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40. 騙し合い

 「うわああああああああ!!!」

 「きゃあ!ビックリしたデスよホントに。コナミさん、またウロボロスの夢でも見たデスか?」

 「ああ、まぁそんな所だ。あれ?アイリお前……」


 先に起きたアイリは珍しく"おめかし"をしていた。昨日ナギアとプールの後一緒に買い物をしていた物を早速着ているのか、ピンク色のワンピースに三つ編みおさげと可愛らしい格好をしていた。


 「どどど……どうデスか?」

 「すごく可愛いよ」

 「へ……へへへ……さ、先に行ってるデスよ」


 分かりやすく嬉しそうにニヤけながら顔を赤らめるアイリはそのまま部屋を出て行った。


 「…………スーッ……ハー………」


 コナミは深く息を吸ってゆっくりと深呼吸した。身体の震えが以前よりも落ち着いている。死という感覚に慣れてしまったからなのだろうか。ユルシュピ戦でもアルマに何度殺されたのか分からない。死というものへの恐怖は無くなる事は決してないが、どうやら生きる事の諦めは付くようになってしまった様だ。これはあまり喜ばしい成長とは言えない。


 そういえばアイリは可愛らしい格好をして先に行ってると言っていたが、一体誰と会うと言うのだろうか。まさか知らぬ間に男が出来たのか。いやいやいや、そんな訳はない、が、アイリも相当の美人。あと数年経てば立派な……。


 「あっ……」


 そう考えている内に悪夢のせいで忘れていた昨日の晩の事を思い出した。昨夜イヴに会い、そして今日はナギアに相談し、ジークとグリフォにも相談。


 『私にこれ以上干渉した場合は現実世界でお前を殺してやる』


 死の間際に放たれたウロボロスの言葉が脳裏に浮かんだ。相談するのは下手すれば全員の死を意味するかもしれない。


 「コナミさ~ん。まーだデースかー」


 熟考(じゅっこう)していたコナミを待ちきれなくなったかアイリは部屋まで様子を見に来た。ナギアへの相談は望む所だが昨夜のイヴとの相談も聞かれていた以上、アイリへの危険がどう足掻いても付き纏ってしまう。それに大三元が闇の使者でないという保証は何所にも無い。


 「おはろ~ん!ナギアだよ!ぴろちーっす!」

 「ナギアっ、お前!その格好は!」


 突然室内に入ってきたナギアの姿は正しくJKギャルそのもの。見紛う事なきセーラー服。そして短めのスカート。何よりも下の方にだらしなく塊を見せるルーズソックス。嗚呼、素晴らしき青春の日々よ。リアルで青春など存在し無かった俺に今になって舞い戻ってきてくれるのですね。感謝。圧倒的感謝。


 「これ昔ファッションコンテストで優勝した衣装らしいんだ~!バリ可愛くない?」

 「ああーーー!そうか!そういう事か!」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 「「ファッションコンテスト!?」」


 「そうだ!冒険都市ビルダーズインで開催されるファッションコンテストがあるんだが優勝賞金は何と3000万ベリガルドらしいぜ!」


 フィルスは金額に興奮しながら話しているが3000万ベリガルドとはディバインズオーダーで生きてく上で1人くらいなら一生涯分を贅沢しながら暮らせるレベルの金額だ。


 「でもファッションなんて僕たちが今まで着た物なんて戦闘に特化した装備ばかりですよ」

 「この格好で……出るつもり……なの?」

 「俺たちの装備は誰にも負けるつもりないがオシャレかって言われるとな。ファッションなんてものよくわからないぞ。シガレット、何かイイ策はないか」


 シガレットは口元に手を当てて悩んだ。そもそも中身のコナミが引きニートで毎日同じ上下のジャージ。男のファッションなんか謎の英語が羅列した中学生が気に入るデザインしか知らなかった。そうなると女性物のファッション、と言ってもそんな物知るはずもない。


 そこでセーラー服を紙に描いたシガレットはメンバー全員に見せてみた。


 「んんん……じゃあこれなんてどうだ?メサイアが着るなら何とかなる」

 「え……私が着るの……?」

 「ほうほう!シガレットが言うならそれで行こう!3000万ベリガルドの為だ。メサイア、頑張ろうな!」

 「ええー……」


 デザインを描いた物を服屋に作ってもらい、それをメサイアに着せる事となった。試着を嫌がってはいたが押しに負けて試着したメサイアはそれはもう最高だ。


 「は……恥ずかし……い」


 ボサ髪を綺麗に解いて先をくるんと巻いた髪に、セーラー服に短いスカート、そして何よりもダボダボにしたルーズソックス。趣味です性癖です完璧です。あのメサイアがギャル風になっているのにも関わらずこの照れ振り。最高です。


 「なんですかこの見ているだけで回復する感覚は。メサイアは女神だったんですね」

 「これは優勝だ!優勝じゃなかったら審査員の目は狂ってるぜ!」


 当然ファッションコンテストで優勝した。多くの人は格好いい鎧装備や冒険者等の装備を見せつけに来ていたが、そこで意表を付いたセーラー服。男性票と女性票も多く獲得出来たのだった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 「あのファッションコンテスト、シガレットのパーティーが優勝してたから今ではあんまし人気無いけどアーシは超好き!防御力0だけどマジ神デザっしょ!」


 「だよな!最強!セーラー服最強!」


 2人でキャッキャしてる中を呆れた顔でアイリは見ていた。


 「それで~話があるって何?」

 「あのデスね――――」

 「ああ!言っとくけどアイリの衣装も超可愛いからな!」


 アイリが話を始めそうになった瞬間、ウロボロスに聞かれている事を危惧(きぐ)したコナミは慌てて止めに入った。急いで室内にあったペンと紙に文字を書いてそれを見せる。


 【会話は闇の使者ウロボロスに聞かれている可能性がある。何気ない話をしながらこれを読んでいってほしい】


 二人とも小さく頷いて納得した。コナミはそれを見てそのまま書いていく。


 「何を言ってるデスか!さっきまでナギアさんにデレデレだったくせに」


 【見た目は黒マント白スーツ蝶ネクタイ白の長髪。ウロボロスはこの街にいる。多分狙われているのは大三元。俺も顔がバレている。頼れる人がナギアしかいない】


 ナギアは殺気を抑えながら笑顔を作って話をするが引きつるのが分かる。話の中にイヴについては敢えて隠しておいたのは、ナギアもしくは大三元全員が闇の使者だった場合、隠し玉のイヴを討たれてしまってはこちらに手はもう無くなるからだ。ナギアはコナミからペンを取り書き始めた。


 「そりゃセーラー服最強だからな!でもそれはそれ!」

 「うわ、サイテーデス」


 【協力は惜しまない。グリフォがこの街監視してるからワンチャン居場所がわかるかも。危険だから2人はここにいてお願い】


 「コナミくんサイテー。そんな奴だと思わなかったし~。アーシに話あるって言ってたけどサイテーな奴の話なんか聞かねっての~バイバーイ」


 上手に一人になる理由を作ってナギアは部屋を出て行った。グリフォに居場所の確認を行ったはずだが大三元が闇の使者だった場合これは後手に回る悪手でもある。


 「俺たちも出かけよっか」

 「そうデスね。せっかくのバカンスデスからね!」


 アイリとコナミは廊下に出るとホテルマンのような男が立っていた。


 「ルームサービスです。お部屋のお掃除を致します」


 そう言うと男は紙を1枚見せてきた。


 【イヴだ。ナギアには説明したのか?】


 コナミはその問いに対して小さく頷いた。イヴもウロボロスに声が聞かれている可能性に対して感づいていたらしい。この勘の良さは元勇者のパーティーであり【霊剣】と呼ばれるだけはある。男に扮したイヴはじっとこちらを見つめニコリと笑うと軽く会釈をした。


 「あ、ルームサービスね。じゃあお願いします」

 「かしこまりました。いってらっしゃいませ」



――――――――――――――――――



 要塞共和国インペリアルの街はディバインズオーダーで経験したどの街よりも発展していた。


 産業も発達しており、武器については派手なエフェクトが施された物や、魔法剣にも近いがマナを使用せずに回数制限がある【魔道具】が数多くあった。レイテが作ったとされる神聖の首飾りやイヴが持っていた水鏡の杖も同じ魔道具であるが、一流の魔法使いでないと魔道具を作り出す事は難しいとされている。


 「こんな武器があるなんて。これじゃ誰でも中級モンスターくらいなら簡単に倒せそうだ」

 「コナミさんマナを使えませんし魔道具の剣とか買ってもいいんじゃないデス?」

 「確かに。だが値段がそこそこするな……」


 魔道具の剣には紅蓮と同等のレベルの物が置いてあったり、他にも多数の品揃えやバラエティーが豊富だった。イヴが使っていた身体を変えられる水鏡の杖のような物や、透視出来たり空を飛べたり、あるいは通信機器のような魔導具もあった。


 「便利な物が多いデスね~。迷っちゃうデスよ」

 「おおお……まじすげぇな。お?」


 魔導武器や魔導具が並ぶ中一際惹かれる物があった。


 それは赤いグローブに星型の魔道具が付いた物だったが、どうやら体内にあるマナを使用せず魔道具が代わりに使用してくれるらしい。更には自動充電式のようになっており回数制限はかかることは無いが、許容量は決まっているので魔法の連発やメサイア級の魔法は使用出来なさそうだ。


 「これならワタシも魔法が使えそうデス!」

 「いやお前は魔法が下手なだけだろ」


 ムムムッと怒るアイリを無視してそれを2つ購入した。通常マナは鍛えれば誰でも強くなれる為、需要自体は薄いようで他よりも安価だった。


 「魔道具って凄いデスね」

 「そうでしょうお嬢さん。魔道具ってすごいでしょ?」


 小太りな店の店主は自分が作ったかのような自慢げな顔をして話しかけてきた。


 「これらは大三元の【魔導】のグリフォ様が作られているんですよ。こちらの魔道具なんて装備しているだけで全身をバリアで覆えますし、この魔道具の剣は一振りでオークを10体は倒せる程の魔導が装備されていますよ」


 グリフォと言えばジークから【魔導】と呼ばれていたあのガスマスクの怪しい大男。魔導と言えばメサイア級の魔法の使い手な上に、マナを魔道具としてここまで数多くの組み合わせが出来るなんて今まで考えられなかった。


 「これじゃあコツコツ強くなるのがバカらしくなるな」

 「その通りです!この街は戦闘経験が無い方でも簡単に強くなれるのです。コツコツ強くなるなんて古い古い。今後は魔道具が次世代を担うでしょう」


 少し悔しい気持ちもあるが、この魔道具は今後流行る事は間違いないだろう。

 だがどれだけ進歩してもメサイア級の魔法は出せないし、レイテの様な超回復は本人が作ったものでないと出せないし、フィルスの一撃を超える剣撃を出す事もないだろう。あくまで"今は"というだけの話になるかもしれないが。


 そういえば広場でも広告も兼ねてなのか魔導を使ったパフォーマンスが行われていた。指先ひとつずつから小さな炎を出しそれを上空に打ち上げると花火に切り替わったり、風を手の中に集束させてかまいたちの様な鋭い風を起こしたりと魔道具の実用性が伝わる。


 「どうデスかこれ。ついにワタシも魔法が出来たデス」


 ふふんと鼻高々に見せてくれたのは指先から火を出すライターみたいな程度の魔法だった。マナを外で放出するのが苦手だったアイリは星型のグローブ状の魔導具のおかげでついに魔法を出せたが、これは幼児でも出来るレベルの超低級魔法だ。


 「オースゴイスゴイ」

 「ついに故障しちゃったデスかこのポンコツコナミさんは」


 他に魔道具をいくつか購入して財布が寂しくなった所で店を後にした。つい買い物を多くしてしまったが新しいアイテムとなると胸も躍る。背後からコナミの肩を強く掴んだのはどこにでもいそうな若い女だった。


 「え、誰、ですか?」


 女がコナミの肩を握る手は尋常でない程に強く締まる。ただの女ではない。


 「いででで……誰だお前…!」

 「……イヴだ。お前達いつまで遊んでいるつもりなんだ」

 「なんで?ダメなのか?」


 頭をポリポリと掻いて苛立ちを見せるイヴは聞く。


 「お前達昨晩ナギアに説明しに行くと話していたではないか。朝から宿に行ったが不在と聞くし、街で見かけたらただ買い物してるだけ。闇の使者が近くにいるのになんて能天気な奴らなんだ」


 「は?おいおいおい待ってくれ。宿のドア前でイヴとはさっき会ったじゃないか。ほらホテルマンに化けてたやつが紙でイヴだって書いて……くれた……」


 少しずつ状況が把握出来た3人は顔がサーッと顔が青ざめていく。


 この様子を見てホテルマンに化けていたのはイヴではないのは確実だ。化けるだけならここの魔道具の店でも買う事が出来る。そうなると、あれは、ウロボロスの可能性が……。ウロボロスにこれ以上関わったら殺すと言われたのにバレた。やばいやばいやばいやばい。殺される殺される殺される殺される殺される殺される。


 「コナミさん!!!!」


 大きな声をあげたアイリにコナミは我に返った。

 気が付けば冷や汗がダラダラと流れ落ち、呼吸すらも上手に出来ていなかった。


 「ハーハーッ……あ……ああ。わかってるよ」

 「ナギアさんが危ないデス!」

 「行こう。もう猶予はない。ウロボロスは私が殺す」


 3人は急いで城へ向かった。深く淀み切った闇はもうそこまで近付いている。

 ゆっくり、ゆっくりとだが確実に着実に、足元まで。

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