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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season12 ― 喧騒と旋律 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season12 ― 喧騒と旋律 ―
2/12

第1章 静かな違和感

昼下がりの街は、思ったよりも静かだった。


高杉湊たかすぎみなとは、駅から少し離れたオフィスビルの前で立ち止まり、スマートフォンをしまった。

依頼主から指定された住所。ごく普通の中規模企業。

外観に特別な違和感はない。


――でも、仕事っていうのは、大抵“見えないところ”に何かある。


そう思いながら、みなとはエントランスをくぐった。


受け取ったのは、暗号化されたデータが入ったUSBメモリひとつ。

簡単な挨拶と事務的なやり取りを終え、建物を出る。


仕事としては、ごく普通。

けれど、胸の奥にかすかな引っかかりが残った。


「……気のせい、だよね」


自分に言い聞かせるように呟き、湊はそのまま駅へ向かう。


途中、ふと目に入ったカフェ。

ちょうど喉も渇いていた。


——少し、休んでいこう。

 

店内は思ったよりも静かで、窓際の席が空いていた。

コーヒーを受け取り、席につこうとしたそのとき。


「……あれ?」


聞き覚えのある声が、すぐ後ろからした。


「湊?」


振り向くと、そこには涼平りょうへいが立っていた。

その隣には、見慣れた顔——しゅうなぎ


「え……なにしてるの、みんな」


「それ、こっちのセリフ」


凪が笑いながら言う。


「まさかこんなところで会うとは」


「仕事帰りだよ。そっちは?」


「ちょっと打ち合わせの帰り」


柊が穏やかに答える。


自然な流れで同じテーブルにつき、しばし他愛もない話が続く。

その空気に、湊の肩から力が抜けた。


(……なんか、落ち着くな)


そう思った自分に、少しだけ苦笑する。


しばらくして、湊は立ち上がった。


「じゃあ、私はそろそろ。データ確認しないといけないから」


「仕事?相変わらず忙しそうだな」


「まあね」


そう言って手を振り、店を出る。


その背中を、涼平が少しだけ気にして見送っていた。



◇◇◇



自宅に戻ると、湊はすぐにPCを立ち上げた。


受け取ったUSBを差し込み、データを開く。


「……ん?」


最初は、何もおかしくない。

だが、いくつかのログを確認するうちに、微妙な違和感が積み重なっていく。


数字が、微妙に合わない。

ファイル構成が、どこか歪んでいる。


「……これ、足りない……?」


念のため、もう一度全体をスキャンする。

やはり、あるはずのデータが存在しない。


湊は眉を寄せ、依頼元にメールを打った。 



□□□


 『先ほどお預かりしたデータについて、

  一部不足が見受けられます。

  追加データをご提供いただけますか。』


□□□



送信。


数分後、返信が来た。



□□□


 『申し訳ありません。こちらの不備でした。

  追加データを本日中に送付します。』


□□□



それを確認して、湊は小さく息をついた。


「……とりあえず、待つか」


だが、胸の奥に残る違和感は消えない。


しばらくして、データが到着する。

PCの前に戻り、届いたデータを開く。

その瞬間、画面が一瞬、暗転した。


「……え?」


一瞬の出来事だった。

画面はすぐに元に戻る。


けれど――。


「今の……?」


嫌な感覚が、背筋をなぞる。


マウスを動かす。

反応はある。


だが、どこか“遅い”。


まるで、誰かがこちらの動きを“見ている”ような。


そのとき、スマートフォンが震えた。


着信――知らない番号。


湊は画面を見つめたまま、出なかった。


数秒後、着信は切れた。


……が、すぐにまた鳴る。


今度も、知らない番号。


「……」


迷った末に、画面を伏せた。


その直後、今度は別の着信音。


表示された名前に、湊は息をのんだ。


 『涼平』


思わず、受話ボタンを押す。


「……もしもし?」


『湊、今いい?』


その声に、なぜかほっとする。


「うん。どうしたの?」


『ちょっと気になることがあってさ。

 今からそっち行ってもいい?』


一瞬、迷ったあと、湊は答えた。


「……うん。来て。ちょうど、ちょっと見てほしいものがあって」


『了解。すぐ行く』


通話が切れた。


湊はスマートフォンを机に置き、もう一度パソコンの画面を見つめた。


静かな部屋。

規則正しいファンの音。


けれど、その静けさの奥で――何かが、確かに動き始めている。


湊は、知らぬ間にその渦中へと足を踏み入れていた。

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