22.吸血鬼さん、復讐の障害を除去しに行く。
湖に余暇を楽しみに行ってから、数日が経過した。
ティティとミミの二人を組ませてレベル上げとお金稼ぎの指示を出し、毎日は極めて良好に過ぎて行っている。
休息は十二分に取ったので、そろそろ俺も動き始める必要がある。
具体的にまずは魔王との接触だ。”疑似転生”とかいう厄介な方法を行える存在であるから、残りの勇者の復讐を行うに当たって、この魔王を見過ごして置くことは出来ない。
魔王がいる場所は魔王城であり、その場所は既に人間側に把握されている。
居住地がバレているにも関わらず、魔王には居を変える気配が無いようだが、それは普通の人間に遅れなど絶対に取らないという自信の現れだろう。
実際、魔王は強敵とされている。勇者以外では太刀打ち出来ないと言われていただけあって、赴く者も皆無なのだ。
ただ、勇者だけが対抗手段とは言うものの……いくら低レベルになっていたとは言え、その内の一人であるサザンに対して割と冷静に会話を運んでいたのが魔王である。
勇者たちが『あえて魔王を倒さない』と以前に言っていた時の様子は決して強がりでは無かったし、記憶を吸った限りでは、ティティ、ミミ、サザンは全員が以前は150前後のレベルであった。
他の連中も同程度かそれ以上なのはほぼ確実だ。
勇者たちの最盛期の強さは推して知るべしである。今の俺には及ばないが、それでもかなりの強さであったのは事実だ。
もしかすると、勇者と魔王は互いに相手を見くびっているのかも知れないな。
相手を見誤れば反撃を食らう可能性があると考え、絶対にそのようなことをしない俺には分からない心境ではあるが。
本格的に復讐を開始させようと一番最初に思った時も、わざわざ”経験値を吸う”でレベルを減少させたのは、俺自身が勇者たちを決して見くびってはいないからである。
まぁ……こうして色々と考えたところで、魔王と直接対峙して見ないことには何も分からない。百聞は一見に如かずと言うのだ。
というわけで、俺はティティとミミにいつも通りの指示を出しつつ、単身で魔王城へと向かうことにした。
二人を連れて行かなかったのは、疑似転生の時だけとはいえ魔王と面識があるミミは外した方が良いと判断したからだ。
記憶を失い俺に心酔するミミを見れば、魔王が何かしらの反応を示す可能性がある。
きっと悪い方向で興味を抱く。
魔王は俺にとって復讐の対象ではないので、勇者たちへの今後一切の協力をしないとして貰えればそれで十分である。
仮に戦いになれば俺とて負ける気は皆無だが、そうではなく、そうなるキッカケになりそうな刺激をしたり興味を引く必要は無いということだ。
※
魔王城にはあっさりと着いた。だが、どうにも様子がおかしい感じであった。
サザンの記憶ではがらんとしていたハズなのだが……入口の付近だけでもかなりの数の魔物がいる。警備体制が万全といった様相だ。
たまたまサザンの時だけもぬけの殻だった、というのは少々考えにくい。
まぁ答えは全て魔王が知っている。取り合えず俺はゆっくりと歩いて魔王城へ入ろうとしてみる。
すると、警備の魔物が襲って来た。
在野の魔物と違い、警備をするくらいならば知性はあるのだろうから、「用件は何か」くらいは聞いてくれても良いのだが……話が通じそうにも無く、明確な殺意を持って俺へと向かって来ている。
「フガッ‼ フゴガッ‼ 人間、コロス‼」
魔王の印象を悪くするわけにも行かないので、魔王城の魔物とはなるべく融和的に行きたいのだが、こういう風にされると俺も戦わざるを得なくなってくる。
「ブルルルフシャアアア‼」
「……恨んでくれるなよ」
瞬く間に、一体どこから出て来たのか、数えるのも面倒なほどの魔物が眼前に現れ始める。
俺は一気に片をつける為に”戦闘形態”になり”瘴気”を放ち始めた。
そこまで戦う気は無かったが、魔物たちがやる気だと言うのであれば容赦はしない。俺の経験値となってくれ。
※
――二分。それが、俺が魔王城の魔物をほぼ壊滅させるまでに掛かった時間である。
俺が放つ”瘴気”に耐えられる魔物は少なく、まず一瞬で7割を削った。残った3割も襲って来るのであれば容赦なく殴って塵にしていった。
気が付けば、俺は玉座の目の前に辿り着いていた。玉座に座っていたのは、ローブで全身を覆い隠した魔王である。
「……いやはやまさか本当にこうなるとは。さすがに妾も驚いておる」
サザンの記憶の時には気しなかったが、こうして直接聞いて見ると随分と高い声だ。それに一人称が妾と来たものだ。
もしかして女なのか……?
いや、それよりも魔王は「まさか本当にこうなるとは」と言った。
まるで俺が来ることを知っていたかのような口ぶりだが、俺は誰にも来ることを言っていないのだが……。もちろん、ティティやミミにも内緒でここへ来ている。
となると考えられるのは、未来予知の類も出来るスキルを持っている、というあたりか。
なるほど、それならサザンの時にがらんとしていたのも頷ける。
見くびる見くびらない以前に、協力を要請してくる未来が見えているのならば、無理に警備など置かなくても平気なのだ。
むしろサザンのための配慮ですらあるかも知れない。
色々と会得しつつ、一歩、また一歩と俺が近付くと魔王はやれやれと腰を上げた。
「妾も全力で抗わねばならないのう。何もせぬままじゃと、平行線のまま会話が続き、痺れを切らしたぬし様が妾がぬし様を好き好きになるようにして来るからのう」
魔王の言葉から俺の推察が当たっていたことが分かる。やはり未来予知が出来るようだ。
だが、それにしても”好き好きになるようにする”とは一体どういうことだろうか。もしかして眷属化のことだろうか?
確かに、話が纏まらない場合は殺さずに穏便に済ませる為の最終手段として記憶を吸い、その後無垢なまま人類に危害を加えるようになられても困るので、眷属化するつもりはしていたが……。
魔王の見た未来ではそうなっているのか。ということはつまり、俺と約束をするつもりは無いということでもあるわけだ。
対話が無理であるのならば、初めから眷属化させる方向で行くしか無いな。




