35. ユルシュピ
襲い掛かるアルマを止める為にはもう能力を解放するしかない。
「発動してくれよ!【英雄】!!!!」
沸き上がる力と高鳴る鼓動、そして身体を巡るマナは紅蓮剣に炎を纏わせる。アルマの攻撃を力任せに受け止めたが支配されているのか炎を一切恐れる様子はない。
「どうじゃどうじゃどうじゃ!カラト族の力は!それに仲間や民を斬る事等出来まいて!!なぁ自称英雄様!!」
アルマが話しているが実際にはユルシュピなのだろう。攻撃を鍔迫り合いで受けているが既に民の軍勢がゾンビの如くこちらに向かってきている。
「ジンライムの民は僕に任せてください」
そうレイテが言うと足元から凄まじい広範囲の魔法陣が現れ、コナミ以外の全ての人間は広範囲の重力魔法で動けない程度に押しつぶされた。それも場所を指定出来てコナミには当たらないようになっている。
「ガッ……身体が、重い……!!」
アルマは少し動きづらそうにしていたが変身後の身長が高いせいで、上から押しつぶそうとする力は鍔迫り合い状態にある余計にコナミを苦しめてしまった。
「ぐあ……おっも…!レイテ!アルマの重力を解いてくれ!俺まで……押しつぶされちまう……!!」
「あっ!すみません!今解きます!」
「ガアアアアアアアアア!!!!!」
解いた隙にアルマの回し蹴りが腹部を直撃し、鈍い音と共にいくつもの内臓が破裂するのを感じる。
「ぐぼあ!!!」
「ぷはははは!!軟弱者が!!」
口から死に直結する量の血が溢れ出し、意識が途切れ感覚が消えて行く。
「コナミくん!フルエウロン!!」
レイテが魔法を放つとコナミの身体は一瞬にして元に戻った。
そうだ。今はレイテがいる。どんな傷だって治してもらえる。
「レイテェェェ!!お前を先に殺してやる!!」
「雷光抜刀撃!!!!」
レイテに襲い掛かるアルマに稲妻の如き速度で体当たりをした。アルマはガハッと血を軽く吐いた程度だが、コナミの身体は投身自殺をした程に骨という骨がバラバラになった。
「ゴボッ……レイテ…ガフッ!!」
「フルエウロン!」
そして身体はまた元に戻ったが既にアルマが立ち上がりコナミの身体を切り裂いた。が、また元に戻る。次の攻撃を受け止めたいが首を跳ねられている為視点が定まらない。
「ガアアアアアアアアア!!!!」
ブシュッ!バシュッ!ぶちゃっ!!ぐちゃ。
痛い、苦しい、もう嫌だ、死にたい…!!!
永遠に死を感じる苦痛が寝て覚めても繰り返される。
「コナミくん!コナミくん!早く反撃を!!僕はもう君を殺したくない!!!」
「……んな事よぉグホッ……わかってんだよおおおお!!」
コナミはバッと宙に飛びあがるとそのまま体を捻って回転させた。剣の歯がアルマに当たらない様に峰の部分に持ち替える。
「風神乱流撃・炎舞!!」
その動きに対し顔を上げてアルマは顔面に自ら攻撃を受けるような姿勢と取った。このままでは顔が潰れてしまう事を恐れたコナミは攻撃を空振りしてしまう。
「ぷはははは!馬鹿だなお前!やっぱり馬鹿!仲間を傷つけられないよなぁ!!」
コナミはもう一度回し蹴りを食らい、教会内の椅子をなぎ倒して吹き飛ばされてしまう。レイテは広範囲重力魔法と超回復魔法を切り分けて連続して使い続けているせいか既に息切れをしかけている
「ユルシュピ!テメーいい加減にしろよ!卑怯者!」
「そんなに言うなら私を倒しに来なよ!ほらほらおいで!」
コナミはユルシュピに飛び掛かるがそれを防ぐようにアルマが立ちはだかる。仮にアルマを斬り殺してもフリューゲルのように死体のまま操られてしまうかもしれない。
それにユルシュピを斬り殺す前にアルマがレイテを殺す可能性もある。だがレイテも残された時間がない、それに【英雄】の能力解放は異常な程疲れが来るため長期戦で戦う事は不可能だ。
「どうしたのよ~。ほらほらジンライムの皆さんも少しずつ動けるようになってきてるよ」
重力で身動きを取れなくなっていた民たちは匍匐前進が可能な程動けるようになっていた。レイテは手足がガクガクと震え出していてもうマナが完全に枯渇していっている。
どうすればいい?どうすればいい?どうすればいい?どうすればいい!!
考えろ考えろ考えろ考えろ!!
「グギャアアアアアアアアア!!!」
そう考えている間もなくアルマが攻撃を仕掛けてくる。それに対処して剣を揮う事に精一杯で頭の中がまとまらない。
「終わりなんだよ。魔法都市で闇の使者の1人を討ったと聞いてたけどそいつは私以下だっただけ。弱いコナミと回復しか出来ない無能のレイテでは私に勝てるわけないんだ」
「ちが――――」
「違う!!!!!!」
先に大きな声を張り上げたのはレイテだった。
「コナミくんは……弱くない!それに僕は魔王を打倒したパーティメンバーの……【大司祭】レイテです!甘く見ないでください!!」
ギラギラした目をしたレイテは踏ん張りをきかせて言い放つ。だが実際は手足の震えが尋常ではない。
「コナミくん……!僕は君のお荷物なんかじゃない!僕の事はいい!早くユルシュピを討て!」
「でもレイテのマナはもう!」
「いいからやれええええええ!!!」
「フリューゲル……様?嘘です。そんな……。きゃああああああああああ!!!!」
宮殿入口に立っていたのは街で話しかけてきたお婆さんだった。レイテに押し潰されている身体と千切れた首が地面に転がっているのを見たお婆さんは悲鳴を上げる。
「あーあーあーあーうるさいなー。あれ?あのお婆さん洗脳されてない。良くないな~。,ま、あんなのもう要らないし殺しちゃおうか。殺れアルマ」
「逃げてください!!!ぐっ……!!」
「グガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
レイテがアルマに対して重力魔法を強めるが、問答無用でアルマは凄まじい怒声と共にお婆さんに攻撃を仕掛ける。コナミも雷光抜刀閃を構えるが既にアルマはお婆さんの射程に入っていた。
「フリューゲル様……フリューゲル様……」
間に合わない―――!!!
コナミがそう思った瞬間だった。
『私があげた能力を使う時だ。コナミくん』
ウラノスの声が脳内に語り掛けてくると急に時間の流れが静止したかの様に感じる。死の間際のフラッシュバック、脳内のアドレナリンが爆発的に上昇し空間把握能力が異常に長けるあの瞬間に近しい。
『目を閉じて、その場所に吸い込まれるイメージを持って。そうすれば君の願いは叶う』
既にアルマはお婆さんの頭を吹き飛ばそうと蹴りを放っている。
あのお婆さんの目の前、アルマの目の前!!
「飛べええええええええええ!!!!!!!!」
ガギィィィィィイイン!!!
アルマのお婆さんに向けた渾身の蹴りが魔法剣:紅蓮とぶつかり剣が砕け散る。何が起きたのか誰一人として状況を判断出来ないこの一瞬だった。コナミはぐるんと身体を回転させて左拳を握った。
「螺旋撃!!!!」
アルマの腹にねじ込むように命中しそのままユルシュピの立っている場所まで吹き飛ばした。当然アルマの鉄で出来ているような強靭な肉体を殴ったのだから、コナミの左手の指という指の骨は折れて肩も外れてだらりと落ちた。
たった一瞬。瞬きも許されない出来事だった。
コナミは空間を移動してお婆さんを守ったのだ。
「あなたはあの時の旅のお方!!ああ、何と言う事でしょう。ありがとうございます。ありがとうございます。ああ、神よ。このお方をお守りくださいませ」
一体何に祈っているのかお婆さんはフリューゲルの頭部を抱きしめたまま手を合わせている。
「コナミ、今何をしたあ!まさかその瞬間移動が神命なのか?やはりお前も闇の使者なんだな!ぷくく、ああ、そういう事か。【大司祭】レイテと一緒にいる事でシガレットの情報を引き出し、言霊を集めていたというわけだ。ぷはははは、傑作だ!ぷはははは!何も出来ず回復しか能がないレイテは最後の最後には闇の使者に利用されるってわけだ!ぷははははははははははははは!!」
「コナミくんが闇の使者?そんなわけないじゃないですか」
そう呟いたレイテは何を思ったのか重力魔法を解いてしまった。そしてコナミに対してフルエウロンを唱え全ての傷を癒す。
「レイテ……何を!」
レイテは手をだらりと下ろしてこちらを見て笑う。その顔は戦いに勝利した時によく見せていたレイテの安堵の笑顔だった。
「もうマナ切れでこれが最後の回復魔法です。僕は大口を叩いたくせにここまでのようです。それでもコナミくん、僕は君を信じていますよ。お婆さんを助けた君の姿は誰よりも"英雄"でした」
動けるようになったジンライムの全ての民はレイテに襲い掛かり、レイテは身体をユルシュピに支配されてしまった。洗脳されたレイテはガクガクと揺れ始めたが、マナ切れを起こしてしまったレイテは足に力が入らず、糸が切れた操り人形のようにベチャリと地面に伏せてしまう。
「そんな……レイテェェェェェエエエエエ!!!!」
「ぷははははははははははははは!滑稽だ、滑稽すぎる!ついにレイテを支配してやったぞ!あとはコナミ、お前殺してじっくりとレイテの記憶から言霊を集めさせてもらう。ああ、私はこの時をずっと待っていた。シガレットを超える存在として昇華出来るこの時をずっと。そして私はこの世界の全てを支配し、神をも超えてみせる!ぷはっ!ぷははははははははははははは!!」
もう勝利を確信したかのようにクルクルと回り出して喜びを嚙みしめている。奥まで吹き飛ばしたアルマはゆっくりと立ち上がりジンライム全てに届く勢いで叫び声をあげた。
「ガアアアアアアアアア!!!!!」
「ほんっとうるさいなぁお前。さっきから叫び過ぎなんだよ獣人。自動で戦闘出来るように潜在意識まで支配していないけどさすがにそろそろ全て支配しきった方がいいかな?もうコナミは回復出来ないんだから。ぷはっ♪」
ジンライムの民、そしてアルマ、ユルシュピまでもこちらにジリジリと近付いてくる。
「最後は私の十字架の剣で殺してあげる。みんなで押さえつけてる間に目をくり抜いて内臓を引きずり出して、最後はお前の脳を食らいつくしてやる。同じ闇の使者としてどんな風に死ぬのか教えてくれないか」
コナミは限界の状態の中、状況を整理した。
魔法剣は砕け散って反撃は出来ない。
アルマは大した怪我はしていない。
地面に伏せたレイテはもう動く事はない。
お婆さんはフリューゲルの頭部を抱きしめたまま絶望している。
ていうか心臓が、痛い。
空間を移動して逃げる?レイテを置き去りのまま?アルマともう一度戦う?
剣有りでも勝てないのに不可能だ。
瞬間移動してユルシュピを殺しにかかるのはどうだろうか。
既にユルシュピはその事を警戒して周りを民で囲んでいる。
どうすればいい?どうすればいい?どうすればいい?
一旦逃げるか。いや馬鹿か!レイテとお婆さんはどうなる!
目をくり抜いて内臓を出して脳を食らう?
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
「死ね」
その時だった。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
突如として中央教会の壁が外から破壊されて全ての民が吹き飛ばされていくき、倒れたお婆さんやレイテまで纏めて吹き飛んで行った。気付けば爆風でユルシュピもどこかへ吹き飛ばされた。
立っているのは茫然と立ち竦むアルマとコナミだけ。敵も味方も滅茶苦茶じゃないか。
こんな事が出来る奴といえば――――――――。
「おはようございます、コナミさん。いつも通りのアホ面デスね」
アイリ。お前しかいないよな。




