第9話 宝の持ち腐れと言われ
人生で初めて、自分自身に強化付与したけど、魔法の威力がここまで跳ね上がるとは思いもしなかった。
前のギルドで仲間にかけた強化付与では、魔法使いの攻撃魔法がここまで強化されたことは一度もない。
完全なイレギュラー。
ありえない事が起きていた。
強化付与を施した張本人である俺が、この結果に一番驚いていた。
「助けてくれて、ありがとうございます!」
フェンリルに苦戦していたパーティメンバーが、口々に感謝を述べて駆け寄ってくる。
リーダーらしき魔法使いの女性が、俺の手をガッシリと掴んでブンブンと振り回した。
大剣を持った男性は俺の肩に手を置き、感極まった様子で号泣しているし、金髪の双子(顔立ちが瓜二つだからおそらく兄妹かもしれかい)には左右から挟まれる。
「当然のことをしただけですから、そこまで感謝しなくても……」
「いいえ! 貴方は我々の命を救ってくれた恩人です! せめて何かお礼をさせてください!」
魔法使いの女性がグイッと俺の腕を引き寄せ、豊かな胸の谷間に押し込んだ。
あまりの近さと、伝わってくる柔らかい感触に、俺は慌てて飛び退いてしまう。
「い、いや、本当に……大丈夫なので!」
まともに接した女性なんて、幼馴染と弟子くらいしかいないので、この手の距離感には、これっぽっちも免疫がなかった。
動揺と恥ずかしさを悟られないよう、必死に平常心を装う。
「実は私たち、ギルドに入ったばかりの新人なんです……。上層部から『この任務を達成すれば昇格』と約束されていたんですが、こんな始末で……」
「え、それってどういう――」
女性の言葉に俺が聞き返そうとした瞬間、森の奥から聞き覚えのある声が響いた。
「おーい! ユウ! やっと追いついたぜい! ぜぇ、ぜぇ……速すぎるって、お前!」
剣を構えたシャレムさんが、息を切らしながら駆けつけてきた。
だが彼女は、フェンリルの死骸と、山肌を抉り取ってできた巨大なクレーターを目にした途端、ぽかんと口を開けて立ち尽くす。
「えー! なにこれ!? どうなってんの!? てか、山にクレーターできてるんだけど!?」
(自分に強化付与したらこうなりました、と言って信じてくれるだろうか……?)
説明に窮していると、双子が一斉に俺を指差した。
「「この人がやりました!」」
言う前にバラされてしまった。
まあ、遅かれ早かれ知られることだけど。
これからお世話になるギルドの上司だし、ありのままを説明しよう。
「そ、そうなのか……そっか」
だが、シャレムさんの反応は意外なものだった。
助けたパーティのように騒いだり驚愕したりはせず、どこか疑念を含んだ視線を向けてくる。
(なんだか、この人にずっと疑われている気がするんだけど……)
状況を整理する前に、まずはお互いに自己紹介をすることになった。
彼女たちは『赤い諸星』というB級ギルドのメンバーらしい。
魔法使いの女性はリリアン。
大剣の男性はガランド。
金髪の双子は兄がツクヨで、妹がアマテ。
ギルドに加入してまだ二ヶ月目の新人パーティだという。
「つまり、ユウさんたちも同じタイミングで依頼を受けて、この森に来たと……?」
倒したフェンリルの素材剥ぎ取りを手伝いながら、リリアンさんが尋ねてきた。
どうやら二つのギルドが同じ討伐依頼を受ける、ダブルブッキングになってしまっていたらしい。
「依頼を受ける時、商人に『他のギルドが受注済み』とは言われなかったけど……もしかして君たちだけじゃ達成できないと依頼人が思ったのかもナ」
シャレムさんがリリアンさんたちを見ながら言う。
失礼ではないかと思ったが、リリアンさんは苦笑いを浮かべるだけだった。
「逆に助かっちゃいましたよ。もしユウさんが来てなかったら、うちのパーティは全滅してましたから」
そこまで言われると、さすがに照れくさい。
フェンリルを一撃で仕留めたのは事実けど、何故そうなったのか、俺自身がいまだに理解できていない。
「もしかして、A級ギルドのメンバーだったりします?」
リリアンさんが興味津々に目を輝かせて尋ねてくるが、シャレムさんが即座に否定した。
「まさか。そんな大手じゃねえよ。ボクらは底辺中の底辺、ボロい街のボロい拠点で、依頼も来ねえ日々をダラダラ過ごしてるギルドだぜい。ついでにユウは新人で、まだお試し期間ってやつナ」
「うっそ!」
リリアンさんが驚きの声を上げると、シャレムさんはさらにニヤニヤしながら続ける。
「本当本当。ついでにコイツの職業、超レアな付与術士」
どう聞いても「そうはならんだろ」という話だが、リリアンさんの目はさらに輝きを増し、グイグイと身を乗り出してきた。
「付与術士!? 他者を強化する超すごい魔法使いじゃないですか! 同じ魔法使いとして、尊敬の極みです……!」
リリアンさん、ちょっと待って。
目つきと手つきがなんか怪しくなってきているんですけど。
よだれ垂れてますよ。
「マジか、すげぇなユウさん」
「「フェンリルを一撃で倒したし、納得」」
ガランドと双子も感嘆の声を上げる。
いや、ちょっと、みんな盛り上がらないで。
「あの、ユウさん。頼み事があるのですが……」
リリアンさんが突然、俺の両手をギュッと握ってきた。
隣でシャレムさんが茶化すように口笛を吹く。
「どうか、どうか……!」
彼女の手に力がこもる。
まるで獲物を逃がさないと言わんばかりの強さだ。
「――私たちのギルドに入ってください!」
唐突な勧誘に、頭が一瞬真っ白になる。
え、今、俺、スカウトされた?
シャレムさんも同じく目を丸くして固まっている。
「あの、俺、さっき言ったと思うんですけど、すでにギルドに入ってて……」
「でも、シャレムさんは『お試し期間』って言いましたよね? つまり正式加入じゃないってことですよね? だったら、うちに入ってください」
いや、シャレムさんがそう言っているだけで、ギルドマスターのモニカからは正式に加入を認められている。
「ユウさんがフェンリルを一撃で屠ったあの魔法は、S級ギルドの魔法使いにすら匹敵する威力。このままだと宝の持ち腐れで、いずれ腐ってしまいます」
リリアンさんの様子が明らかに変だ。
彼女の手を振りほどこうとするが、思った以上に力が強く、簡単に離れない。
本気を出せば振りほどけるが、強化付与の効果が残っている今、下手に動けば彼女の手ごと吹き飛ばしてしまいそうだ。
「おい、それはどういう意味ダ?」
シャレムさんは髪を逆立て、獣耳をピクピクと震わせながらリリアンを睨みつけた。
「そのままの意味ですよ。ユウさんは底辺ギルドにいるべきじゃない。彼の能力を無駄にするような貴女たちより、将来性のある私たちのギルドにこそ加入すべきです。分かります?」
リリアンの視線は、まるで路傍の石を見るかのように冷たかった。
いや、ゴミに向ける軽蔑の視線だ。
その目は、かつて俺をギルドから追放した、ザラキと同じだった。
ブクマやレビュー等をぜひお願いします!
作者のモチベーションに繋がります!!!




