68. おやすみ
放たれた秘剣・聖光斬は巨大な光線となり止まる事無くメビウスへと向かった。足を再生しきれていないメビウスに逃げ場等無い。
「戦鬼止めろ!攻撃を少しでも弱体化させるんだ!」
メビウスは魂を半分に分けて戦鬼を出して攻撃を受け止めさせようとした。しかし現れた戦鬼はアイリの攻撃を飛び退いて避けた。それを見たメビウスは見せた事のない絶望の顔色をして焦り驚愕した。
「なっ、戦鬼、お前……何をして」
戦鬼はメビウスを見て憎しみを込めた怒りの表情をする。
『僕は戦鬼じゃない。メビウスだ。消えろ偽物!』
「シャックス!どういう事だ!神命とは、一体……ッ!!」
全力で繰り出した秘剣・聖光斬はメビウスの身体を直撃した。その圧倒的な威力は街を突き抜けていき通った後を飲み込みながら消し飛ばした。無論直撃したメビウスの身体は粉微塵へと消し去り死んだ。
『スイレンさん』
身体が朽ちながら消えようとするメビウスの身体を模した戦鬼はスイレンの前に立っていた。アイリはそれを見て危険を察知したが、"メビウス"にその様子は無く殺気も感じ取れなかった。
スイレンもそれを理解したのかとっくに限界を迎えている身体を起こして座り込んだ。
「どうしたんや"メビウス"?」
その言葉にメビウスは崩れ落ちる身体なのか涙なのかは分からないが目から感情的な物が流れる。
『こんな僕でも、"メビウス"って、呼んでくれるんだね』
「当たり前やろ。アンタがメビウスや。アチキの家族。それを馬鹿やと思われようが今だってそう思っとるよ」
メビウスの足が崩れ消えてスイレンはそれを見て優しく抱きしめた。子供が泣きじゃくる様にメビウスはただただ、最後まで声を出し切る。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』
「もうええ。もうええんや。メビウス、ゆっくりおやすみ」
『スイレンさん、おやすみなさい』
そう言い残してメビウスはこの世から消え去った。後味が良いのか悪いのか分からないが、それでもスイレンは満足そうな顔をしている。その後アイリとスイレンは完全に意識を失いその場に倒れてしまった。
お互いに失った物は計り知れない。ナギア、ビルスメイン、エキドナ、そしてメビウス。この世から消えていった魂はどこへ行くのだろう。
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ドクン……!
鼓動を鳴らす心臓にアイリは目を覚ますとそこは真っ暗な闇だった。宇宙空間と言える無の感覚。熱くも無く寒くも無い、足場も無ければ何も無い。
『初めましてだな』
そこに立っていたのは皆が口を揃えて言っていたドロドロした何かだった。形は無く泥人形にも近しいそれはアイリへと近付いてくる。
「アナタがシャックス、デスか」
『そうだ。とある理由で闇の使者に俺の魂の一部、神の命とも言える【神命】を授けている者だ。そして今話しているのもお前の中にいる俺の魂の一部、【魂】の神命という訳だ』
「……なるほど。それで今更出てきて何か御用デスか」
ドロドロした身体で顔などは見えなくても笑っている感じだけは分かる。
『闇の使者は言霊という自らの記憶を思い出し、よりシガレットとのシンクロを強める事で魂を元の形へと戻そうとする。だがお前の闇の使者としての意志は眠り続け目覚めようとしていない。つまりこのままではお前は闇の使者としての使命を全う出来ない。それは俺にとって非常に困るんだ』
「アナタがどうして困るんデス」
『俺はコナミという器を媒体に魂を回収させ、パズルを組み立てる様に自らの身体をシガレットとして扱う事が出来る。個は全を成し世界は正しい秩序へと進むだろう。それが神の決定事項だ』
アイリにとって意味が分からない内容だったがそれでも"コナミ"という単語だけが引っかかった。
「どうしてコナミさんを知ってるデスか!」
『コナミの中に本体とも言える一番大きな俺の魂が存在するからさ。更に言えば俺の魂を分配してもメビウスみたいに個々の在り方をしない。俺は個であり全。つまりあちらで何が起きているかも全て理解している。無論ウロボロスの動きや残る闇の使者もな』
「……コナミさんは、どうなったのデスか。どうするつもりなのデスか」
『コナミの魂は壊れたが神界へと運ばれ修繕し、自らの使命と向き合っている最中だ。これからの事に関しては不明だ。何が起こるかも分からないし俺が何を成そうとしているかも秘密だ』
コナミが生きているという事実を知っただけでもアイリには嬉しく心が温かくなるのを感じた。またいつか会える、会いたい。だがシャックスという者は何一つ信用してはならない、そんな悪い感覚だけがアイリの中で広がっていた。
「コナミさんは―――」
『コナミコナミって五月蠅い奴だな。それよりも問題はお前なんだよ。本来の【魂】の神命は死んだとしても近くに居る魂の居場所を奪い取り何度でも復活する不死の闇の使者にするつもりだった。だが、お前の生きる意志とフィルスの魂が強すぎた結果、闇の使者の魂は抑え込まれて動けずにいる。だからアイリ、お前は死んでくれ。でないと俺の使命が完遂出来ない』
唐突に言われた言葉に衝撃を受けたが結果的にシャックスを信用していい相手ではない事、そして今はシャックスにもアイリの中に居る闇の使者にも何も出来ない事が分かった。十分過ぎる有益な情報と言えるだろう。
「うるさいデスね。アナタが何を言おうと勝手デスが、ワタシは死なないデスから使命は完遂出来ないデスよ」
『生意気な小娘が。時期にお前は終わる。俺の従順な最後の闇の使者がお前の魂を引き摺り出し、シガレットの魂を完成させるだろう。お前が苦痛に顔を歪ませて死ぬ日が楽しみだよ。ハハハハハハハハハハハ!』
そう言うと宇宙空間は閉ざされて行き急速な眩暈の感覚と共に落ちて行く。既に死んだアイリが思うのも変な話だが、それでも生きたいという意志と仲間やフィルスの想いが強く身体に感じるのを理解した。
「ワタシは、生きてコナミさんの所に帰らなきゃ」
微かな光を探して藻搔いてでも生きる事を決意した。




