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44. ハハハハハハハハハハハ

 暗い闇の中でもお互いの身体が見える宇宙空間のような部屋。温度と呼べる物や風も無く、そして先程の痛みも傷も無い。何も無い空間に2人だけの世界だ。


 『なぜシガレットの姿をしてるんだ!お前はシャックスだろ!』


 『その通り。俺は全と個を司る神シャックスだ。シガレットは全、闇の使者は個。お前に渡した能力は闇の使者が死んだ時にその個である魂を強制的に回収出来る能力だ。そしてお前の身体に忍ばせた俺の魂を媒体として魂は再構築され肉体へと形成されていく』


 シガレットは何か疲れているのか喋り慣れてないのか一呼吸置いて話を続ける。


 『魔王シガレットは魂が解放され憎悪に満ちた"悪の魂"とお前が英雄として旅をした時に培った"正義の魂"の二極化していた。シガレットが敗れ正義と悪の魂が二分化した後、更に4分割して散っていった。つまり合計闇の使者は8人ってわけだ。ハーベストとユルシュピは両方と正義の心を持っていたからな。色濃く正義の魂を持ったシガレットに俺が近付いたってわけさ』


 色んな新しい情報が次々と流れ込んできて情報過多で頭が痛い。


 『なぜお前がシガレットになる必要がある。何の為にそんな能力を俺に渡した?』


 シャックスはチッチッチッと指を振る。

 これはコナミがシガレットだった頃によくやっていた癖だ。


 『全ての闇の使者を倒した後、魂を全て集めた肉体であれば完全なシガレットが顕現する。だが元々秩序云々でディバインズオーダーに手出し出来なかった神様は同じ神である俺にならどうだろうか?』


 『直接シガレットを……殺す事が出来る?』


 『その通り。だから闇の使者を殺すのをお前に託し数々の神の能力を授けた。最後には俺を殺す為に。だが正直な所死にたくはない。だから賭けをしているのさ。闇の使者に見えているドロドロした者の正体、あれは全て俺の魂の個だ。だからコナミを急かして闇の使者を早く殺させようとしてるのさ』


 シャックスはコナミの周りを歩きながら話を続ける。その姿は今か今かと待ちわびて、やっと話せるようになったかのように饒舌だ。


 『仮にいずれかの闇の使者が魂の情報である【言霊】を集めきった時シガレットは復活して世界は滅ぶ。アルテウスやウラノスでさえこの秩序の補完は覆せないだろうな。ハハハ、止めるならお前が止めろコナミ。ま、今お前は死んでいるがな』


 やはり思っていた通り死んでいた。アイリが死ぬ程の肉体のダメージを直接引き継いだのだから無理はない。


 『そう……だよな。俺、死んじまったもんな』

 『魂は肉体を離れ、今ここにいる。戻す為なら魂を俺と融合させる【英雄】を唱えるしかないが今は無理だな、ハハハ!』


 イチイチ笑う態度が気に入らない。何がそんなに可笑しいんだ。こいつにとって世界がどうなっても本当にいいのだろうか。だがもう世界を救うにはこれしかない。


 『頼む!力を貸してくれ!』


 コナミはシャックスになりふり構わず土下座した。神に土下座しろと言ったのに土下座をして懇願している情けない姿を見たシガレットは堪え切れない笑いを一気に吹き出して転げ回った。


 『ブハハハハ!あ~いいぜ!ウラノスも今回は見逃すだろうしなぁ!』

 『本当か!!どうすればいい!?』


 『手始めに10分だ。身体をよこせ』

 『え?』



―――※※※※――――――※※※※―――


肉体とか精神とか魂とかよくわからない。

どこに魂があるのかもわからない。


※※※※※※―――――――※※―


でも身体から心の様なものが離れていくのがわかる。

暗い湖の底に落ちて行くような。


――※※※※※――― ※※


「【英雄】」


※※――― ※※―



―――――――――――――――――



 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 コナミの飛び散った血や肉片や傷が全て元通りに塞がって行く。身体は言う事を利かずオートモードになり、FPS視点で人のゲーム画面を見ている風に近い状態となった。何故だか分からないが笑いが収まらない。気分が良い。高揚する。


 「え、コナミっち……?」

 「コナミ……さん?」


 アイリとナギアは状況を理解できず困惑している。アイリが生きていた事に喜びたい気持ちすらシャックスに奪われていく。


 「やはり現世はいい。光が、風が、天が、地が、俺を喜ばせる」

 「コ、コナミさん、何を言ってるデスか……?いや、アナタ一体誰デスか!!コナミさんをどうしたデス!!」


 コナミは頭をボリボリと搔きむしりながらアイリを見て怒りが満ちてくる。ダメだ、アイリに手を出すな!やめろ!


 「ったく、うるさいな。手は出さないよ。これでも英雄だぜ?昔のお前はクソガキなんか嫌いだったくせに何がいいんだか」


 声が聞こえてるのか?魂はまだここにあるのだろうか。

 だったら何とかして制御を俺に戻して――――。


 「あと9分だ。コナミ、お前はもう黙ってろ。お前の本来の力を見せてやる特別授業と思え」


 意識が強く持っていかれコナミの魂は消えたように視界以外何も感じなくなる。


 十字架の剣を持ったコナミの身体からマナが急激に放出されていく。地面は揺れ、風は靡き、空が歪む。それ程のマナ量。コナミが睨んだ瞬間、ジークは身体が震え上がる程に恐怖した。


 「なんだお前、本当にさっきのコナミなのか?いや、何者だ、お前!!来るな!!こっちへ来るな!!」


 ジークも異変に気付いたのか咄嗟に炎と電撃を織り交ぜた魔導を放つが、体外へ放出されるマナのみで弾き飛ばしてしまう。ナギアとアイリはぽかーんとした顔でその様子を眺める。


 「魔導?闇の使者はマナが使えないからと言って魔導だと?俺から貰ったにしちゃ余りにも情けない能力だ」


 そう言ってコナミは歩いて近付いて行く。


 「何を言ってるんだ!やめろ!来るな!来るなぁ!」

 「お前の中にいる俺の魂に説教してやらないと。神命のセンスが無いってな」


 ウラノスの能力で瞬間移動したコナミは既にジークの後ろへ飛んでいた。気が付いたジークは後ろ側へ炎の竜を繰り出すがその時には更に瞬間移動して正面へ移動していた。


 「なんだ?弱ッちィ炎だなオイ。炎ってのはこう出すんだぜ?」


 大量のマナの放出によりまるでマグマのようにボコボコと十字架の剣が煮えたぎっていく。赤黒いマナに包まれた剣は急激な光を放つ。


 「煉獄爆炎撃」


 咄嗟に防ごうとしてジークが出した氷の竜は瞬時に溶け、もう一方の炎の竜が燃え盛り共に消えていく。そのままジークに向けた剣撃は空に浮いていたジークを燃え盛る炎と共に地面へと叩きつけた。


 「うご……熱い……なんだこの炎……取れない!!」


 強力なマナによる力が粘着物質で付いたかの様になり、炎を振り払おうとしても消える事はない。死を悟ったナギアは走ってジークに駆け寄る。


 「ジーク!ジーク!」

 「触れるなナギア!この炎がそっちに移るぞ!」

 「ジーク……どうしてこんな事をしたの?本当は優しいのに……」


 多量に出血するはずのジークは炎に焼かれ血すら流れ落ちない。息がし辛くなってきたのかヒューヒューと呼吸が荒くなる。


 「俺の魂は、悪だった。シガレットの伝記を読んだ時だ……思い出した様に怒りが沸き上がり、憎しみに支配されていくのを……感じた。ナギア、お前にも読ませたよな。あの時お前はシガレットは可哀想と、言って泣いた。俺とお前は違う、でも、俺はお前に、分かって欲しかった。俺はもう、俺じゃなくなっていくのが、怖いんだ」


 「当然だ。お前は闇の使者の中で悪の魂を継いだ。言霊を集める度に怒りが湧き憎しみにもがき苦しむだろうぜ」


 呼吸が出来なくなってきたジークは苦しそうにもがく。


 「お願いコナミっち!炎を消して!お願い!」


 コナミはナギアを睨み付けるがその真っ直ぐな眼は恐れる事は無い。十字架の剣から炎が消えると同時にジークの身体から炎が消えた。


 「ふん、最後の挨拶だ好きにしろ。あと5分。少し遊び過ぎたな」


 コナミは空へ飛び上がったが力加減を失敗し建物のずっと上まで飛び上がってしまう。既に崩壊した都市はそこかしこで火の手が上がり、悲鳴はほとんど聞こえなくなっていた。ただ死体と瓦礫が転がり落ちる都市は夢で見た地獄のような景色に似ている。


 「まだ耐えるか女。いい加減鬱陶しいぞ!!」

 「貴様が死ねぇぇぇぇえええ!!!」


 もうどれくらい時間が経っているのか分からないが未だにイヴとウロボロスが戦闘を続けている。イヴの鎧は既に原型を留めておらず、バラバラに砕け散った霊剣が何十本も落ちている。ウロボロスはほとんど目立った傷は見られない。


 「ハハハ、絶景じゃないか。もう少し眺めていたいが―――――――」


 マナを急激に放出し身体中に電撃を走らせる。その瞬間戦闘中のイヴとウロボロスの間に瞬間移動で割って入り混むと急な展開に二人はは一瞬戸惑い身体が固まった。


 「雷光抜刀撃」


 これまでコナミが撃ってきた技とは比べ物にならない。

 まさにこれこそがシガレットの雷光抜刀撃と言えよう。凄まじい一撃まともに食らったウロボロスの身体は真っ二つになり切断部分は雷によって焼け焦げた臭いがする。


 「これは……あの夢で見たシガレットの技!?おお、おおおま、お前、如きが!なぜこの技を、技を――――」


 ウロボロスは目の前から消えた。


 「―――使えるんだ?」


 目の前で真っ二つになったはずのウロボロスは先程の攻撃がまるで無かったかのように元に戻り隣に立っていた。


 「え?」

 ドゴッッッ!!!!


 強く握られたウロボロスの拳はコナミの顔面に命中していた。瓦礫の山まで吹き飛ばされて受け身を取った際に左腕が折れて使い物になりそうにない。


 「な……何が起きた!?」

 「コナミ!こいつの能力は時間を戻す事が出来る!即死を狙わないと恐らくこいつは死なない!」


 これがウロボロスが説明していた【次元時空】という能力。即死じゃない限り時間を巻き戻されて逆に攻撃に転じられてしまう。


 「不意打ちとは卑怯だぞ?だがそれよりも夢で見たシガレットの技じゃないか!貴様どうやって使った!教えろ!今すぐに!」


 叫びながら攻撃に出るウロボロスは瓦礫に倒れるコナミに向かって地面が吹き飛ぶほどの威力を持った拳を放つ。が、瞬間移動の能力でウロボロスの背後に回り込んでいた。


 「天地破断斬」


 高速で身体を縦方向に振りながら撃つ剣撃はウロボロスの攻撃に負けず劣らずの威力を放ちウロボロスの頭を狙う。だがそれを読んでか既にウロボロスは背後に回り込んでいる。


 「私とは原理は違うが似た様な神命だなコナミ。だがそれで私を倒せると思うなよ」

 「そうだな。俺だけならな」


 ハッと気が付いた時にはウロボロスの背後には剣を突き立てたイヴがそこにいた。この配置なら挟む形でウロボロスを討てる。


 「明鏡止水・霊障」


 壊された霊剣の数だけイヴの身体に霊剣が纏う。霊剣は特殊な剣で、壊れて尚その剣は悪霊となったかの様に復活する。この技は全てのマナを消費する為イヴにとっても決着の時に使う事が多い。


 つまりこれが失敗したら負け――――


 「雷光抜―――ちっ、ここまでか」


 マナが急激に落ちて行く感覚。あ、これは、10分経った?シャックスの魂は急激に押し込まれる様に消えて行き、コナミの魂が引き戻される。


 意識はあったが突然のクライマックスシーンから始めさせられた。折れた傷だらけの左腕が痛むがそんな事を考えている暇はない。


 「雷光抜刀撃!!!」


 少しだけでいい。こっちにヘイトを向け。こっちを見ろ!こっちを見ろ!!!


 「こっちを見ろぉぉウロボロス!!!!」

 「邪魔をするな小僧ぉぉぉ!!!」

 「っつあああああああ!!!」


 3人は雄叫びをあげて全身全霊の攻撃を繰り出した。大爆発に近い程の音と衝撃で、コナミの鼓膜は破れ、剣を持った右腕は千切れ吹き飛んでいく。雷光抜刀撃が上手く決まった感覚は無いが少しでもイヴの役に立てたのならそれでいい。


 砂煙が酷い。前が見えない。血が止まらず視界も悪い。

 少しずつだが影と共にその様子が見えてきたが、それは余りにも衝撃的な結末だった。


 ――――イヴの胸にウロボロスの腕が貫いていた。

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