76. ブラッディソウル
「どけええええええ!!!」
能力を発動したとはいえ手を縛られたままでは限界があった。それに目の前には100人は超えようかとする敵の数を相手にどこまで逃げ切れるか分からない。とにかく前へ、前へと行くしかない。
だが頭上から怒気と共に降ってきたベリアはコナミを殴り付けて吹き飛ばした。先程までいた鉄の家の壁に叩きつけられたコナミは口の中に血の味を感じて吐き捨てた。
「おいおい、どこへ行く気だ?それになんださっきのは。仲間か?」
ズンズンと足音を立ててこちらへ来るベリアで本来であれば恐れて恐怖するはずだが、コナミは自身の成長ぶりに驚いていた。何より驚いたのは強固な魂から得られる能力のステータス上昇値は身体へも影響が出ているという事だ。破壊力だけでは無く身体全体を覆うかの様にバリアが包み込んでいるのを感じる。
「はっ。細い割に固いな。お前一体何者だ?本当は英雄の皮被った闇の使者なんだろ、なぁおい」
「違うっつってんだろいい加減にしろよ!」
冤罪甚だしい言葉に苛立ちを抑えられないコナミは兎に角ベリアから離れようと逃げるが、反対方向にはファウドがこちらに向けて銃を構えていた。
「大人しくしてろ。餌がこの島をうろつき回るのはよくねぇ。お前みたいな闇の使者は特になぁ」
「闇の使者、闇の使者ってお前ら……!!俺がどんな想いで闇の使者と戦ってるのか知らないで……!!」
「ギャハハ!知る訳ねーだろバケモンが!」
「活きがいいがとっととくたばれ!!」
好き勝手に罵倒しながら迫り来るゴロツキに怒りが沸き上がってきたが、途端に英雄の能力に揺らぎが生じる。力のコントロールが利かない。
魂を平穏に、魂を平穏に、落ち着けコナミ。大丈夫だ。
「お前が探してるそのイヴとかいう女もとっくに死んだだろうぜ?」
ファウドが放ったその言葉が全ての原因だった。腕を固く結んでいたはずの縄は千切れ飛び、初めから銃を向けていたファウドの首にコナミは剣を向けていた。身体からバチバチと電流が流れているのを感じる。
その異常なまでの速さにベリアでさえも言葉を失い静寂を生んだ。
「取り消せ」
「お、おいおい、待てよ。落ち着けって」
「取り消せ」
コナミの中でイヴが死んだという事実を受け入れていなかった。
きっと生きている。イヴが死ぬはずがない。でも相手がウロボロスなら?いやそれでもイヴならきっと。でも、いやそんな、でも。
頭の中で葛藤が流れているコナミに対してイヴの死についての言葉の重みは冗談であっても許されるものでは無かったのだった。
剣先がゆっくりとファウドの喉に入っていき血がゆっくりと流れ始める。
「それがお前の神命とやらか?」
背後に居たのはベリアだった。既に振り上げた拳がコナミに向かってきていたが難なくそれを避けてベリアの腕を切り落とそうと攻撃した。だが筋肉に覆われた上に鱗の様な肌をしているベリアの腕は頑丈で剣先が通っていない。
「すごい速さだ。だが攻撃力はそうでもないな!」
すかさず攻撃を繰り出すベリアを受け流してはいたが心の動揺が能力に影響を与え続けてコナミの息は上がりつつあった。こうなったら一撃でベリアを沈めて逃げるしかない。
「やるな!だが息があがってるぜ!!オラァ!」
次に来たベリアの拳を避けたと同時にコナミは大きく息を吸った。
「雷光抜刀閃」
隙を付いたコナミの剣はベリアの腹部を捉える。
ドゴォォォォオオオン!!!!
剣が立てる音とは思えない轟音。
誰もが凄まじい雷が横に落ちた様に見えた。
そのままベリアを真っ二つにする予定だったが、そこまでの傷にはならなかった。だがあれ程頑丈だった皮膚に確実に剣は肉を切り裂いている。返り血をまき散らしベリアは家を薙ぎ倒し3件程先まで吹き飛んでいった。
コナミの腕はぶるぶると震えて痙攣している。今までのコナミなら自分の技で腕が吹き飛んでいたレベルだっただろう。魂を強固にしたお陰なのか能力が身体を守ってくれている。だが心を落ち着かせない限り能力が安定せず眩暈や動悸が酷くなり息が上がり続ける。
「べ、ベリアさん!!てめぇ!!」
「「「動くな!!」」」
ブラッディソウルとは別組織に見える黒服軍団が銃を構えてどこからか現れた。そいつらはコナミを囲うかの様に周りに集まり始めた。
「狙ったかの様なタイミングだな。ナタリーさんよ」
ファウドは状況を把握したのか銃を下ろして様子を見た。コツコツをヒールの音を立てながら現れたのは青いチャイナドレスかアオザイにも見えるひらひらとした衣装に、金色の長髪をポニーテールに括り、鋭い目つきで金色の目がギラギラと光る。
だが見た目が完全に中学生か高校生程度で身長が低いのを隠す為か歩きにくそうな厚底のヒールを履いている。
「お久しぶりだなファウド。横取りしてすまないが君たちの餌はウチら忘神会が貰っていくよ」
コナミはグルグルとした視界を元に戻す為に必死で深呼吸していたが過呼吸気味になり更に悪化していた。気が付けばスーツの男たちに肩を借りながら連れていかれていた。
「待てコラァ!ベリアさんをあんな風にして生きて帰れると思ってるのか!」
それに対してナタリーは大声で笑い飛ばしてファウドを睨んだ。
「カカカカ!初めにフラッシュバンを食らった時点でウチらからの警告だって事に気付けよおバカさん。ウチは初めからこの子を狙ってたんだよ。君たち如きが餌にするには少し極上過ぎた様だな。それに――――」
パキッ
ファウドの銃は不自然にも既に鋭利な刃物で切られて床に転がっていた。
「ベリア無しの君たちでは生きて帰るなんて散歩と変わらないさ。カカッ!それじゃあ行くよみんな」
コツコツと音を立ててスーツの男たちはスラム街の中へと消えていった。
コナミは視界が眩む中スーツの男に担がれて進んでいる途中、ナタリーがこちらの顔を覗き込んで口に何かを詰め込んで来た。
これは、チョコ!?久しぶりに食べた甘い菓子に心は落ち着いて視界はゆっくりと戻ってきた。
「甘いもんは心を休める。ウチが来たからには安心しな」
コナミはゆっくりと深呼吸して能力を解除した。するとスーツの男たちは急に倒れ込みコナミと一緒に床に倒れた。
「にしてもお前見た目の割に重いな……」
「重いって、ブラッディソウルの連中も言ってたけど昔測った時には俺の体重なんて60kg程度しか無かったぞ」
体重自体は変わっていないはずだが神界から帰ってきて何か変わったのだろうか。筋肉が付いた訳でもないとなると強靭な魂は重さにも影響が出るのだろうか。
コナミは心を落ち着かせたお陰か立ち上がる事が出来た。それにナタリーはニッコリと笑って近付いてくる。その笑顔は少女とは思えない色気と美しさに見惚れてしまう程だった。
「元気になって良かったよコナミ。さ、一緒に行こう」
ナタリーはコナミの手を握ってその先へと歩き出した。この小さな手でどうやってファウドの銃を切り裂いたのか理解が出来ない。相当なマナの使い手なのだろうか。
大きな門に閉ざされた日本家屋に似た建物は周囲の家々とは比較にならない程豪勢でその周囲を2m置きに黒服のスーツを着た男が見張りをしている。
ゆっくりと閉ざされた扉が開き和の雰囲気に包まれた日本家屋が現れる。
「ようこそ、忘神会へ」




