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41. 嘘と本当と嘘

 ホテルマンに化けていたのは間違いなく魔道具を使って化けたウロボロスだ。そうなるとナギアがジークに話す前に始末される可能性は十分に高い。しかし城前には門兵が立っており持っていた槍を構えた。


 「貴様らそこで止まれ!大三元の許可無しではここは通れない事は知っているだろう!」

 「今はそれどころじゃないんだ!グリフォさん開けてくれ!」

 「落ち着け!何があったというんだ」


 門兵も緊迫した様子から状況を理解したのか話を聞く姿勢を取ってくれた。だが何て説明すればいいのだろうか。闇の使者が出た?大三元が殺されるかもしれない?そんな話をここで話して本当に信じて貰えるだろうか。


 「ナギアさんはここに戻られたデスか?」

 「いや、戻ってはないぞ。ナギア様に何かあったのか?」

 「あの……そういう訳ではないデスが……」


 アイリも回答に困っている様子だったがそれも仕方ない話だ。それより気になったのは戻ってきてないというのは何故だろうか。まさかここに来るまでの道中でウロボロスに討たれた可能性も……。


 「何事だ!」


 大きな声をあげて門から顔を見せたのはジークフリートだった。


 「コナミ、アイリ。そして、君は?」

 「この街に住むストゥープと申します。此度はジーク様にお話がございましてコナミ様とご一緒させて頂きました」


 門兵は住民のリストが書かれた紙を出してストゥープという名を確認した。イヴは化ける前に相手の素性は確認していた様ですらすらと答えていく。


 「ストゥープという人物、確認取れました」

 「そうか。コナミの顔を見るに急用らしいな。中で話そう」


 ジークはマントをバサッと振るうと大三元の会議室へと案内した。兵士たちが異常な程ざわつく城内の中、早歩きで進むジークに3人の足取りも早くなる。


 「ジーク、こっちでも何かあったのか?」

 「ああ。とにかく中で話そう」


 緊張が走る中コナミ達は会議室へ到着し、ジークは中央の席へ着いた。グリフォはシュコーシュコーと息を荒げながら隣に立っている。


 「実はナギアが行方不明なっていてな。それも君たちの所に向かった後の事だ。君たちが泊まっている宿の主人にはナギアが部屋に入って行ったのを見たと聞いている。何があった。そして、ナギアに何をした」


 凍り付くような視線でジークはこちらを見たがその眼は確実に疑いの目を向けていた。


 「実はその……この街に闇の使者が現れた事を知ったんだ。それで……」

 「どうやって」


 まばたきひとつしないジークはこちらを睨みつけている。


 「夢で見て、その、夢に出てきた闇の使者がこの街で見かけて……」

 「それとナギアのどこに関係がある」

 「その事をナギアさんに相談したのデス。協力してくれる形でジークさんに話してくれるように取り計らってくれたデスよ」


 冷徹な目に臆する事なくアイリはジークに説明した。


 「私は店の若女将をしています。その際に昨夜闇の使者についての話題を話されている事を聞いてしまったのです。恐ろしくなった私はコナミ様にその話を聞いた所、この街に闇の使者が現れたと聞きジーク様にご相談をと参上した次第にございます」


 ストゥープはどうやら宿の若女将をしているらしく、イヴはここまで話を付ける為に上手な人選をしたらしい。


 「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」


 黙っていたジークは突然笑い出した。


 「違うな。君たちは大きな嘘を付いている」

 「一体何を……!」


 平然を見せるストゥープにも冷や汗が流れ落ちるのが見えた。


 「まず夢の中の話等誰が信じる。その悪夢で見たそいつは闇の使者と名乗ったのか?そもそも僕はこの街にいる全ての人と話をしているし、グリフォはこの街の全てを空から監視できる魔道具を付けている。一体誰がそいつだと言うんだ言ってみろ!」


 名前と顔や細かい情報が記載されたリストをコナミに投げつけてきた。当然コナミやアイリの名前やいつ撮られたのか分からない写真まで載せられていた。


 「そもそもまず、ストゥープと名乗る君は一体誰だ?ストゥープはとてもイイ子だがとても内気でね。そんな話を聞いたらまず店の主人に相談し、ここまで来るとすれば店の主人の方だ。それに昨夜から友達の家で帰ってないと聞いていたがその辺はどうなんだ?」


 全てバレている。


 「待て、だったらナギアが俺たちの部屋に入った後出て行っただろ!グリフォの魔道具が監視しているならそれを見ていたはずだ!」

「残念ながら君たちの宿へ入った後、宿を出てすらいない」


「そんな馬鹿な!?俺たちは確かに見送った!」

「そんな記録は無いと言っているだろうが!!」


 机を力強く叩いた音が部屋中に響き渡り、コナミの胃が締め付けられる様に痛み出した。何が何だかわからない、吐きそうだ、なぜこんな事になっている。


 「それよりストゥープ。なんだその殺気は。まるで歴戦の戦士の様な目をしているぞ。君の正体を晒せ。今すぐにだ」


 ストゥープの身体なのに尋常ではない程の殺気が漏れ出している。今すぐにでも闇の使者を殺したいのに用意周到にしていたつもりの作戦もバレて、挙句の果てには詰め寄られてこのままではナギアが消えたのがこちらの仕業にされかけている。その事に苛立ちを隠しきれないイヴは今にも剣を振るいそうな様子だ。


 「待ってくれ、この人は悪い人じゃ…!」

 「もういいコナミ」


 ぶわっと風が起こるとイヴは変化を解き、白いマントと霊剣が鋭い音を鳴らしジークに剣を向けた。その剣先は確実に殺せる喉元まで突き立てていた。


 「お、お前は、まさか【霊剣】イヴ!?」

 「その通りだ」


 その瞬間グリフォは何処からともなく出した巨大ハンマーを取り出しイヴへ振った。イヴは霊剣は喉元そのままにもう一本の霊剣を左手に取り出してハンマーを受け止めた。霊剣は何本も存在し消耗品としてイヴは扱いたいと話し幾本も作らされた事があり、出たり消えたりそしていくら折れてもマナが尽きない限り不滅な事から幽霊の様な剣として霊剣と呼ばれている。


 「両者とも大人しくしろ。コナミ達の後を追いここまで来てみれば闇の使者ウロボロスがこの街にいるというではないか。その話を円滑に進める為に来てやったというのにどういう了見だ貴様。ナギアの話もコナミの話も本当だ。それを踏まえた上で話を進めろ。その気があるならば首を動かせ」


 強情過ぎる身勝手な話の進め方ではあるが力技で進めるしかない状況だった。ジークは首を縦に動かし、グリフォに手で指示をすると魔道具で出来たハンマーを小さくしてポケットに収納した。


 「わかった。そのウロボロスとかいう闇の使者がこの街にいるというんだな?」

 「……ああ、その通りだ」


 ふーっと息を大きくついたジークは肘を付いた両手で顔を隠した。静寂した室内の中、部屋に付けられた魔道具の時計だけがカチカチと鳴り続ける。


 「ハッキリと言わせてもらう。僕にはどうにも出来ない」

 「な、何言ってるんだ。お前は大三元で尚且つ英雄なんだろ!?みんなで一緒にウロボロスを倒してナギアを助けに行くんだ」


 「いいや、僕は英雄なんかじゃない。全て嘘なんだ」

 「は!?どういう事だ!!」


 シガレットの最後を見たというのは嘘だと分かってはいたが、全てが嘘とは一体どういう事なのだろう。ジークは天井を仰ぎ、物老けるように目を閉じた。深呼吸をした後に重そうな口をゆっくりと開ける。


 「僕は魔導科学者であり魔導を作り出す事が出来る。グリフォは魔導で出来た魔導人形で僕の思いの通りに動かす事が可能。そしてシガレットによって滅ぼされたグロウヘッドの街跡の代わりにこの街を作り、グリフォを操りながら魔道武具を作成し、この世界へ広めた。僕はこの街で民衆が安心して暮らせるように自らを【英雄】と名乗る事にしたよ。このフィルスの大剣は本物だからこそ、その嘘はこの街でより強く深い信頼と安心を提供できた。決して愉悦を味わいたいが為ではない。」


 「そんな嘘を今までよくも突き通せてきたな貴様。おかげで今闇の使者が現れた時には何も出来ないというのか」


 「要塞共和国インペリアルを創設したメンバーにナギアがいた。とても強く、とても優しく、そして彼女は本当は闇の使者なのだ」


 ナギアが闇の使者――――!?

 コナミたちは目を合わせ、イヴは剣を下ろしてしまう程に驚きを隠せなかった。


 「ナギアさんが闇の使者なわけないデスよ!」

 「いいや、知っていた。というより闇の使者は優しい人間もいるのだと初めて理解した。そして信頼できるに至る力を身に付けていたから彼女をこの街を守ってもらう用心棒として扱う事に決めたのだ」


 あの槍を装備している以上相当の使い手であるのは間違いないが、ハーベスト同様武器を扱う事に長けてかつ神命も使える闇の使者なのだろう。敵にだけは絶対にしたくない相手だが、ナギアは人を傷つけるような闇の使者なのだろうかと言われると、実際会ってどうしてもそうは思えなかった。


 「貴様わかっているのか!闇の使者はシガレットを復活させてしまう鍵なのだぞ!」

 「わかっている!だが鍵とはなんだ!どうやって復活するんだ!あの優しいナギアがどうやって!」

 「それは……!」


 闇の使者についての情報が薄いイヴは、霊剣を持つ手は反論できない悔しさからか震える。もちろん闇の使者はシガレットと大きく関係があるのは本当だろう。言霊を集めすぎると神命の能力は徐々に強くなり、全てを集めたらシガレットへと繋がる手がかりを得て復活する儀式でも執り行うとでも言うのだろうか。ではナギアの様に普通に暮らしている闇の使者はどうなのだろう。


 「とにかくナギア無しでは闇の使者に勝てるはずがないんだ。僕の作る魔道具は中級冒険者レベルの物しか作成できない。そんな魔道具でナギア程の手練れと戦うなんて不可能だ」


 「そうなるとワタシたちだけで戦うという事デスか」


 「私は1人でも構わない」


 「そんな訳に行くか!でもアイツは途轍(とてつ)もなく強い。とにかく誰かの助けが必要だ」


 「コナミわかっている。だからもう呼んである」


 コンコンッ

 ドアの音が室内に鳴る。


 その瞬間背筋が凍る嫌な予感をコナミは覚えた。理由は全く分からないがそのドアを開けてはならないと直感で理解できる。


 「やっと来たか。紹介したい人がいるんだ」


 時間が流れが遅く見えているようだった。ジークはドアの方向にゆっくりと歩いているように見える。これは、俗に言う走馬灯にも近い景色だ。


 だが様々な事を考えすぎたコナミの身体はどうしても動く事が出来なかった。息切れがする。理由は不明なのに嫌な予感が抑えられなくて呼吸が荒い。


 ジークはドアノブを握ってガチャッと開く。

 その会議室の扉は歪んで見えた。

 悪意の塊と呼ぶに近しい存在がこの部屋に舞い降りたからだろう。

 "それ"は部屋の中に平然と乗り込んで来た。


 「紹介しよう。闇の使者のウロボロスだ」


 「こんにちは、コナミ。私との約束を破ったな?」

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