45. 英雄の終わり
鎧ごと貫いたウロボロスの左腕は確実に心臓を潰され、身体はがくりと倒れ込んでしまっている。だがウロボロスも上右半身はほぼ破壊されてしまっていた。
「イ……イヴ……そんな……」
「ハーッ……ハーッ……今時間を戻せば私の傷も戻る……。だがこの女も生き返ってしまう……。あああ……血が…血が足りない…ヴォエ!」
相当なダメージを受けたのかウロボロスもボチャボチャと血を落とす。今なら殺せるかもしれないが右腕が無く左腕が折れている。それでもまだ【英雄】の能力は切れてはいない。
「ウロボロス……時間を戻せ……お前も死ぬぞ……」
「フーッ……フーッ……そうはいきませんね……この女は危険過ぎる……今ここで殺さないと……!!」
「今すぐにはぁ……はぁ…時間を戻せ……」
コナミは既に立っているのが精一杯だった。だが目の前に血だらけのイヴがいる以上、もうウロボロスに時間を戻せと強要する以外に方法が見当たらなかった。
「トドメを刺せ……」
イヴは意識が戻り小さく消えかけた声で話す。その声を聞いてしまった。もう死んでいたと思っていた。そう思ったコナミは自分でも信じられない行動に出ていた。
土下座だった。
「時間を戻してください。お願いします」
「何をしてる……コナミ……」
視界が眩みながら頭を擦り付けて必死でお願いしていた。強く叩きつけた額からは血が流れ落ちる。
「ホホ……ホホホ……滑稽だ……今なら私を討てるというのに……フ、フホホ……その姿に免じて、戻して差し上げましょう……次は、こうはいかないぞコナミ……!!」
恐らく元のコナミでも討てる程にウロボロスの身体も限界に近かったのだろう。死の瀬戸際で放った【次元時空】の神命により時間が逆行していく。感覚としてはビデオを逆再生しているような。
強く身体が引っ張られ右手が再生されて傷も治ったが街は破壊を尽くされたままで、時間としてはコナミが二人の戦闘に割り込んだ辺りからの様だ。しかしウロボロスは姿を消し去っていた。
「貴様!なぜ討たなかった!あの状況なら奴を討てただろう!!」
イヴはコナミの胸倉を掴みかかり怒鳴り声をあげる。鎧は壊れかけているが胸の部分に穴が開いていない。
「イヴを死なせたくなかったんだ……ごめん、イヴ、ごめん」
コナミはイヴを抱きしめて泣いた。どんな時も傍にいて誰よりも信頼していてどんな冒険だってみんなで旅をした仲間。どうしても死なせたくはなかった。
「ちょ……コナミ……。はぁ、仕方のない奴だな」
初めは動揺したイヴも諦めたのかコナミを撫でた。
「レイテやメサイアが話していた通り、コナミはいつの間にか旅の中で成長していたのだな。私も昔は旅をして多くの修練を積んだ。コナミの旅はきっとこれから大きなものを学ぶだろう。だから振り返るな。前だけを見て進んでいけ」
認めて貰った事とその言葉はコナミに深く刺さった。だが実際はシャックスに身体を乗っ取られていたからあれだけの実力が出せただけだ。あれが普段の実力であればウロボロスを倒せていたと考えてしまう。まだ、まだ実力が足りない。
「コナミっち!」「コナミさん!」
ナギアとアイリが駆け寄ってきた。
「大丈夫デスか?先程様子が変でしたが」
「ああ、ごめんごめん。ナギアの方大丈夫だったか?」
「うん。ジークは先に行っちゃった。コナミっちありがとね」
どうやら炎獄抜刀撃を直接受けたジークは呼吸困難で死んでしまった様だ。ジークの魂はいつの間にか回収されたのだろうか。
「ウロボロスはどうなったの?アーシもさっき変な感覚があったから急いで来てみたんだけど」
「わからん。一応明鏡止水・真円を使い続けているが周りに反応はない。それよりも街の人の救護を最優先に立ち回れ。命を一つでも救ってくれ」
イヴの命令でナギアとアイリは急いで街の中央付近へ走って行った。その後ろ姿を見てイヴはついに座り込んでしまった。どうやら疲労が限界に来たようだ。
「雷光抜刀撃だがどこで覚えた?」
「あ、いや、伝記を読んだ時に見てなんとなく―……」
嘘を付ききれず目が泳ぐコナミにイヴは鼻で笑った。
「嘘が下手だが今回の戦いでコナミの正義はよくわかったつもりだ。それにコナミが放った雷光抜刀撃だが、かつての【英雄】の背中を私は見たよ」
昔を思い返しているのか瓦礫の山に腰を下ろしたまま、イヴは遠い空を眺めて話す。
「私はお前を信じるよ、コナミ」
「イヴ、ありがとう……」
少し気が抜けた瞬間【英雄】の能力が解けた。
その瞬間コナミの心臓はドクンと鼓動を鳴らしておびただしい量の血を吐いた。肺が苦しく息が続かない。ガクガクと足が震え膝が付いたまま身体中の震えが止まらない。
「どうしたコナミ!しっかりしろ!」
意識が遠のいていく。連れ去られるかのように。
イヴの顔がどんどんと霞んでいくように感じる。
「コナミぃ!!!」
ああ、これは死ぬかもしれない。
チャンネルが消えるかのようにコナミの意識は途絶えて消えた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
『コホン。神の能力を連続で行使した事が原因かもしれない。【英雄】の能力と魂を使い過ぎた結果、魂に亀裂が走る。そんな所だね』
『モルフェウスはよく観察しているね、偉い偉い。シャックスと入れ替わった時に酷使しすぎたのが原因かな。まだ分からないけど』
ウラノスとモルフェウスの話している。急に血を吐いたりした原因を探っているのだろうか。
『おいゴラァ!そろそろ起きろ!!』
目を開くと神様のウラノス、モルフェウス、デストレイズが目の前に集結していた。コナミの身体は全く動く気配も無くそもそも身体という物があるのか、目を開いたという感覚もおぼろげになってきている。
「コナミ君。よく聞くんだ。君の魂は剝がれ落ちて私が回収したはいいが今こちらの世界に置いてある。自分の形をよく思い出して。自分という魂を形成しないと君は消えてしまう」
「弱ェこいつが悪いんだろうがよォ!」
「やめないかデストレイズ。まずは自分の身体をよく見て欲しい」
そういってウラノスは鏡のようなものを作り出し目の前に見せてきた。そこに映っていたのは紛れもなくドロドロした"何か"だった。これが俺の魂……?
「我々が与えた能力は君の魂に紐付けされている。能力を使えば使う程魂は擦り減り、君は正常な状態では居られなくなる。君は一度ここで修業を積み魂を強める必要が出た。今のままでは君はウロボロスに勝てない。何としてでも強くなりディバインズオーダーへ帰るんだ。いいね?」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。あれからどうなったのだろうか。
どの道今のままではディバインズオーダーにすら帰る事が出来ず神界で魂を強めるしかない。
ごめん、アイリ。また会おう。
そして、コナミはこの旅の幕を下りた。




