表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/8

第八話

「復讐? ってことは、キミは――――」


「見てわかるやろ? 五郎月(ごろつき)一家総長、五郎月剛造(ごうぞう)の娘、五郎月猪子(いのこ)や!」


 そう名乗った特攻服の走り屋少女、猪子は回転するチェーンソーの刃を俺に向けながら大見得を切った。「見てわかるやろ」と言ったが、大巨漢の剛造と目の前の猪子とは、共通点と言えば関西弁を話すことくらいで、正直似ても似つかない。

 怒りに燃える猪子は、客観的に見てかなりの美人顔だ。おまけにサラシを巻いた胸部は、はち切れんばかりの巨乳である(まあ、こちらの方はさして興味ない。俺は貧乳派である)。


「五郎月の娘、だったのか」


「せや! よりにもよって、大事なお(とん)(ハラ)ブッタ斬って殺しやがって。マクラノスケ、いうたな! お前も同じ目にあわしたるさかいな」


 そう言い放つと、倉庫の陰から十数人の男たちが姿を現した。猪子と同じ暴走族風の出で立ちで、手にはは長ドスや金属バットといった、物騒な得物を持ち合わせている。


「ウヘヘヘヘ……」


 多勢に任せた男たちは、不気味に笑った。


「ウチは、走り屋集団『猪一番(いのいちばん)!』のリーダーや。まずはこれから、親衛隊(メンバー)(コイツ)らにじっくりかわいがってもらいぃ?」


「俺はなんにもしてねえよ!」


「ウソつけコラァ! 現場に「獄門」っちゅうお前の刀もあったし、なんでも真っ二つに斬るっちゅうけったいな技持ってるんやろ? おまけに、現場にはだれも入らへんかったんやで? そんなん、どう考えても犯人はお前しかおらんやろが!」


「だから、やってねえって!」


「ああん、もうええわ。今から大阪のお(とん)の墓ん前まで連れてくさかい、その場で首と腹チョンパしたるわ」



RRRR―――― RRRR――――


 そのとき、電話の鳴る音がした。猪子の懐にある携帯(スマホ)のようだ。


「ちょっとアンタら、適当にシバいとき。せやけど、殺したらアカンで?」


「へい!」


 そう言いながら、携帯電話に応答しつつ倉庫を出ていった猪子に向かって、走り屋の男たちは返事した。


「殺すなってよ」

「でもよぉ、これだけの人数がかかったら」

「うっかり死んじまうかもな。へへへ……」


 そう話しながら、男たちが近づいてくる。総勢十一、いや十二人か。走り屋とは言え、相当ケンカ慣れしていると見える。それにしても――――


「やっちまえオラァ!」



 見くびられたものだ。俺は、スルガ式抜刀術の第十三代正統継承者だぜ?



 こちらは素手。対して、武器装備の屈強な男たち総勢十二人を完全に無効化するのに、俺は一分とかからなかった。




「――――ああ、ちょうど今ここにおるわ。これから大阪(アッチ)連れてくさかい、アンタも()よ……」


 そう話しつつ帰ってきた猪子は、倉庫の異変に気づいて驚きの表情になった。十数人の走り屋たちが全員、ひっくり返って失神していたからである。猪子の顔が、怒りでヒートアップしてゆく。


「マクラノスケ! オッラァ~~~~!」


 携帯(スマホ)を足元に投げ捨てると、チェーンソーのエンジンを起動させながらバイクに跨った猪子。俺は、逃走時に持ってきていた通学(かばん)を手にすると、倉庫の出口めざして駆け出していた。

 彼女も、親衛隊の男たちと同じように叩きのめせればいいのだが、猪子の実力は彼らを大きく上回っている。獄門刀を持たない今では、とても無理だ。


「待てや!」


 猪子のバイクは、あっという間に追いついてきた。そして、手にしたチェーンソーを俺に向けて振り下ろす。


チュインッ!


 思わず俺は、鞄を盾にしてチェーンソーの刃を防ごうとしたが、鞄はあっけなく真っ二つにされてしまった。鞄の中の教科書やノート、そのほかの小物があちこちに散乱する。


 俺はその中からいくつかを拾い上げると懐に入れ、そのまま倉庫を飛び出した。


「くぅっ!」


 倉庫から出たすぐそこは、東京湾に面した桟橋である。俺は暗い海の中に、躊躇(ちゅうちょ)なく飛び込んだのだった。



ザブーン!



 相手はバイクだ。まさか、海の中まで追ってはこれまい。俺は全力で潜航しながら、港の倉庫街を後にした。



 倉庫に帰ってきた猪子は携帯を拾い上げて、話し中だった相手にふたたび言葉を続けた。


「……ゴメン、アイツに逃げられてもうたわ。――――せやけど絶対に見つけて、ウチがこの手で()ったるさかい」


 五郎月猪子は、俺の鞄の残骸を空中に放り上げると、チェーンソーを振り回して一瞬で粉砕した。




 やがて海から上がった俺は、街灯すらない路地裏に身を隠すと、ようやくふっと息をついた。そして、現状の自分について再確認する。


 怪我なし、体の異状なし。所持品は――――幸い、携帯(スマホ)があった。しばらく海中に浸かったため、動くかどうか心配だったが、どうやら起動自体はしてくれるようだ。だが、電力(バッテリー)が心許ない。どこかで充電できるだろうか。


 それから、財布。中身は、一万円足らずだ。とても潤沢な金額とは言えないが、スマホとともにこれからの俺の生命線になる。


 そして、いちばん大きな包み。これは今朝、春乃が俺のために作ってくれた昼飯用のおむすびだった。


「はあ……よかった…………」


 アルミホイルに包まれた、大きいおむすびが二個。いろいろあって、ぺっちゃんこに潰れてしまっているが、中を開けると海苔のいい香りが俺の食欲をそそった。


 そう言えば、今日は昼間の取り調べの後、何も口にしていない。俺はゆっくりと手を合わせると、潰れたおむすびを口に運んだ。



「……春乃、美味(うま)いよ。……春乃、会いたいよ………………」



 俺は、美味すぎるおむすびを咀嚼(そしゃく)しながら、ぽろぽろと涙を流した。こうして、長くて短い俺の逃走初日が過ぎていった。




続く



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ