プロローグ-3
ここまでで、プロローグは終わり……かな?
ソレは首をゴキゴキと鳴らしながらアルティンが気絶しているのを確かめつつ床に落ちた仮面を手に取る。
「いやー、参った。これは期待したくなってしまうね。スーちゃんも人が悪い。あ、人ではなくて神か」
そうふざけながらも身だしなみを整えていく。
「油断、よくないね」
ソレはアルティンを抱え、セフティーで一番の大通りを歩く。人のいない、この町を。
「スーちゃんもだけど、これはアーちゃんもか。きょうだい思いで優しいね」
なぜ知っているのか、ソレはアルティンの寝床にしている小屋の中へと入っていく。そっとアルティンを寝かせ、呼吸があることを確認する。
「私は嬉しいよ、世界を託せる人がいたことが」
アルティンの頭の上に手を置き、そっと撫でる。母親のように優しく、ゆっくりと撫でる。
「君には私の力を」
ゆっくりと手を頭から首筋まで持っていく。そして鎖骨周辺を二、三回ポンと叩く。すると首元にネックレスが一つ、現れる。平たく、白い円形の飾りのついた、とてもシンプルなネックレス。
「また、逢う日まで」
ソレは音もなくふっと消えた。寝息だけが聞こえる部屋に、ちりんと鈴の音が一つ、静かに鳴った。
「はっ! ここは!?」
ガバッと身体を勢いよく起こす。そこが寝床であることに気づき、首を傾げる。
「……え? いや、俺外にいたよな……? じぃちゃんに会いに行ったけどいなくて、んで、なんか変な仮面のやつと……っ!」
言っていく中で、アイツはどこだ、と周囲を見渡す。人の影すら見えないことでいないと確信し、ほっと胸を撫で下ろす。
「んー……つまり、夢?」
おっかしーなーと立ち上がり、頭を掻く。コツンと足に何かが当たる。
「ん?」
そこには一本の茶色い杖が。
「これって……ってことは、夢じゃねぇ!?」
その杖を持ち、ダダダッと小屋を飛び出していく。先ほどの路地まで走る。
「こ、ここか……」
争った形跡などなく、いつもと変わらない路地が広がっていた。
「……あれ〜?」
首を傾げ、ぼーっと歩く。そこで気づく。
「誰もいねぇ……」
人っ子一人いない街を歩く。陽が傾き、空が微かに黒ずんでいく。
「…………。……今日は寝るか」
無い頭を捻って考えていたからか、頭から湯気が出ている。思考を放棄して寝床である小屋へと駆けた。
「よし、おやすみ!」
明日のことは明日決めよう。そう考え横になる。すぐに大きないびきが辺りに響いた。
夜間、特に何かあるわけでもなく、直に陽が昇り、鳥が鳴き始める。アルティンはくぁ〜と大口を開けて目を覚ました。
「……ん、おはよう」
誰に言うともなく、呟いてから立ち上がる。微かに届く朝日を浴びながら、口を開く。
「よし、この町、出るか!」
本当に考えたのか、ただ寝ていただけではないのか。そんなツッコミが出てもおかしくないほどにあっさりとそんなことを決め、いそいそと荷物の整理をする。
「んー……枕と肉と、杖。これだけあればいっか」
少ない荷物を手に慣れ親しんだ小屋を出る。
「うしっ、行くぞ!」
生まれ育った町を出るために踏み出したその一歩は、いつもよりも小さく、しかし力のある一歩であった。ネックレスがキラリと、まだ己の存在を知らぬ持ち主の行先を案じていた。
——かくして。月を知ったごく普通の少年は、月を目指して歩んでいく。行く先々で出会う困難も幸福も、その全てはまだ未知の中。さて、彼は月にたどり着くことができるのだろうか——。
「どこ行っても戻ってきちゃうんだけど!? これが噂に聞く”キソーホンノー”ってやつ〜っ!?」
……幸先不安なアルティンの道は、まだ開かれたばかり——。
さすがに一週間以上も経てば、興奮も冷め……冷めて……いるよな?苦笑