当に恐縮そうに云ってきたところで、剛義が、パチンと自分の額を叩き、天を仰いで
「かはははは」
と堪えきれない笑い声をあげた。
――ジンの方は、流石に辛抱が効き、俯き加減になって苦笑を隠す。
意表を突かれる反応だったので、えっ、とイーヴィがたじろぐ。イーヴィの背後の隊列も「何事だ」と驚いた顔を互いに見合わせた。
ひとしきり笑った剛義は、「はあ」と息をつき、額に手を当てたままでイーヴィに顔を向けた。
「どこまで真面目で行儀の良い衆かえ、あんた達ゃ。――ほんとにまことに、何故、あんた方と戦争しよったんか、分からんごてなった」
剛義の笑顔は、何だか、泣き出しそうな形にもなっていた。
彼の笑いに含まれていた「感傷」にイーヴィも気づき、ジンと同じく苦笑を浮かべていた。
「――イー・ル中央政庁、大導師長が宣戦布告をしたから。お互い、そう開き直っておきましょう」
イーヴィがそう云うと、剛義も「ああ、そげぇじゃな」と返した。
「さて、そうなると……」
首を伸ばすようにして、剛義がイーヴィの背後の若衆を見、傍らに立ったジンの顔も見上げた。
ジンがこくりと頷き、「〝ツルギ〟に云っとくことが増えましたね」と筆頭へ云った。
剛義が肩を竦める。
「蝦さん、もう出立するつもりで揃っち来たんじゃろうけど、そげんことじゃったら、もう少し、〝川向こう〟に準備させちょかないけんことが出来た。〝車〟と〝人員〟のやりくりもちょいと変えるけん、皆いっぺん、屋根ン下に戻ろうえ」
そう云って、砦の方へ手を振った。
「それは……、やはり、恐れ入ります。こちらの都合で――」
と、重ねてイーヴィが恐縮そうに云うので、「気にしなんな」と剛義は返した。
「そっちが、こっちに気を遣うちくれた結果の『都合』じゃろ、お互い様じゃ。こっちこそ、『おおきに』ち云わないけんわ」
剛義がイーヴィを振り返らせるように二の腕を叩き、ジンはイーヴィに会釈して探査車に戻っていった。イーヴィは、カユー達に、引き返すよう掌を見せる。
「どうせ昼時やし、メシ食うてから出てんいいじゃろ、――よぃ、六ちゃん! こン子達に、汁注いぢゃっちょくれ」
テントに向かって腕を上げ、剛義が大声を出す。
それで、六花や〝ハナ〟、偶々行き会ったサヴァナの工員から、「どうも初めまして、宜しく」といった挨拶もされながら椀を受け取り、砦に入って、団子の入った干し肉のスープを皆で食すことになった。
EV隊の者達は、かなり厳格、純正に近い儀礼を持った上で、「永い別れ」を覚悟した後だったので、相当拍子抜けしてしまった――。
その後も――、先の打ち合わせでは、今朝砂漠に着いた諜報隊員の車で〝川〟までカユー達を連れて行き、平原で待つ隊員へ「引き渡す」格好にするつもりだったのが、平原から警備隊員を迎えに行かせる、という――昨夜のチォ達と同様の――形になったので、出立までかなり待つことになった。
故に、ヤムとベリーは一旦荷を置き、サヴァナの工員に混じって、工具や資材を運んだり、テントで使用済みになった器を洗ったりして時間を潰した――そのお陰で、サヴァナの者と随分馴染むことが出来、
「あっちに行ったら、サトオおばさんの水飴は舐めときな、風邪ひかなくなるぜ」
「サヴァナに居る間に、〝ドゥリャ団子〟だけは絶対食っとけよ」
……なんて情報を受け取ったし、
「警備隊に俺のダチ公で『ハリー』ってのが居んだけどよ、俺ンちのガキに『トゥリー・ボール』教えてやるの忘れるなって、釘刺しといてくれよ」
等と、伝言まで頼まれたくらいだった。当代筆頭の通達と先代筆頭の手配が的確で「何の柵も凝りも無く己の腕を磨くことしか興味が無い職人」ばかりが来ているから、というのもあるだろうが、其処までの間にスォ=ハムとクォンが、既に「潤滑油」か「界面活性剤」の役割を果たしてくれていたというのがあるのだろう――。
ジンが平原側へ伝えることが増えたと云うのなら、それは当事者であるイーヴィとカユーも居た方が良かろうと、諜報隊員を一旦外に出し、剛義も加えた四名で打ち合わせた――もし相手が「道化師の集団」の総統だったら、サウザーの「三羽烏と領主」に対した時のように「加齢臭臭ぇ」か「抹香臭ぇ」とでも吐いたことだろう。かなり大柄な男が二人居るので、誰が見ても相当に窮屈そうなところに、結構な年寄りが一人、そして「イー・ルの導師」が二人詰め込まれている訳だから――。
オリバーはその間、朝と同じように、全体の状況や修理の進捗を把握するべく務めていた。
結局、平原からの警備隊員がBR19に着いたのは、人々の影がそれぞれの身長と同じくらいに伸びたくらいの頃だった。
サヴァナ警備隊の〝車〟の前で、カユーとヤム、ベリーが整列し、向かいにはイーヴィとオリバーが、少し離れて剛義とジンが並んでいた。その後ろには、スォ=ハム達EV隊隊員――までは分かるが、少し手が空いたサヴァナの工員達までも集まっている。
カユー達が、主にイーヴィとオリバーに向かって敬礼を捧げた。答えて、イーヴィとオリバーが敬礼し、背後でEV隊の面々も。
いよいよ、警備隊の車が離れていく時には、
「気をつけてなー」「風邪引くなよー」――警備隊に「ダチ」を持つ者も居るということは、「迎えに来た隊員がダチ」だった者も居るのか、随分馴れ馴れしい声色で――「事故んじゃねえぞー」
……等々、むしろサヴァナの工員の方から、門出を祝うかのような、朗らかな声が上がった。大きく腕を振って、平原へと見送る。
イー・ル兵は、そこでまた、たじろいだ――ある意味出鼻をくじかれたような気分にもなったが、その雰囲気に後押しされたのか、
「ヤムさーん、ベリーさーん、カユーさまー! リモのこと、たのんまーす!!」
大きく腕を振りながら車を追いかける形で、スォ=ハムが叫んだ。
――カユー達を乗せた〝車〟も、幌を上げていた。スォ=ハムの声は彼だけに聞こえたのか、ヤムが振り返って、サムズアップを見せた。スォ=ハムは、それを目にしたところで、走るのを止めた。
だが、全員、〝車〟が砂の丘を越え、見えなくなるまで見送った。
厳格にして悲壮な「出立の儀礼」で、「永い別れ」を覚悟した――だが、そうじゃなかった。
もうすぐ赤くなる、でもまだ黄金の煌めきを持つ太陽の光を浴びて、ハアハアと肩を上下させている、逆光で昏いスォ=ハムの背中を見て、イーヴィは思った。
再会は、叶わないかもしれない。故に、「永い別れ」なのはそうなのかもしれない。
だが、これは、互いに、「旅立ち」であった。それは、嘆くのではなく、寿ぐ別れのことだ――。
――「おーい、スォ=ハム! 明るいうちに、〝軸磨き〟まで、やっちまうぜー、いつまでもセンチになってんなよーっ」
背後で、聞き慣れない声がした。
「あ、ウッス!」
それを不思議に思う様子も気を悪くした様子も見せず、スォ=ハムが振り返り、イーヴィに会釈しながら、すれ違い駆けていった。
――スォ=ハムが駆け寄っていったのは、やはり、イーヴィはまだ名を知らない、サヴァナの御方だ。
あんなふうに、「親しげ」――と云っては聞こえが良すぎる、「失敬」な悪態めいた台詞を吐かれても、気にならないくらいに馴染んでいるか。
今度は陽を浴びて明るい彼の背中を見送り、イーヴィは頬を緩ませた。
旅立った者達に思いを馳せつつ、イーヴィは腹に両手を乗せた。
陽が、最初に明るくするのは、東だ。だが、最後まで明るいのは、西だ。
【五日後のサヴァナ】
-over-
/2024.4.28
-----
ここまで読んでくださってありがとうございます。
「もともと発表するつもりもなく気の向くままだらだら書いてた」のと、基本的に「『これで一区切り』と作者的に納得出来るところまで書かないと表に出す気になれない」性分もあり、「ある程度(の文字数)書いて〝都度〟投稿」というスタイルは自分には無理なので、一旦、ここで完全に止まります。
が、ここまで話が進んでない物を「完結済」設定するのはあんまりなので、「連載中」のまま放置とさせていただきます。
それでは。お目汚しでございました。
文責:橘隆之
-----




