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98. 始まり

 宿に戻ったコナミはイヴとナタリーに全て説明した。協力者のヌルという闇の使者、シャックスについての危険さ。説明しない事にはもう仲間の命も危険に晒してしまうからだった。そして神の事は伏せつつ【英雄】の能力についても説明した。


 「なるほど。お前の中に魂として眠るシャックスが真の魔王になるわけで、最後にはお前が自害して解決しようとする作戦も分かったし理解した。だがそれは余りに浅はかだな。結局ウロボロスとヌルを殺した時どれくらいの速さで魂が回収されるかも分からないし、自害しても【英雄】の能力で完全復活してしまえばお仕舞いだ」


 イヴは現状の理解と今後の作戦の検討を鑑みて答えを出してくれているが、あまりに回答が的確過ぎてぐうの音も出なかった。メアリーは自害するという言葉に戸惑っていたが実際に魔英神シャックスとして顕現した時の事を考えると何も言葉が出なかった。


 「だったらどうすりゃいいってんだよ」


 「簡単だろ?全て万事解決する方法は一つだ。お前の魂が回収されたシガレットの魂を上回りシャックスに身体の操作を奪われなければいい話だ」


 すぐパワー技で解決しようとするイヴに大きく溜息が出た。それが出来れば誰も苦労していないし悩んでもいない。そもそも魂という本当にあるのかないのか不透明な物をどう強化しろと言うんだ。


 「魂の強さってなんだろうね。ウチはコナミが物怖じしない不屈の闘志で戦う姿を見てたからそういうのかと思ってたんだけど」


 「実際はそうだと思うが技を使えば魂が擦り減って"死"を間近に感じてしまう。そうなると魂が弱まって能力から体力を持ってかれて息も荒くなって、戦いの最中に力が上手く使えず更に死を感じる。これが負のループだ」


 死を恐れてしまうのは生きとし生ける全ての共通認識だ。それを恐れない様にするというのは不可能に近いだろう。だがイヴとの一戦では死んでもいいという命を投げ打ってでも助けたい一心だった。それが功を奏したのかもしれない。


 死を恐れない方法なんて存在するのだろうか。そう感じていたが自害する方法でアイリを助けようとしている時点で死を恐れていないのかもしれない。


 「誰かの為に……なら死を恐れないのか?レイテの様に……」


 ポツリと零した言葉にイヴは暗い顔になってしまった。シガレットは厄災を巻き散らしその戦いでフィルスは死に、レイテも死んでしまった。もうメサイアとイヴしか残っていない。メサイア?


 「もしかしたらメサイアなら協力してくれるんじゃ」


 「無理だな。彼女はプライベリウムとリン王女を守護する意思が強い」


 「シガレットが復活してからでは遅いんだぞ!」


 「しかし……だな……」


 イヴは悩んでいたが本来であればあれ程強力な魔法を唱えられるメサイアが必要不可欠なはずだった。それでも拒むのはこれ以上戦いの中仲間を失う恐怖心が勝ってしまっているからかもしれない。イヴはパーティの中で中衛型を率先して行っていたのも仲間想いからだった。


 「一度話してみよう。レイテの事も伝えておきたいし」


 「……わかった。だが無理強いはしない。それだけは心に留めておけよ」


 イヴは悩み抜いた結果深呼吸して承諾してくれた。ウロボロスと直接戦っているイヴにとってもメサイアの戦力は不可欠なのだろう。


 三人は明日の朝に魔法都市プライベリウムへ向かう事にした。



――――――――――――――――――――



 魔の森ジグフォレストを抜けたコナミ達は魔法都市プライベリウムへ着いた。


 以前旅立った時と何も変わらない景色。中央を飾る城は美しく、街は賑わい、そしてメサイアの魔法からなる結界で完全な守りを見せる平和な街だ。


 誰もがそう信じていた。


 「これが……あの魔法都市プライベリウム……?」

 「こんな、こんな事があってたまるかよ。そんな、嘘だ。嘘だ!!」

 「メサイアああああ!!どこだああああ!!!」


 都市内が破壊し尽くされ燃え広がる魔法都市プライベリウム。城はボロボロで戦闘があった痕跡がいくつも見られた。死に耐える人々、壊れた家々、燃え広がる灼熱の炎。三人は必死でメサイアや生きている人を探し回ったが人はそこらかしこにいるのに誰も生きてはいなかった。


 「メサイア!!イヴだ!!返事をしてくれ!!メサイア!!」


 必死に声をあげるも返事ひとつ聞こえる事はなかった。そんな中コナミだけがこの惨状を実現可能な犯人を理解していた。カラトの村も似たような光景だったのかと理解が容易く出来る。


 「ウロボロス……!!」


 コナミは城へ走り込んで行くが中も崩壊し過ぎて廃屋と化していた。城の瓦礫が多く崩れ落ちて全体が倒壊する危険性すら感じる程だった。そんな中でコナミは恐ろしい物を目にしてしまう。


 「嘘だ……そんな……そんな……」


 そこには瓦礫の下敷きとなって死に絶えるリゾットがいた。みんなのご飯を作りながらコナミを元気付けてくれてニッコリした笑顔をもう見る事が出来ない。そう思いながらコナミは瓦礫を退けてリゾットを抱き締めた。


 「リゾット……ごめん、ここへ来るのがもう少し早ければ……」


 コナミはリゾットの遺体を後で回収する事を誓って魔法図書室へ急いだ。あそこならもしかすればメサイアがいるかもしれない。コナミはメサイアが死んでいると考えてはいなかった。彼女は最強の魔法使いなんだ。きっと大丈夫。必ず生きている。


 地下の階段を駆け下りて魔法図書室へ向かうがこの辺りは被害は少なかった。それどころか特に異常は見当たらないが、扉の向こうから強烈な気配を感じた。殺気、妖気、どれにも当てはまらない歪なオーラ。扉自体が歪んでいるかの如く禍々しい雰囲気を出している。


 既にコナミは察していた。何がその先にいるかなどいとも簡単に。


 「ウロボロス」

 「来たか。英雄」


 ウロボロスはパタリと【英雄シガレット】と書かれている本を閉じると放り投げた。束ねた白く長い髪の毛を振りほどき椅子から立ち上がった。ウロボロスがそこにただ立っているだけでもこちらが立つのがやっとになる程の強烈なオーラから魂が掻き乱されてしまう。前に会った時のウロボロスとはまるで別人にも見える程に強さや雰囲気が違っていた。


 「この惨劇はお前がやったんだな」


 「私はただ魔法図書室へ本を読みに来たに過ぎない。ま、どの本を読んでも言霊足りえる物は無かったがな」


 「メサイアはどうした……!!【英雄】!!」


 不機嫌そうになるウロボロスに危険を察知してコナミは能力を解放した。だがいつもよりも魂の乱れからか心臓が早く動悸が激しい。落ち着け。落ち着け。落ち着け。


 「お前は虫が目の前を通った時不意に払い除けたりしないのか?私は魔法図書室へ来ただけだと言うのにブンブンと鬱陶しく飛び回る虫共め。駆除したお陰で静寂を手に入れて気分良く本を読めたという訳だ」


 それ以上の言葉は必要無かった。身体中から火花が走る程の電撃が駆け巡る。強い言葉を今まであまり使ってこなかったがウロボロスにだけは心の底から向けていい言葉だとコナミは感じた。


 「死ね」



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