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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season12 ― 喧騒と旋律 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season12 ― 喧騒と旋律 ―
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第7章 二重奏(デュオ)

室内の空気が、わずかに変わった。


パソコンのファンが低く唸り、ディスプレイに走るコードの光が、まるで生き物のように脈打っている。


なぎ蒼真そうまは、並んで座っていた。


互いに言葉を交わすことはない。

けれど、その沈黙は不安からではなく、完全に呼吸が合っている証だった。


キーボードを叩く音が、二重に重なって響く。


 カタ、カタカタ――

 カチ、カチ……。


まるで2人でひとつの楽器を演奏しているかのように。


凪が画面を睨みながら、低く呟く。


「……やっぱり、かなり綺麗に組まれてる。これ、普通の攻撃じゃない」


蒼真が間を置かずに応じる。


「芸術家気取りだな。無駄が多い。自己主張が強すぎる」


凪が一瞬、口角を上げた。


「うん。しかも、わざと“見せてる”。

 自分の技術を、誰かに見てほしいタイプだ」


その言葉に、柊が静かに腕を組む。


「つまり……挑発か」


「ええ。こっちが気づくのを前提にしてる」


キーボードを叩く指が、次第に速度を上げる。


画面上では、アクセスログが複雑に絡み合い、まるで音楽の譜面のように並んでいく。


凪が小さく息を吐いた。

「……クラシックだな。しかも悪趣味なやつ」


「どのへんが?」と蒼真。


「見てください。ここ。タイミング、リズム、間。

 全部、計算されてる。

 感覚でやってるんじゃない。“演奏してる”」


蒼真は一瞬黙り、次の瞬間、キーを叩いた。


「なら、こっちも合わせよう。即興じゃなくて、対位法で」


画面上で、2つの動きが絡み合う。


片方が誘導し、片方が包囲する。


まるで、2人でひとつの楽器を弾いているかのように。


——静かな部屋に、音のない“音楽”が流れ始めた。


その背後で、しゅうは腕を組み、2人の動きを見守っている。


声を出すことはない。

ただ、必要な時にだけ指示を出す。


「……来るぞ。相手、焦ってる」


その言葉と同時に、画面が一瞬揺れた。


データの波形が乱れ、異常値が跳ねる。


凪が小さく息を吸う。


「来た……!」


蒼真の指が止まらない。


「いい。今だ」


次の瞬間。


画面に走っていた異常なアクセスが、ぴたりと止まった。


一瞬の静寂。


そして――。


凪が、ゆっくりと息を吐いた。

「……捕まえた」


部屋の空気が、ふっと緩む。


緊張がほどけた瞬間、外の音が戻ってくる。遠くを走る車の音。空調の微かな音。


柊が深く息を吐いた。

「……よくやったな」


蒼真は小さく肩をすくめる。


「まだ終わってはいませんけどね。

 けど、主導権はこっちです」


その時、少し離れた場所で様子を見守っていたみなとが、静かに口を開いた。


「……すごい。2人とも」


凪は照れたように笑う。


「いや、湊さんが最初に違和感に気づいたからですよ」


蒼真も頷いた。


「そう。きっかけがなければ、ここまで辿り着けなかった」


湊は小さく首を振る。


「でも、私1人じゃ無理だった。……みんながいたから」


その言葉に、柊が静かに笑った。


「それでいい。チームなんだから」


その瞬間、張りつめていた空気が、ゆっくりとほどけていく。


だが——


誰もまだ気づいていなかった。


画面の片隅で、一瞬だけ走った“ログの影”に。


それは、まだ終わっていないことを示す、小さな予兆だった。

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