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75. スラム街ヴァイパーズパンク

 暗闇の中何かの荷台に乗せられるとガタガタと揺れながら運ばれていった。目と口、更には手足も縛られて塞がれていたが藻掻く事くらいは出来る。どうにか口だけでも開く事が出来れば能力が発動出来ると考えたコナミは懸命に足搔いた。


 「ふごご!ふごごご!!」


 「うるせぇよ、お前はリーファス街道を通った時点で俺たちの餌なんだよ。餌は黙って食われてろボケナス」


 頭を蹴り飛ばされたコナミは大人しく捕まる事にした。デストレイズとの戦闘のせいか能力の使い方に自信が付いていたコナミはこの状況でも冷静でいられた。こんな奴らあのデストレイズと比べたら何ていう事もない。


 それよりも今までは魂の人体形成で戦っていたが肉体に戻ってきたコナミがどこまで戦えるのか気になっていた。筋力自体は変わっていないが強靭な魂は能力へと結び付く。だが能力の向上に肉体が付いて行けるのだろうか、と。


 「着きました!」

 「おう、荷物を下ろせ」


 荷台から降ろされたコナミは足と目の縛りを取られたが、そこは街と呼べる物ではなかった。石作りの豆腐建築にも感じる不格好な家々が並び窓も小さな覗き穴程度しかなく生活感はまるで無い。建物の前に居る者は全員が銃や剣を携帯しており、誰しもの目付きは悪く殺伐としていた。


 「おう、また餌が来たのか?」

 「若いな。ひひ」


 道行く人も"餌"という単語を使っているが一体どういう意味なのだろうか。食人族などには見えないがこれは一体。


 先へ進むごとにスプレーで書いた様な落書きが多くなっていき見るからに治安も悪くなっていった。道の途中立ち止まったかと思うと鉄で建てられた他の建物より強固に見える建物だった。


 「ベリアさん新しい餌、連れてきたっすよ~」


 そういうと背後から部屋の中に蹴り入れられた。


 「よぉ、仮初の英雄さん」


 そこにいたのは4メートルは超えようかという大男。金髪に蜘蛛の巣の剃り込みが入った坊主に後頭部には鞭撻も見える。部屋の半分もあるソファーに座りながら動物性のファーが付いたコートを肩に欠けているせいかより大柄に見えた。


 「あ~~~~~?コイツがそうだってのかよ。如何にも貧弱そうだぜ?」

 「なァにこの子」「よわそ~!」


 取り巻きの男達や下着姿の女共も一緒になってコナミを嘲笑う。


 「お前がシガレットの能力を備えた闇の使者だってのか?ああ?」


 闇の使者!?そんな疑いを掛けられて捕まっているのか!?

 否定したかったが口縄のせいで喋る事が出来ない為首を大きく横に振った。


 「はっ。ここ最近闇の使者と闇の使者での争いが多いと聞く。要塞共和国インペリアルをぶっ壊したのも闇の使者同士の争いらしい。シガレットの幼虫共が殺し合ってくれるのは構わねぇが、お前が教会都市ジンライムで闇の使者と戦ったって情報は聞いてんだよ。お前も闇の使者なんだろ?吐けよコラ」


 中央教会(セントラル)が壊滅状態になったのはアイリの秘剣・聖光斬であり、一般的な魔法の類いであれだけの破壊力はそう見ない。だから闇の使者同士が争ったとでも言いたいのだろうか。このままでは誤解が誤解を招いてしまう。


 「ふごご!ふごご!」

 「あ?何言ってんだこいつ。ファウド、口縄を切れ。手はそのままだ」


 口縄を強引に短剣で切られて頬に傷が付いて血が流れた。


 「俺は闇の使者じゃない。人を探しにここまで来ただけだ。それに要塞共和国インペリアルは闇の使者同士じゃない」


 「なんだお前、インペリアルでも一枚噛んでるって言いたいのか?はっ。英雄気取りはいいねぇ!今のこの時代で英雄って呼ばれて喜ぶ馬鹿はお前くらいだよギャハハハ!!」

 「「「ハハハハハハハ!!!」」」


 ベリアが笑うと周囲のごろつき共も大きな声で笑い出す。コナミを英雄と呼ばれたのは数多くはないはず。こいつらどこまで情報を握ってるんだ。


 「はっ。そんでお前は誰を探してるって?お前が理想とする英雄シガレットはここにゃいねぇぞ?」


 「違う。俺はイヴという女性を探してるんだ」


 嘲笑っていた会場がピタリと止まる。


 「そいつぁ【霊剣】で名の通っているイヴ・バレンタインか?」


 「ああ、そうだ」


 真剣な眼差しでコナミはベリアを見た。

 しんとした会場の中ベリアは小さく口を開く。


 プッ。


 「「「「ギャーハハハハハハハ!!!」」」」

 「やべぇ腹いてぇ!」「こいつ本当に英雄気取りかよ!」


 腹を抱えて転げ回る者や机をバンバンと叩く者。大勢の人間はコナミの言葉をどこまでも馬鹿にして笑い続けた。


 「はっ!おいおい英雄さんよぉ!そんな過去の遺物を探して何になる。シガレットにより始まった災厄で世界が滅茶苦茶になって以降ピタリと英雄の話は途絶えた。一部界隈では口にする事すら許されちゃいねぇ。仲間が迷惑かけまくった挙句の果てが失踪と聞いては呆れるぜ。そんな大馬鹿者がこの街にいるって?笑わせるんじゃねぇ!」


「そうだ!そうだ!」「頭の中までお花畑かよ!ギャハハ!」


「それには理由が、ここに来たのにもきっと……!」


 「はっ!理由なんかどうだっていい。大事な物は結果だ。何も果たせず何も負わず全てを捨ててアイツらは逃げたのさ。更に文献を読み解けばシガレットは魔王勇者パーシヴァルの息子に酷似していると聞く。世界を滅ぼす為の力を手に入れる旅だったって訳さ」


 「それは違う!」


 「いいや違わないね。さっきも言ったろ結果が全てだ。今では英雄と語る者ほど恥ずかしく滑稽な道化は他に無い。ギルドだの冒険者だの英雄だのくだらねぇ」


 大きな手で顎を掴まれてコナミは引き寄せられた。その目付きはまるで獣の目。蛇に捕まった蛙の様にそのまま丸呑みされる感覚がコナミを伝った。


 「いいか、今の時代を築くのは悪だ。英雄なんかじゃねぇ。茶番劇に付き合ってられる程甘い世の中じゃねぇんだぜ?お前は闇の使者であり俺の餌だ。決して英雄なんかじゃねぇ。それでも英雄だって言い張って生き延びてぇなら、頑張りな?」


 そういうと背後から刀を持った男がコナミの首を狙っていた。コナミはデストレイズとの経験からか気付いてからの反応よりもずっと先に身体が刀を交わしていた。


 これにはコナミ自身驚いていた。どうして避けられたのか戸惑う程に。


 「ほう?」


 小さく声を出したベリアも驚いていた様子だった。今度は別の男ども2人が追加で参戦してコナミに攻撃を仕掛けるが、どの攻撃も手を抜いているのかと思う程に遅く感じる。


 これなら行ける―――!!


 そう思った瞬間頭を持たれて気付けば部屋の床に叩き付けられた。先程のファウドと呼ばれる幹部の動きはゴロツキとは一線を画している。


 「ベリアさんの前で調子こいてんじゃねぇよ。あぁ?お前らもブラッディソウルの名を汚すつもりか!!あぁ!!」


 「くそっ、英ゆ……もごっ!!」


 ファウドはコナミの口の中に手を入れて喋れなくさせた。もしかして能力の発動条件がバレているのか。そのまま反対の手でファウドはコナミを何度も殴り付けた。やばい、気が遠くなっていく。


 「餌如きに手間取りやがって。おい、こいつをバラせ――」


 ガシャァン!!


 窓から入ってきたのは野球ボールくらいの玉だった。想定外の事態なのかファウドは手を止めた。その場にいた全員が何が起こっているのか分からずそれを見ていた。爆弾かと思ったコナミは目を閉じて地面に伏せた。


 キィィィィイン!!!


 凄まじい高音と眩しい光。これはスタングレネード!ゲームとかでは見た事があったが、実物をくらったのは初めてで平衡感覚を失うほどに耳鳴りと頭痛がした。


 「「「ぐああああ」」」


 ダメージを受けていたのはコナミだけではなく部屋に居た全員と外の連中の一部も叫び声をあげて苦しんだ。視界は眩んでいるが光を直接見ていなかったコナミの目は見えないわけではない。今が好機だ。


 コナミはファウドを殴り付けた後急いで外へと逃げ出した。多くのごろつきが立っていたが蹴り飛ばしながら進んで行く。


 「野郎、逃がすな!餌が逃げたぞ!追え!」


 カンカンカンカン!


 鐘を鳴らす音と共にどこから湧いて出てきたのかごろつきが街の至る所から出現した。このままでは確実にやられる!!


 「【英雄】!!」


 視界が眩む中ごろつきを蹴り飛ばしながら先へと逃げた。

 どこまで逃げても闇なのかと思う先へコナミは足を進める。

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