挑戦、人間わなげ!
オムライスを完食した俺たちは、その後も色んな店を巡っていた。
ザラメのヤツ、前を歩きながら「次はどこにしましょう?」なんて鼻歌を歌うみたいに唱えている。
「郡さんはどこに行きたいですか?」
「家。さらに言えば俺の部屋」
「もうっ、面白みがありません。まだまだ楽しまなくちゃです!」
っつってもなぁ。
もう十分回っただろ。
この辺でお開きにして、俺は俺で遊びに行きたいんだが。
デート券の入った上着のポッケに手を突っ込みつつ、切なる願いを心の中で唱えていると。
「次はあれにしましょう!」
突然腕を引っ張られる。
そしてザラメの白い手が指差す先にあったのは、“カラフルわなげ”と書かれた看板。
その下部に小さく書いてあったとある催しには、“カップル限定!”などと吹き出しで注釈を付けられていて。
それこそが、ザラメが目を輝かせるものの正体。そして……俺が眉根を寄せる原因でもあった。
「……人間わなげ?」
「です! 1等賞はお菓子ですって。コスズちゃんやニケル君へのお土産にぴったりですよ!」
確かにあの2人は喜びそうだが。
「やってみましょう!!」
ザラメに腕を引かれ、扉をくぐる。進む俺の足は半ば引きずる形になっていた。
……激しく嫌な予感がするんだが。
————
「およヨっ、運命のお2人だヨ!! 人間わなげに挑戦するの?!」
入るや否や、ミドウのお出ましだ。
件のポルターガイストは、色とりどりの輪を包帯に通して宙に浮かべていた。
デート券を2枚確認したミドウは、包帯で俺とザラメの背を押す。
「2名様ご案内だヨ~!!」
その言葉を合図として、5人ほどの生徒がこっちを振り返る。制服の上から朱色のはっぴを纏い、手軽に縁日感を演出していた。
……いつぞや骨格標本と筋肉標本もはっぴを着て出迎えている。ポルターガイストって何でも有りだよな。
「お客様はこちらへどうぞ」
「はっ、はい!」
生徒の1人がザラメを案内する傍らで、俺はミドウに促されて後に続いた。
「そうそうっ! この間の続き、まだちゃんと言ってなかったヨ」
「あ? 続き?」
「うんっ」
振り向いたミドウは俺の耳元で囁いた。
「昨日聞いたでしょ? “元の自分になりたいのか”って」
鼓膜を震わせる声音は、甘く柔らかく……溶けたチョコレート菓子みたいに粘り気と重みを感じさせた。
「アタシはね。“ミドウ”のアタシを手放せないよ」
ステップを踏むようにして俺から一歩離れ、つま先を軸にしてくるりと回る。
ミドウはそのまま、右の袖を口元に寄せて。
「せんせーには言わないでね。恥ずかしいもん」
控えめな調子で、言葉を探って紡ぐ。
出会うたび跳ね回って燥いでばかりのツカイマが、今は頬を仄かに染めている。それが意外に思えて、返答に困る。
しかし沈黙は瞬きの間だけ。すぐさま、歓喜の声に上書きされた。
「じゃっ、気を取り直して輪投げだヨ!!」
「切り替えはええな!!」
“ビシッ!”と擬音が飛んできそうな勢いで、包帯が俺を指した。
「郡さんは人間役だヨ!」
「どゆこと?!」
「ザラメの投げた輪を、身体でキャッチするんだヨ。“人間わなげ”の“人間”部分が、アナタだヨ!」
「そゆこと!?」
演目から分かりきっていたが、こりゃまたバラエティー番組みたいなことを。
一方ザラメも生徒から説明を聞いている。
受け取った輪をぐにぐにと弄り、感嘆の声を出していた。
「ほええ、すっごく柔らかいですね!」
「はい、安全性には十分配慮しておりますから」
「なるほど、これなら思いっきりやっても大丈夫ですっ」
加減しろ、お前の“思いっきり”はシャレにならねぇ。
「アナタはこっちだヨ。裸足になって、この中に入ってね」
ミドウに促されるまま、輪を受ける体勢につく。
穴の開いた箱に身体を入れて、首から上を外に出した。
箱の中に収まった下半身は膝立ち状態。何故か素足を箱の外に出す形になっているが、輪投げには関係が無いだろうし、些末なことだ。
胴体の幅ほどの直径の穴からは、腕を出すことができない。
可動域は外に出ている部分だけ。つまりこの状態で、飛んでくる輪をキャッチしないといけないということだ。
チンアナゴみたく顔を出した状態で、じっと待っていると。
「始める前に、ルール説明タイムだヨ!」
ミドウがマイクを片手に説明を始めた。口を動かしながら、俺やザラメの元に寄っては離れ。縦横無尽に教室を浮遊する様は、落ち着きのないガキそのものだ。
「投げられる輪は5つ! 終了の合図をした時点で、郡さんが持っている輪からポイントを算出するヨ」
続いてミドウは、骨格標本を袖の先で指す。
標本は景品であるお菓子の詰め合わせを掲げた。
「3ポイント獲得したら1等賞! ポイントを獲得するたびに難易度が上がるけど、運命の2人なら大丈夫!! 他にもルールはあるけど、実際にやりながら説明するヨ」
ミドウが足を床に着けたのが、説明の終わった合図。
「目指すはお菓子詰め合わせです!」
俺の入っている箱から10メートルほど離れた、黒板下にある教壇の手前で。
教室を横切るように貼り付けられたビニールテープにつま先を合わせ、ザラメも輪を構えた。
説明を聞く限り、やること自体は普通の輪投げと同じ。
ザラメが投げるってのが不安材料だが、それさえカバーできれば余裕で突破できそうだ。
……本当に“普通のわなげ”と同じなら、な。




