無魔法
あれから数日。
魔力を自分の中に留めるのを無意識でも出来るように今は意識して練習しながら生活をしている。
そして、まだ手からしか意識しなきゃだけど放出する事が出来るようになった。
この放出した魔力はドラグルが美味しそうに吸収している。
実は魔力を制御せずに垂れ流しだった頃、ドラグルは俺が放出していた魔力を糧にしていたという。
だから今ではこうして与えると凄く喜ぶ。
俺の魔力は特別に美味しいらしい。
「いつまでも家に引きこもてる訳にはいかないよな……」
自分に与えられた部屋で独り言が出る。
いつまでもこの状況に甘えてたらダメになる気がすると日に日に強く思うようになった。
まだ人が怖い。
だけど彼等から歩み寄ってくれるのに自分がいつまでたってもこのままじゃいけないと思う日々だ。
俺に何かできることが無いかを考えてみるけど何も思い浮かばない。
アッシュはいつも俺の様子を心配して見に来てくれる。
初めて出会った時の俺は一人だったからなんか強かったと思う。
たとえ強がりだとしても心はしっかりしていた。
今の俺は弱い。
何を話していいのか、どう接すればいいのかわからない。
魔力を留めて力が増した感じがしても、このやせ細った貧相な体では手伝いと言っても余計な手間を増やすだけだろう、と勝手に考えて精神がふさぎ込んていく。
そんな俺を見かねてサーシアは外に出ようと提案する。
確かに家に引きこもってばかりだと余計な事を考えて更に落ち込むだけだしと考えて一緒に散歩に出ることにした。
「ッ……」
久しぶりに見る陽の光は眩しい。
「外は気持ちいいね。
どこか見てみたいところはある?」
玄関前でそう言われ考える。
何処に見る所があるんだろうと思うが、そんなんじゃいけないと思って必死に考える。
そして思いついたのは。
「皆が……働いてる所……見てみたいです」
俺の答えにサーシアは満足そうに笑顔で案内する。
畑に案内されると、皆は楽しそうに一生懸命働いていた。
俺と同い年くらいの子も転がっている石を拾ったり水撒きをしたりと何かしら手伝っている。
その中にはアッシュも居た。
アッシュは俺に気が付き、「お~い!」と言って手を振る。
周りの人達も俺達に気が付き笑顔で手を振ってくる。
初めての感情が芽生えた。
この暖かい村の為に何かをしてみたい。
力はないけど魔力ならある。
それで何か役に立つ事をやって見たいと。
手を振り返すのはまだ恥ずかしいから少しお辞儀をして気持ちを返した。
家に帰って魔力のこと、無魔法の事を知りたくなった。
散歩しながらいろいろと見て回り、家に帰ると早速無魔法を知りたいとサーシアにお願いした。
サーシアは俺の変化に喜びを隠しきれず、すごく嬉しそうに目尻に涙を浮かべ微笑んでいる。
それからいろいろ教えてもらった。
今は魔力を意識して体内に留める事が出来るようになっている。
「次は魔力操作を覚えましょう。
今度は自分の魔力を自在に操るの。
体の中でぐるぐる回してみたり体のどこかに集めてみたりするのよ。
それが楽に出来るようになったら次は体の外に出して自分の魔力を操るの。
体の中で操るよりも格段に難しくなるから根気よくやるのよ」
教えてもらってから毎日練習した。
その日から散歩も日課にするようになり、村人と顔を合わせる機会も増えて少しずつだけど会話が出来るようになっていった。
何か自分に出来る事でお礼をする為に散歩、食事以外の時は例え水浴びの時でもトイレの時でも、寝るまで魔力操作を必死に練習をして10日が過ぎた日。
「ステータス」
____________________
【アデル】 11歳 人間 レベル:10
職業:悪魔使い
状態:健康
HP:72/72 MP11431/11431
固有スキル
魔眼
スキル
悪魔召喚
魔力吸収
魔力操作
称号
悪魔の寵愛 適合者 魔石を有する者
____________________
魔力操作のスキルを獲得した。
このスキルのお陰で魔力操作は格段に上手くなり複雑な操作も容易となった。
それをサーシアに報告すると自分の事のように喜んでくれてとても嬉しかった。
「凄く頑張ったものね!
アデルくんならすぐ出来るようになるんじゃないかって思ってたのよ!
偉いわね」
そう言って頭を撫でられる。
暖かい気持ちになる。
この時俺は無意識に笑顔になっていた。
「魔力操作を覚えたなら次は魔力を自分の手の様に掴む事を意識して操作してみて。
特にこれ!といったやり方は無いから自分の感覚を探ってみなさい。
私は物を自分の魔力で包んで……そこに自分の手があるような感じで……持ち上げる……。
……ふぅ~、私は魔力操作あまり上手じゃないから凄く大変なのよね」
コップがゆっくりと持ち上がり、そしてすぐにゆっくりとテーブルに置かれた。
すごく集中し真剣にやった後えへへと恥ずかしそうに笑うサーシア。
「さあやってみなさい!」
また練習の日々が始まった。
この頃にはアッシュとは多少話せるようになり、無魔法の事を話したらアッシュは「僕もやる」と言って、家に走って行ってしまった。
俺は散歩から帰りすぐに魔法の練習を始める。
外で拾ってきた拳大の石を床に置き集中する。
体から魔力の線が伸び、石に当たると魔力は石に纏わりつき、それ自体が自分の体の一部、見えない腕だとイメージして持ち上げようと必死に集中した。
ビクともしないけど諦めない。
自分の限界を迎えるまでやり続けた。
それから三十数日が過ぎた頃。
俺の体の周りには大小様々な石が浮いていた。
自分の新たな力、無魔法を習得した。
その頃には村との関係も大分良くなり、散歩に行けば色んな人と挨拶を交わし二言三言と会話を続けられるようになった。
この変化に村人たちは暖かく微笑んでくれる。
魔力制御、魔力操作はもう意識するまでもなく、この無魔法も既に体の一部となり自在に自由に色んな事が出来るようになった。
夕食時。
「あの……、サーシアさん。
無魔法を習得して使いこなせるようになりました」
俺は緊張した面持ちで話しかける。
何かを察したのかサーシアは目を瞑り静かに話も聞く。
その表情は何とも言えない寂しそうなものだった。
「だから、俺はこの力で村の為に何かしたいです」
サーシアはエッ?と驚いた顔をし俺を見る。
「はぁ~!!
良かったぁ!!
もう改まって言うから村を出たいって言い出すのかと思ったわ!」
「色々してくれるこの村は俺の故郷です。
出ていけないです。
だからこの村の為にこの力で何かしたいんです」
「わかった。
明日は一緒に畑に行って何かできる事を探してみましょう」
「はい!」
その後は和やかに夕食を食べて部屋に戻り、魔法の練習とドラグルに魔力をあげてから就寝する。
翌日、俺達は畑に向かい、サーシアが村人達に事情を説明して今日から俺も畑で仕事を始めた。
まだ体つきは貧相で筋肉もあまりないけど無魔法はそんなの関係なく、耕すときに出てきた大きい石も軽々持ち上げる。
村人は俺の力に喜び褒めてくれる。
この頃から少しずつ自然に笑顔が出て来るようになった。
アッシュは俺と一緒に働けると喜び、俺の力を見て少し悔しそうにして、でもなんだか嬉しそうだった。
働き始めてから更に加速して皆と馴染み始め、色々と頼まれるようになった。