18話 ずっと
ずっと聞けなかったこと。
「…どうして?どうしてなんですか?大地さんはお父さんの取引先の人だったって、ちょうど名前が似ていてお願いしたんだって…」
「…はい」
「どんな相手かも分からないのに、どうしてそんな相手と“一緒に”なんて思えるんですか?私には分かりません…」
「……」
「私はあの時、大地さんに一目惚れをしました。誠実な大地さんを日に日に好きになって…それに助けてもらった御恩もあります。でも、大地さんに私の気持ちを優先する理由が…無いじゃないですか…」
咲は、ずっと疑問に思っていたことを問いかける。
何となく、お互いに触れてはいけないと避けていた事。
積み上げたものが壊れてしまうかもしてない。
それでも、もう…
「…咲さん、僕と咲さんはあの日…結婚式の日が初対面じゃないんです」
「…え?」
「藤井社長にも…咲さんにもまだ、言っていないことがあるんです。」
そう言うと、咲と初めて出会った、客船のパーティーでの出来事を話し始めた。
「これ、咲さんですよね?」
そう言って一枚の写真を咲に差し出す。
「あ…藤の振袖…」
咲はその写真を持ってはいなかったが、撮った記憶があった。
振袖を着て両親とパーティーに参加した記憶。
当時、父に連れられ、度々パーティー参加していた。
すべてを鮮明に覚えてはいなかったが、一度だけ振袖を着て大きな船に乗った。
藤色の振袖はとても気に入っていたが、せっかくのパーティーでの食事がたくさん食べられないじゃないかと、両親に文句を言ったが、せっかく誂えたのだからと着せられたのだった。
大地が続ける
「これが、僕です…隣は佐々木。この日、咲さんはビュッフェ会場で、僕にスイーツのプレートを譲ってくれたんですよ」
大地があの時を思い出しながら、写真を眺める。
(あ…!あの時の)
確かに覚えている。
スイーツコーナーの前にいて、私のプレートをすごく見ていた男の子…
「この子、大地さんなんですか!?」
もう一度じっくり見る、確かに…前髪を下ろしている今なら分かる。
「ははっ、この子って…そんなに若く見られていたんですね。」
「…てっきり私と同じか…少し下くらいかと…」
写真に映る大地は、背は高かったが線は細く大学生くらいに見えた。
でも確かに面影がある
「僕は、この日、名前も知らないあなたに恋をしました」
「……!」
「後で、藤井社長と一緒にいるのを見て、咲さんが藤井社長のお嬢さんだと気が付いたんです。社長が僕を贔屓にして下さっているのをいいことに、咲さんに近づけるんじゃないかって、ずっと思っていました。」
「……」
「この縁談話が来た時…咲さんの婚約破棄を聞いて、僕は喜んだんです。しかも藤井家側から頼んだと言う事にしておけば、咲さんが僕の事を好きじゃなくても、ずっと一緒に居られる口実ができる…そう、思ったんです。」
「……」
「僕は狡い人間です。咲さんの思うような…誠実な人間では無いんです」
内にあったものをすべて吐き出し、大地はうつむいた。
(この事を知ったら、もう…)
「…“狡い”ってそんなに駄目なことでしょうか…?」
「…」
大地が顔を上げ咲を見る。
「その狡さで私たちは一緒になれました。」
「…」
「大地さん、確かに私たちは順番が他の人と違ったかもしれません。でも、そうなってしまったことは仕方がない事だと思いませんか?これからどうするかは…私達がどうしたいかが、一番考えるべき事なんじゃないでしょうか?」
咲は力強く続ける
「私は、私達の今の気持ちを一番大切にしたいと思ってます!……私は…大地さんと離れるなんて…出来そうにありません…!」
「咲さん……僕も…咲さんと離れる事なんて…」
心がぎゅっと締め付けられる。
そっと咲が大地をつつむ、咲も胸がいっぱいになる。
「大地さん…大好きです」
咲がそう言うと、大地は力一杯、咲を抱きしめたのだった。
◇◇◇
年が明け、穏やかな時間が流れる
昼食に大地お手製のパスタを食べる。
食後は咲がコーヒーを淹れ、ほっと一息ついた。
ふと窓に目をやると雪が降り始めていた。
咲が、雪を見ようとコーヒーを置き、窓辺へ行く。
「あー雪かぁ、残念。お散歩行けないね…」
窓辺で残念そうに咲が言う。
お昼過ぎに、2人で近くの公園を散歩しようと約束していたからだ。
大地が咲の後ろに立ち、そっと咲を抱きしめる。
「ほんとだ、残念だね…」
そう言って、そっと首筋にキスをする。
少し照れて咲が振り向くと、愛おしそうに大地が咲を見つめていた。
咲が、背伸びし、そっと唇を重ねる
「……やっぱり…あんまり残念じゃ無いかも…です」
目が合い、クスッと笑う。
それから──
2人は何度も唇を重ね合うのだった。
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