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Epilogue

最終話です!

 【速報! 勇者帰還!

  先日の昼過ぎ、魔王国へと魔王討伐に向かっていた勇者一行が『楽園』に帰還した。

  防衛大臣の発表によると、勇者一行と魔王は対決を経て和解、

  『楽園』と魔王国『黒兎』は和平を結ぶこととなったという。

  今回パーティに参加された我らが麗しのリリアーナ第1王女殿下は我々の取材に対し、

  「とても有意義な時間でしたわ」と、それこそ花の綻ぶような微笑みを浮かべられた。

  また、パーティにはあの(・・)月の女神やドラゴンがいたという話もあるが、

  真偽のほどは最中ではない。

  しかし、今回出発から7日と経たずに『黒兎』との和平を取り付けた彼らの武勇伝が

  長らく歴史に残るであろう伝説となることは、間違いないだろうに思われる】


                  日刊PARADISE 一面より



 * * * * *



 静かな朝の気配の満ちるセントラルの街。人通りの少ない通りに、馬車の通る音だけが響いている。

 その中でも取り分け静かな西地区の一角、蒼い屋根と白い壁の特徴的な小さな家。『月の音色』と蒼い硝子に銀の文字の記された看板に迎えられて扉を開くと、涼やかな音を立てて金の鈴が鳴る。


「————いらっしゃいませ」


 高く澄んだ声に惹かれて視線を向けたアレックスは————右手に包丁、左手に逆さ吊りにしたウサブタという姿のシェルに絶句した。



「…………何してるんだ?」

「見てわからないの? 今から調理するのよ」


 意気揚々と宣言したシェルの頬は、心なしか紅潮している。ウサブタが楽しみで楽しみで仕方のないようだ。ふんだんにフリルやレースを用いた、染みひとつない白いエプロンが眩しい。


「見なさい! この香料香辛料の数々を!」


 ずらりっ。包丁を持ったままの右手で示された、机の上に並べられた瓶の数々に、アレックスは圧倒される。ラベルのひとつひとつを見ると、世界中から集められていることがわかった。


「すげぇ……こんなにたくさん、どうやって集めたんだ?」

「この間、赤鷹の君に色々貰ったのよ」


 昨日の昼過ぎ、『月の音色』の前に赤鷹の馬車が現れた。赤鷹の王子が、祠に花を捧げてからここ数ヶ月雨が降らず、降る気配さえも全くなかった地域に雨が降るようになったと、お礼と称してドレスやら宝石やらと装飾品の数々を携えて来たのだ。

 普通ならば、目を輝かせて喜ぶだろうそれらに、シェルは無情にも言い放ったのだ。


「このようなものよりも、調味料の方が欲しいわ」


 それを聞いた王子はすぐさま国に手配、つい先程、たくさんの調味料が届けられたのだ。そう言えば、ここに来るまでに見慣れない馬車が通り過ぎて行ったような気がしなくもない。


「ドレスとか宝石とか、売るより他に使い道はないもの。『赤鷹』の血税が私の大して欲しくないもので消費されていくよりも、こうして私の役に立って有意義に消えていくべきだと思ったのよ」

「まあ、換金したら『楽園』のものになるもんな」


 シェルの稼いだ金の殆どが『楽園』の福祉として、幼い子どもたちのために消えて行っていることを知っているアレックスは苦笑した。


「あの花って結局なんだったんだ?」

「私の力と似たようなものよ。他者の能力を増幅させることができるの」


 彼女曰く、件の祠には辺り一帯の雨を司る水神が祀られていたらしい。だが最近は人々の信仰心が薄れて力を失いつつあり、雨を降らす力が弱まっていたのだという。


「この世界は神の力が強く影響しているもの。だからちょっと私が力を貸してあげれば、雨を降らすなんて容易いことよ」


 言外に天候を操ることすらも造作ではないと宣うシェルに、アレックスは戦々恐々とした眼差しを送った。流石としか言いようがない。



「あの男、明らかに下心があったな。ここままじゃシェルを取られるぞー?」


 不意に聞こえてきた揄うような声にアレックスが目を向けると、日刊PARADISEを広げたクリスティンが、シェルの気に入っているひとり掛けのソファで寛いでいた。その頭の上では、アウラが興味津々の体で日刊PARADISEを覗き込んでいる。


「何でここにクリスがいるんだ?」

「ウサブタの晩餐会が開かれると聞いてやって来た」


 すぱんっと。シェルが素晴らしい包丁捌きで、ウサブタを捌いていた。鼻唄混じりで捌く彼女の傍では、レムがせっせと香辛料を名前順に並べている。


「今日の夕飯はウサブタの香草焼きにウサブタのパイでしょう? ウサブタスープにウサブタサラダ、後は……」

「ウサブタ尽くしだな」

「ウサブタの晩餐だもの! 当然よ! あ、お昼にウサブタの照り焼きサンドもいいかもしれないわね!」


 碧い瞳をきらきらさせて熱を入れて拳を握るシェル。頑張ってよかった、アレックスは心からそう思った。



 つい昨日の夜のことだった。

 ウサブタは宵口に一番活発になるということで、勇者一行は薄暗い『黒兎』の森を彷徨った。

 ついうっかりとリリアーナが魔法で落雷を起こして森が炎上しかけ、消火活動に一晩かかるという騒ぎが起こったが、彼らは無事ウサブタ6匹を捕まえることに成功したのだ。



「火手が上がっていると聞いて、森への立ち入りを許可したことをあれほど後悔したことはない」


 シェルがいるのなら、何も心配いらないだろうと思っていたのに。

 カップを傾けながら、涼しい顔をしてクリスティンが嘯くが、目が全く笑っていない。責任者(リーダー)であるアレックスは頬を引き攣らせた。


「無事消し止めることができたのだからいいではないの。それよりもちょっと手伝ってちょうだい、今日はあと2匹調理するのだから!」


 声を弾ませるシェルに、アレックスは頷いた。クリスティンも肩を竦ませて、日刊PARADISEを卓の上に置く。アウラも勢い込んでレムと一緒に香辛料を並べる手伝いをした。





 日が暮れる頃、『月の音色』いっぱいに広がる、食欲をそそる香り。リリアーナとレン、功労者であるミミカ、そしてクリスティンのお目付け役としてユートとも合流し、盛大に開かれた晩餐会。

 誰もがテーブルに並べられたウサブタ料理に舌鼓を打ち、会話に花を咲かせる。


「アレックス」

「なに?」


 料理を取り分けていたアレックスは、すぐ傍にある美貌に息を詰めた。思わずアウラたちの姿を探すと、彼女たちは皿に取り分けて貰ったらしいウサブタの丸焼きにがっついていた。


 ウサブタ料理を頬張っていたシェルは、子どもの様に無邪気に笑った。


「大好きよ!」


 眩しいまでの笑顔で放たれた突然の言葉に、アレックスは顔を赤くして固まった。

 おおっ? 誰もが手を止めてふたりを見つめる。

 あのシェルが大好きだなんて言葉を口にする日が来るとは思わなかったと、クリスティンとユートは遠い目をするのだが、気付く者はいない。リリアーナとミミカは黄色い歓声を上げている。


「大好きよ————この世界が!」

「……え? この世界が……?」

「ええ!」


 満面の笑みで頷いた彼女に、色々と期待してしまっていたアレックスは、がくりと目に見えて肩を落とした。頑張れと思いつつも、レンたちは何も言えない。


 もそもそと食べることを再開したアレックスに、シェルはそっと耳打ちする。碧い瞳を輝かせた彼女の、白い頬が仄かに染まっていた。


「大好きなのだけれど」










 アレックスよりも、ではないのよ?





今までお付き合いください,誠にありがとうございました!

変な終わり方ですが,

今まで不憫過ぎたアレックス君の救済のためにあのようになりました.

悪いのは全て白猫です(・`ω´・)キリっ


何はともあれ,ありがとうございました!


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