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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day3】会議の日
164/171

【day3】-[7]-(1)



 程なく、三つの〝球〟それぞれの内側で、滲むように()()()()〝顔〟が映し出された。

 ――真ん中の球には、随分と……一言で云えば〝派手〟な女性が、タオから見て左側の球には細身の壮年男性が、右側の球には……()()()()()()()()()()貫禄ある老人が、映し出されている。

 左側――リオン達から見ると右側の球に顕れていた男性が、

「先ずは、アポイントもなく、よりによって領主様へ直接のご面会をお願いしたことを、何よりお詫び申し上げます、どうも失礼致しました。かつ、ご対面が叶いましたことに御礼申し上げます」

 ……と、礼儀正しく、しかし聞きようによっては慇懃に、そう云った。バーナードとタオ達の間くらいの年齢だろうか、目尻や口元の皺、黒と白が混じってグレーになった頭髪からすると、そのくらいに見える。リオンやチョウ達くらいの、まだ「若造」とも呼ばれる年齢の者が迂闊に身につけると「チンピラ」になってしまいそうな、光沢の有る黒ストライプ生地のスーツを、上品に着こなしていた。

 黄褐色の肌に一重瞼の目を、少し色のついた眼鏡で覆っている――その顔が、たまにタオが見せるような「にやにや」とした薄笑いだったから、先の言葉が本当の「礼儀正しさ」から出たものでなく、慇懃な社交辞令にも聞こえたのだろうと、リオンは思った。

「んまぁ、お歴々がお揃いですこと! まさかこんな大物が揃っているなんて思ってもみませんでしたわ、さっきの若い殿方、『その他』だなんて仰ってたんですもの」

 次に、真ん中の女性が、大げさな驚きの声を上げた。

 こちらの年の頃は、フーコーと同じくらいだろうか、ルナールよりは年上に見える。何度見ても()()だ――「年甲斐も無く」という枕詞を付けたら、恐らく相当ムッとするに違いないくらいの年齢ではあろうと、リオンは思った――。これはフーコーと違って日焼けで褐色なのだろう肌に金目、そしてクルクルと色んな方向に曲がりくねった長髪は、赤や茶色、白や黄色と随分カラフルだった――地色はどれなのか、それともどれも違うのか分からないほどに混ざっている――。フリルをふんだんにあしらった白いブラウスの胸元を大きく――ボタン三つ分くらいは――開いており、女性が身につける上半身用の下着……つまり「ブラジャー」が見えてしまっている、いや、見せているのか――肌の色が()()()()褐色なのだろうことは、そのせいで分かった――。

 そして、最後の一人……、ディナムと同じくらいの年に見える老人は、やはり彼と同じような低い声で、

「やあ、ご無沙汰していた。――おや、随分若い子が居る」

 と云った。こちらは、殆どが「ディナムと似ている」。総髪、立派に蓄えた口髭に顎髭、少し瞼に掛かるくらいに伸びた眉毛、ディナムと同じくらいに刻まれた目尻の年輪(しわ)、柔和に見えて底知れぬ眼光。静謐な空気と、途方も無い存在感。

 ――ただ、肌の色を除いて()()()だ。肌はディナムも彼も同じくらいの薄い褐色なのだが、彼は髭と髪と眉毛が黒――そのため、ディナムよりは若いのかもしれないふうには見える――、そして()()()()()()だ。

 アサギは、老人のローブの色に少し驚いた。「法師」でもある自分――フリュス家の者の「法衣」は白が使われているが、〈魔術士〉、特に〈マスター〉のローブは、()()()()()()()()()「黒」と()()()()()()のではなかったろうか。この老人も、フリュスの者と同様、〈魔術士〉とはまた別の「立場」にもあるのだろうか――あるいは、こんなにもディナムと似た()魔術士の雰囲気を醸しているにも関わらず、もしかして〈マスター〉ではない、とか……?

 若い子、とは自分達のことだろうか……。リオンが、今度は目を見開く。老人が自分達に言及したことでは無く、()()()()に驚いたせいだ。

 ――この「機械」は、サヴァナから技術提供されたものであるはずだ。球の内側に見えている顔は、平面ではなく立体的――顔というより「首」、「胸像」が本当に浮かんでいるようなのだが、それは「面向不背」の状態であり、三百六十度どこから見ても、ちゃんと相手の顔が見える。だから自分やアサギ、ディナムと同様、向かいに居るタオ達にも彼らの顔が見えている筈で、シダーやバーナード達も同様である。また、向こうにも、こちらの三百六十度が見えている筈……、だから「お歴々」の全ても、「若い子」――自分達のような、向こうからしたら〝部外者〟も、居ることが認識出来ている。そういう機械であることを、リオンは良く知っている。

 だが、それは、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 ……サウザーが「敵対(せんそう)しても可笑しくない相手」なのに、サヴァナから「技術提供をしても可笑しくない相手」でもあるのか…? 少々混乱してきた、リオンは困惑して首を捻った。


「あらまあ、本当。どちら様かしら、可愛らしい方!」

 派手な女が、やはり高い声を出して云った。

「むっ、シダー博士までいらっしゃるではありませんか。――全く、タオ様と来たら、こういう時ばかり()()()()()。他者に全く興味を示さず情の無い冷徹かと思えば、人材だけはいち早く懐に入れてしまう。シダー博士をスカウトするために、我が商会がどれだけ世界中を探し回ったとお思いです」

 ……やはり先ほどの挨拶は「社交辞令」だったのだろう。その嫌味めいた嘆息の方が、余程本音に聞こえた。シダーが、相手に聞こえても聞こえなくてもいいくらいの声量で、

「探し回るって。俺が好きな時に故郷(じもと)に居て何が悪いんだ?」

 と独り言を云った。

「あらぁ、随分、私好みの()()()()もいらっしゃるわぁ、タオ様、紹介して下さいません?」

 ……女が、大げさに猫なで声を出し――どうも視線は三つ子の方へ向いていた。あまり似ていない三つ子である、一体誰を指して「イケメン」などと称したのかは、流石に――いくら高品質なサヴァナ製であっても――機械越しであるから定かでない。

 タオが、真意の全く見えない薄笑いを浮かべて、

「それより、君らの方から先に自己紹介してくんないかな、彼らに。彼らからしたら、君らの方が初対面の()()()なんだ。知らない人間がずかずか自分ちに入ってきて『おまえ誰だ』といきなり云ったら、愉快じゃないだろ?」

 特に女の顔が浮かんだ真ん中を見ながら、そう云った。――その言葉使いだけで、タオは彼女のことなら知っている、ことは分かる。

 女はピクリと目を細めた後で、「あら、御免遊ばせ」と、やはり大げさに恐縮そうな顔を作った。

 促されたのが彼女であったので、まず彼女から――

「失礼。わたくしは、〝イリグマギ結社〟の〝右脳〟――まあ、皆様方に分かりやすく申し上げれば『参謀』の一人、ってことになりましょうか?――カロライン・ロザリウムでございます。以後お見知りおきを」

 と、今度は大げさに気取ったりもせず真面目な声で云った。

「私は平零商会(ピンリー・カンパニー)の会長を務めております、キム・タイラーでございます――お若い方が不思議そうな顔をしておいでですが、世の中には〝政財界〟という言葉も当たり前にございますとおり、〝企業〟も()()()()になれば、それなりに『国家』と肩を並べて()()も出来るものでございますよ――」

 女の次には細身のスーツ男が。そして最後に、「黒くて白い」老人が、

「オーチャード・ノル・ユニオンの総帥、ナハト・カラスだ」

 と端的に云った。



 三人の自己紹介が終わったところで、タオが、

「では、時間の短縮のために、君らがまだ知らないだろう人物を、()が纏めてご紹介しよう」

 と少々早口に云った。向こうに口を開かせる間を与えず、

「まずは年功序列で――ショート・バーナードさんはお三方ともご存知だね? その隣に居られるのは、東アルクスの〝魔術士連合会〟婦人部会長を務められたことがある、オリヴィア・チーフ・ライネンさんだ」

 とオリヴィアを手で指して云った。オリヴィアが、ちょこん、と小さくお辞儀する。

 真ん中に浮かんでいた女――カロライン・ロザリウムが、またしても大げさに驚いた顔をして、

「んまぁ、貴方がオリヴィア様! お目にかかれて嬉しいですわ、わたくし、お母様の代からライネン工房の大ファンですの! 引退なさったのが残念ですわぁ」

 自分の胸と肩に手を当てながら、そんなことを云う。今着ているのもライネン工房のものだ、というアピールなのかもしれない。

 オリヴィアが、「あらまぁ、そう~、それはどうもありがとう」と云った――が、

「でも、()()のファンだと仰るなら、下品な(はしたない)着こなしはしないで頂ける? そんな着方されちゃ悲しいわ、おっぱいが大きくなって閉まらないの? あたくし、引退はしたけども、仕立て直しくらいはしてあげるから、今度、工房にいらっしゃい」

 小首を傾げてオリヴィアが素朴な口調で云うと、カロラインはグッと息を飲む。――「ファン」という言葉はお世辞やお為ごかしではなく、オリヴィアの言葉を皮肉や嫌味とも受け取らなかったらしい。()()()()()()様子は無く、カロラインはバツが悪そうに俯き加減になり、そそくさと胸元のボタンを二つ留めた。

 その様子を見てオリヴィアも、

「ああ、やっぱり、バストのサイズが合ってないのね? 合わせに隙が出ちまってる、直し入れた方がよろしいわ。――有難う、随分長いこと着てくれているのね」

 微笑しながら素直な口調で云った。――どちらかと云えば男性陣の率が高い場で、おっぱいだのバストサイズだの平然と口にするのは「デリカシーが無い」と云えるだろうが、もともと「見せて」いたのが向こう(カロライン)なのだから、オリヴィアをそうやって責める筋合いも無かろう。

 カロラインは、少しだけたじろいだ表情を見せた後で、意味もなくカラフルな髪を掻き上げた。――リオンは、そのやり取りを見て、「訳が分からない…」と一層首を傾げる。何だか「気持ち悪くなってきた」気もして、彼も、意味もなくふて腐れたように口をへの字にした。

 タオが薄く笑い、次、と一度シダーの方へ手を差し伸べかけたが、

「ああ……、シダー君のことは知っているふうだったな。じゃあ、その隣り」

 と手の方向を変えた。

「サウザー軍魔術士部隊の若手三人だ。シダー君の隣が、(ケン)・ナーヴィ、続けて(チョウ)(ギン)。三つ子の兄弟なのでファミリーネームは同じ」

「ほう、貴方方が! お噂はかねがね。サウザーの〝トリオ・ザ・センシング〟ですな?」

 スーツ男――キム・タイラーがそんなことを云う。三つ子は三人とも訝しげな顔を見合わせた。〝例の三つ子〟、〝サウザーの三つ子〟とか、そんな云い方ならされたことはある。だが、そんな通り名など持った覚えは無い……、外ではそんな名で「噂」されているのだろうか。

 そんな疑問が三人とも表情には出てしまったのだが、本来無口でもあるので、特に質問や相槌も無く、ぺこりとお辞儀するだけだった。ただ、真ん中の女、カロラインが、

「ギン君と仰るのね、うふ、青い目が綺麗」

 ……等と云いながらウィンクを見せてきたので、ギンは思わず、「嘘ッ、僕?」と小さいながら驚きの声を上げる。そして、俯き加減に顔を背け、「絶対、ケン兄かチョウ兄だと思ったのに……」と冷や汗をかきながら呟いた。

 何となく「釈然としない」に近い気持ち悪さがあったリオンも、それには少し笑ってしまい、彼も俯いて誰にも顔を見せないようにしながら、への字に下がっていた口角を上げた。

 そして最後にタオが、リオンとアサギを指し、

「ご指摘の若い子は、サウザーの者じゃない。金髪の彼は、リオン・エアロ、サヴァナからのお客人だ。銀髪の彼は、フリュスからのお客人、アサギ・ヴィレ・フリュス」

「ほう……。成る程、〝シロー君〟と、〝クレア嬢ちゃん〟に似ている」

 それを呟いたのは、黒くて白い老人――ナハト・カラスだ。タオから手で指され慌てて顔を上げたリオンは、延長で驚き、目を見開く。アサギも「えっ」と瞬きをした。

 〝シロー〟というのが、リオンの母の祖父、つまりリオンの曾祖父であり、〝ギーチ〟の従兄なのだ――()()()()()

 〝クレア〟はアサギの母の母、つまりアサギの祖母――フリュスの前々司祭である、こちらも故人だ。

 ――オリヴィアも自分に〝ギーチ〟と似ているとしか云わなかったのに……しかも「君」だって?

 ――〝クレアおばあさま〟を「お嬢ちゃん」と云う人なんて、フリュスの長老にも居ない……。

 リオンとアサギは二人とも、確認し合うことは無かったが、この老人はやはり相当の齢を重ねている、と確信した。


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