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36. 一撃

 暗い宮殿内に差し込む月の光を背にそいつは立っていた。

 金色の髪に宝石の様に透明で澄んだ綺麗な蒼い目、無駄に大きめな青いマントがバサッと音を立てる。


 「アイリ、起きたのか」


 「あれだけギャーギャー五月蠅かったら誰でも起きるデス。それにほんのちょっとだけ怖い夢見てたデスからちょうど良かったデスよ」


 もしかしてアルマが戦闘中ずっと叫んでいたのはアイリを起こすためなのか。身体だけが身動きが取れなくて意識だけが残っている可能性もあるのかもしれない。


 「状況は最悪だ。俺がアルマを止める。お前はあそこにいるシスター、いや、闇の使者ユルシュピを倒してくれ」


 「ホントに大丈夫デス?コナミさん、傷は特にないデスが服がズタボロなんデスよ?」


 「レイテが治してくれたからな。今んとこは問題ない。あいつは支配の力を持つけど他に支配されてる奴に触れても支配されちまう。だけど何故か俺には通じないみたいなんだ。だからアルマを俺が抑えてる間に、ユルシュピには触れずに杖で一撃で殴り倒してくれ。無茶言ってるのはわかってるけど色々時間がないんだ頼む」


 「ホントに言ってる事めちゃくちゃなんデスが……。ま、それしかないようデスし仕方ないデス。付き合ってあげますよコナミさん」


 ハァ~と溜息をついてはいるが闇の使者というワードにアイリの目は殺意を向けている。


 【英雄】の能力解放中は立っているだけで体力がドンドンと削られていく。簡単に言うなら常に全力での力が入りっぱなしの状態だ。さっきまではレイテが回復してくれていたからギリギリを保っていたが長期戦は難しい。


 「いったいな~……、何よこの馬鹿力は。ってあれ、あんた階段で見かけた弱ってた子よね。名前はなぁにお嬢さん」


 「アイリッシュ・ステルスヴァインという名前デスよ。どうやらワタシの事は聞いてなかった様デスね」


 「そうね。操り人形にした民からあんた達の声はよく聞かせてもらったけどアイリッシュ、あんたの話は特になかったわよ、ぷはは!初めまして、私は闇の使者ユルシュピ。あなたパワーもなかなかの物だし、いいわ。私のペットにしてあげる!!」


 ユルシュピとアイリの戦闘が始まりそうな最中、先程とは打って変わって叫び声等一切出さず、アルマは静かにこちらを見て拳を構える。アルマは一切の迷いが無いせいなのか今までよりも凄まじい殺気を感じる。


 「まだ付き合い自体は短いけどさ、アルマとはこれからも一緒に旅したい仲間だから。アイリの戦いが終わるまで俺と遊んでくれよ」


 自分ではカッコいいと思っているセリフを吐いてはみたが、アルマの様子を見るに何も通じている気配はない。心臓も痛いし冷や汗がじんわりと出てくる。熊やサメを目の前に対峙にして人が冷静でいられるだろうか。答えは否だ。


 ゴクリと唾を飲み込んだ瞬間を狙ったのかアルマが突っ込んで来た。


 ボッッッ!!!!


 風を斬る音と共にコナミに右腕が襲い掛かるが腹をかすめただけで避けた。だが出血が止まらず血のしぶきをあげたまま身体を捻らせて次の攻撃に備える。


 コナミは能力で向上させた動体視力で攻撃がどのタイミングで攻撃してくるのかの予測線が見えていた。しかしアルマの攻撃が速すぎるが故なのか、予測線は手足4本のはずなのに20本以上に達している。まるで暴風雨のように攻撃が繰り出されるがコナミはギリギリで交わし続けた。


 避け続けるのはいいが実際はロデオマシンに乗ったまま身体を振り回されている感覚だ。頭痛や眩暈、吐き気も出てくるし、身体の節々に既に激痛が走り出している。それに避けていると言っても実際は避けれてはいないのだ。


 爪の先や風圧による切り傷が一撃一撃確実に当てられてまるでコナミの身体からシャワーのように血が飛び散っていく。回復も出来ない以上無理な反撃も出来ないし長くは持たない事は自覚していた。


 「ぷはっ。何をよそ見しているの?あなたは触れるだけで終わりなのに」

 「うるさいデスね」


 ユルシュピは十字架の剣を振り上げたが、アイリがぶんっと振った杖とぶつかって弾き飛ばされてしまう。圧倒的な力の差にユルシュピの顔に焦りが見え始めた。


 「アナタから色々聞きたい事が山積みでどれから話していいのか考えてただけデスよ。でもコナミさんの様子からどうやらホントに時間も無さそうデスし終わりにするデス」


 前にアイリにシガレットを話した時に向けたような冷徹な目。ユルシュピから取り上げた十字架の剣を拾い上げると十字架の剣は光を纏い輝き始めた。


キィィィィイイイイイン!!!!!


聖属性のマナを集め続けると中央教会(セントラル)は揺れ始めて建物が倒壊しそうになっている。

ハーベスト戦で見せたフィルスの大技【秘剣・聖光斬】の破壊力は闇の使者に通じるがあれを使った後アイリは血反吐を吐いて倒れ込んだ。


 「やめろアイリ!!その技を使っちゃダメだ!!」

 「何を言ってるんデスか!一撃でって言ったのはコナミさんデス!」

 「杖で殴り倒せって言ったんだ!!それはダメだ!!」

 「だからそれじゃカッコよくキメられないじゃないデスか!」

 「それでも――――――――」


 「はい。おしまい」


 剣を持つアイリの手を握るようにユルシュピは既に触れていた。

 声を掛けたその隙を突かれてしまったのか。俺のせいでアイリも洗脳されてしまった。


 「アイリ!!今そっちに!!!」

 「秘剣・聖光斬」


 教会都市ジンライムの全ては光に包まれる。


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!


 この距離なのに音が遅れてやってくる程の凄まじい破壊力は教会は半壊していく。ハーベスト戦では超強力な盾で防がれていたせいで破壊力が見られなかったのだろうが、これがフィルスが得意としていた技の本来の威力。


 その音が徐々に消えていった時、教会内はこれだけの人数がいるのに辺りはシンと静まり返っていた。ジンライムの大量の民、レイテ、立ったまま気絶するアルマ、そして……。


 アイリの持つ剣の光がシュンシュンと消えていくとそのままバタリと倒れた。


 「ガッ…あっ…ゴボッ」


 血を吐きながらガタガタと身体を震わせている。またアイリに助けられてしまった。無理をさせてしまった。アイリを抱き抱えてコナミは静かに涙を流した。崩壊した瓦礫の近くから咳き込みながらまだ息があるユルシュピがそこに見える。


 「なん……で……この子にも……【支配】が効かないの……。私が、弱いから……?言霊が足りないせい……?こんなにも……こんなにも頑張ってきたのに……」


 あの攻撃から咄嗟に飛びのいたが想像を遥かに上を行く攻撃だったからなのだろうが、ユルシュピの身体下半分は無くなった状態だった。ああなってはハーベストの様に身体を変化させて復活するなんていう事も恐らくないだろう。


 「ああ…コナミ……私たち闇の使者は……どうして生まれたの……?シガレットを復活させる為……?あんな悪魔みたいな奴の為に……?ジンライムの人の記憶を見たわ……。人を殺して回ってる化け物染みた姿……。アレと同じだなんて……マジありえない……。私は、全ての人間を支配して……同じ思考を持たせる事で……争いの無い……世の中を作る……」


 「それはお前の勝手だろ。それに人間はユルシュピが思ってる程弱くない」


 「ぷ……ぷはは……人間でも無いお前に何がわかる……。私は分かろうとしたんだ……人間という物を……。けどどの記憶を見ても……血と炎と死体……悲しみを背負っていた……。縋ってないと生きていけない人間ばかりだった……。殺したってよかった……。けどフリューゲルとしての仕事は……ずっと続けていたのに……この街は……醜い争いのない世界だった……どうして壊したの……」


 血を吐き出したユルシュピはヒューヒューと息が切れかけている。ズル剥けになった身体から肺が動いてはいるが穴が開いているのか空気が抜けているのがわかる。


 「私だって……闇の使者になりたくて生まれてきたわけじゃない……。コナミ……闇の使者って一体なに……ゴボッ」


 そう言い残すと大量の血を吐いてユルシュピは死んだ。ユルシュピの言う通り闇の使者とは一体何なのだろう。ハーベストやユルシュピのような人間らしい奴もいれば、ウロボロスのような悪魔的な非道の奴もいる。シガレットは復活して世界を滅ぼしたいのならハーベストも同様、なんでこんな人間らしい闇の使者作る必要があった。


 「シガレット……お前一体なにがしたいんだ!!!」


 コナミは吠えた。決してユルシュピが可哀想に思えたからセンチになった訳ではない。ただ、それでもこんな事があってたまるか。


 「う……ん?一体どうなりました……」


 瓦礫の中からレイテは這い出てくるとマナが尽きているせいかフラフラと千鳥足の状態でこちらに歩いてくる。


 「おはようレイテ。終わったよ」

 「ははは……さすがですね。お疲れ様でした、コナミくん」

 「レイテもお疲れ様」


 二人はトンッと拳を合わせてそのまま倒れ込んでしまった。

 身体から血が噴き出るのが身をもってわかる。もしかしたらこのまま目が覚めずに出血多量で死ぬかもしれない。レイテを信じて目が覚めるのを待つしかない。


 ああ、せめて今日の夢くらい良い夢であってくれ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 喉が枯れた。息もつまる。頭も痛い。

 広い砂漠を永遠と歩き続けている。

 ああ、死ぬんだ。ここで死ぬ。


 一体あれからどれだけ経ったのだろう。

 どれだけ歩いてきたのだろう。


 ああ、息が切れる。

 そのまま視界は眩み倒れ込んだ。

 すぐそこに行きますから。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 珍しく短い夢。そして悲しい夢。

 一体誰の夢なんだ?どうしてこんな夢を。

 元居た宿屋で目が覚めたコナミは窓の外を見た。


 ガヤガヤ…!


 意識が覚めたジンライムの民が集まり何やら外が騒がしい。中央教会をぶっ壊してフリューゲルも殺したと疑われてしまっているんだろうか。当然と言えば当然だがどう説明しようものか。


 「おお、目が覚めたデスか。なかなかしぶといデスねコナミさんは」

 「人をゴキブリの様に言うんじゃねぇ」


 ドアを開いたのはクスクス笑うアイリだった。だがフラフラとした足取りで杖を付きながら歩いている。


 「アイリ大丈夫か?その足は……」

 「平気デスよ。どうやらあの技はマナを大量に食うみたいでそのせいかと思うデス。マナ切れは身体に不調をきたしますからね」


 アイリはコナミの隣にギシッと座り、ンーッと伸びをした。


 「アイリ」

 「わかってるデスよ、コナミさんが話したいこと。もう隠し事は無しで行くデスよ。ちゃんと話しますから」


 笑顔ながらも暗い顔をするアイリをコナミは肩に撫で寄せた。普段なら様々な暴言を吐かれた挙句殴られている所だが少し様子が違う。


 「お前が何だってどんな事があったって、俺はお前の味方だ」

 「コナミさん……わかりました。でもワタシもよく分からない事が多いので説明が不十分になるかと思うデスが許してください」


 アイリは小さな口を開き始めた。


 真実というのは時に知る必要のない部分が多く含まれる。なぜならそこには大きな深い深淵があり、深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだから。


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