楽勝? 人間わなげ!
——輪投げ。
読んで字のごとく、輪っかを投げる単純で簡単なお遊び。
子ども向けの代表格みたいな催し物で、大人からすれば手応えがない。
「ふふふ、いきますよぉ!」
輪っかを握ったザラメが、俺に狙いを定めて腕を引くザラメ。そのまま輪っかが飛んでくるのを待ち構えつつ。
正直、この“人間わなげ”も、字面はさておき何とでもなるだろうと思っていた。
「せーのっ!!」
「あ゙い゙っっだっ?!」
——ザラメの放った輪っかが、豪速で直撃するまでは。
「っつぅ……!」
床に落ちた輪からは、シュウウゥと輪投げにあるまじき音が聞こえる。
俺は動けないまま、銃弾で撃たれたかのように仰け反って悶えていた。
知ってた。そんな気はした。
だってザラメだし。手加減なんてするわけねぇじゃん、アイツが。
「ってぇなお前っ! ……つかなんか焦げた匂いがするんだが?!」
「びっくりだヨ、郡さんのおでこが焦げてるヨ」
「ふぁ?!」
すかさず手鏡を俺に向けるミドウ。
鏡に映る俺の額は局所的に黒く焦げ、煙が立ち昇っていた。
「おいゴラザラメ……」
どう問い詰めてやろうか。
睨みつける俺に対し、ザラメは落ちた輪っかを拾い上げて口を尖らせていやがる。
「むむむ、“ザラメちゃん☆ファイア! 〜疾風を添えて〜”が失敗してしまいました……」
洋風レストランの料理名みたいな名前付けてんじゃねーよ!?
「加減しろやクソキョンシー!!」
「すみません郡さん。輪投げって初めてなので、力加減が分からないんですぅ」
はっ、今時のキョンシーは輪投げもやったことねぇのか。
「でも安心してください! 次はもっと弱めに投げるので!! 郡さんも避けたらメッですよ?」
言いながら、素振りをするザラメ。
約束された波乱に、俺は眉をひそめた。
「どうやら、とんでもねぇ催しに首を突っ込んじまったみてぇだ……」
「突っ込んでるのは身体ですよ?」
「うるせっ。てか早く投げろよ」
「分かってますぅ」
素振りを中断し、輪っかを構え直す。
「せーいっ!」
「よぉっと」
今度は輪っかが、すっぽりと身体をくぐってくれた。
「やりましたぁ!! 1ポイントですよ郡さん!」
「お前にしては学習したな! この調子で、この勢いのまま頼むぞ」
「……余計な一言が癪に障るので、1回燃やしていいですか?」
その後、3本目の輪で2ポイント目も獲得した俺たち。
今俺の胴体には、2本の輪っかがある。
つまるところ、あと1ポイント取れば勝ち。
あと2回投げられるし、ザラメもコツを掴んできた。
これなら楽勝と思っていた俺だったが……。
「“これなら楽勝”と思ったアナタに、試練の時間だヨ!」
教室の中央で舞いながら、ミドウが甲高い声をあげたのだった。
陽の光を吸った包帯が、風も無いのに元気に靡いている。
「試練、ですか?」
「そうだヨ!」
答えて、ミドウがザラメの背後に回り込む。
そのまま、ザラメの目に包帯を巻きつけた。
「ザラメには、目隠しをした状態でやってもらうヨ!」
唐突に難易度を上げやがった。
周りの生徒どもも、「ミドウちゃんったらまたサプライズしてぇ~」と和やかに笑いあっているし。
包帯を巻かれたザラメは、「おおっ、何も見えないですぅ!」と燥いでいる。
「でも見えなきゃ、郡さんのところに輪っかを投げられませんよ」
「それはザラメの愛次第だヨ! 郡さんへのトキメキたっぷりの思いが、アナタをグッドエンドへと導いてくれるヨ」
ザラメの手を取り、輪を託してミドウは語った。
柔らかな声が、うっとりするほど純粋な綺麗事を運ぶ。
「愛、ですか?」
「愛だヨ」
根拠の無いミドウの助言に、ザラメは輪を握り返して応えた。
「分かりました、やってみます!!」
包帯で見えないが、ザラメのことだ。
宝石……いや、砂糖菓子みたいに、瞳をキラキラと輝かせていることだろうよ。
やる気に満ちるザラメの横で、ミドウは続けて言った。
「ちなみに、失敗したら郡さんにコチョコチョの罰ゲームだヨ」
「待てや!!」
おいそんなの聞いてないって。
……さては素足にさせたのって、そういうことだったのかよ?!?!
冷や汗が額に滲む俺に対し、
「郡さん、コチョコチョに弱いんですか?!」
別の意味で、ザラメが目を輝かせていた……ような気がして、思わず唾液を飲み下す。
……日頃の鬱憤や不満を晴らされそうなんだが。




