運命
いつもと変わらない幸せな日々を過ごして六十と数日が過ぎ、今日はめでたい日となった。
アッシュとレミが遂にくっついたのだ。
その日は盛大に祝い、盛大にからかってやった。
初々しく手を繋ぐ二人が物凄く眩しい。
村もこの事で浮ついた雰囲気になり、子供が増えそうな甘ったるいムードに包まれている。
流石に娯楽のない所だ。
こういう事には敏感で苦笑いになってしまう。
因みに告白したのはアッシュの方だ。
この鈍感野郎はついにレミの気持ちに気付き、意識し始めてあっという間だった。
それから日々幸せオーラ前回でデレデレしている。
俺達は今森にいる。
「レミちゃんに贈り物したいんだけど何が良いかな!?」
と持ちかけられ、取り敢えず無難に「アッシュの気持ちの篭った物を上げれば? 例えば手作りの……何かとか?」と言ってしまい、今付き合わされている状況だ。
「どこまで行くんだ?
あんまり奥に行くと危ないぞ」
「わかってるけどなんかこうしっくり来るものが無くて……」
そう言ってずんずんと奥へ進んでいく。
一応ドラグルが居るから魔物はあんまり寄ってこないけどもしもの事があったらと考え警戒する。
どんどん奥へ進んでいくと、鮮やかな赤色の花が群生している開けた所に出る。
「よし!これだ!!」
「贈り物としては無難だな。
色も綺麗だし喜ぶともうぞ」
「そうだよね!」
アッシュは嬉々として花を集め始めた。
俺も母さんに日頃のお礼にいくつか摘んでプレゼントしようと思い集める。
俺とアッシュは夢中になって周囲を警戒するのを疎かになって気が付かないが、気配探知に鋭いドラグルは何かの気配を察知して俺に警告してくる。
『主、何かくる。
ここ危ない、離れよう』
「!?」
ドラグルのプレッシャーを突破してやってくるのなんて厄介な魔物しかいないだろと慌ててアッシュに呼びかける。
「アッシュ!!なんか近づいてるみたいだ!!
急いでここから離れよう!!」
俺の緊張した声に危機を察知したアッシュはすぐに従い俺の方へ来る。
ドラグルに何処から来ているのか教えてもらうと、微妙に村方面から来ていることがわかった。
ここは少し迂回して村に戻らないといけない。
ヘタしたら野宿のあり得るとアッシュに言うと、神妙な面持ちで頷く。
ドラグルの誘導で安全な道を進み村へ向かう。
「「はぁ……はぁ……」」
いくら森に慣れている俺達でも追われるプレッシャーの中こうして急いで行動するのにはスタミナが消耗する。
なんとか魔物は振り切ったが結構奥に来てた事もありだいぶと周りとなってしまった。
急いで村に向かって、夜に帰れればいい方かと考え、母さんの顔がチラつく。
きっと心配するだろうな……。
申し訳な気持ちでいっぱいになる。
アッシュも同じようで、不安そうにソワソワしてる。
「僕のせいでごめん……」
「謝るなよ。
俺もこうして花摘んでるし同罪だろ。
一緒に怒られよう」
「ハハ……、そうだね。
アデルがいれば心強いよ……」
「とにかく急いで帰ろう。
夜になったら慎重に動かなきゃいけなくなる」
「了解!」
慎重に急いで進むと何かおかしなことに気がつく。
こんな森の中で何かが燃えているような煙の臭がする。
アッシュは必死の様子でそこまで気を配れてないから気づかないけど確かに煙の匂いがする。
村の方へと進むにつれその匂いが強くなっていき、アッシュも流石に気付く。
急いで進みながら俺達は無言で顔を見合わせる。
夕暮れの赤く染まる空間でお互いの顔が言いようのない不安に包まれているのが分かる。
がむしゃらにとにかく急いで森の中を走った。
ただ焚き火しているだけだ。
そう、俺達が帰るのが遅いから心配して夜でも明るいように大きな焚き火をしているだけ。
だから……煙に混じって血の匂いなんか……しない……。
俺は両目に涙をいっぱいに溜めて走る。
『主、人間の匂い。
危ない』
ああああああああ!!そんな!!
「ドラグル!先に戻れ!!
俺達はもう道はわかる!!
みんなを……みんなを守ってくれえええええ!!」
ドラグルは俺の願いを聞いて走り抜け、一瞬で姿を消す。
俺の叫びにアッシュは驚き俺を見る。
涙を流しながら走る俺に釣られて不安が更に募ったのだろう。
アッシュも更に必死に走る。
母さん!!母さん!!
俺を大事に思ってくれた母さん……きっと無事だ!
大丈夫!無事に俺の帰りを待ってるはず!
自分にそう言い聞かせるが想像したくない結果が頭をよぎる。
嫌な予感が全身を包み込み体が冷えていくのに汗が吹き出す。
「み、見えてきた!」
はぁ……はぁ……。
あああああああああああああああああああああ!!
「そんなああああああああああ!!
母さんっ!!」
辞めてくれ……楽しかった日々を今思い出すのは辞めてくれ……。
ただ無事ていてくれればいいんだ。
だから今、走馬灯のようにこの村で過ごして来た日々を思い出さないで!!
頭を振り必死に家へ向かう。
ここに来るまで視界の端で見たくない物をいろいろ見えたような気がしたがそれよりも我が家へ急ぐ。
「よし!家は無事だ!
母さん!!」
玄関を開けて俺は絶句した。
「ああああああああああああああああああああああ!!!?」
喉を切られ目を見開き涙を流して亡くなっている人が居た。
母さんはこんな姿していない。
もっと綺麗です優しい顔をしている。
こんな、苦しそうな顔をしてなんかいない。
必死に心でそう思っても現実は無常で、そこに横たわっているのは母と認めた女性だった。
ヨロヨロと這いずり寄り母を抱きしめる。
「あああああああああああああああああああああああ!!」
母を抱き締め言いようのない感情を泣き叫んだ。
俺の背でドラグルは俺を見つめていた。
ドラグルの手は真っ赤に染まっていた。




