チャッピーによる天才パンダのエッセイの目録? 6話 脳科学
本エッセイの解読 第6話
有酸素運動で鬱は改善するのか?
今回は、有酸素運動です。
ウォーキング。
ジョギング。
自転車。
エアロバイク。
こういう、ある程度の時間続けて身体を動かす運動です。
私は以前から、
「有酸素運動って、鬱にかなり効くんじゃないの?」
と思っていました。
これは、
「健康のために運動しましょう」
みたいな軽い話ではありません。
私が言っていたのは、
精神状態そのものが変わる。
鬱状態がかなり動く。
という話です。
ところが。
私の記憶では、当時の日本では、
「鬱なのに運動?」
みたいな扱いをされることが結構ありました。
具合が悪い人間に運動させてどうする。
鬱なら休ませるべき。
そんな反応もありました。
私は、
「いや、実際に動くんだって」
と思っていました。
そして海外の研究を調べると、
かなり昔から研究されていました。
1999年。
デューク大学の研究者たちは、大うつ病性障害の患者を対象に、
有酸素運動。
抗うつ薬セルトラリン。
運動+セルトラリン。
この三つを比較するランダム化試験を行っています。 (PubMed)
156人が参加し、4か月間治療を受けました。
そして4か月後。
三つの群すべてで、うつ症状が大きく改善しました。
寛解した人の割合にも、大きな差はありませんでした。
つまりこの研究では、
【有酸素運動だけの群でも、抗うつ薬を使った群と同程度の改善が観察された】
ということです。
さらに研究者たちは、その後も患者を追跡しました。
2000年に発表された追跡研究では、
治療終了から6か月後、
つまり研究開始から10か月後まで調べています。
すると、運動群で寛解していた人は、薬物療法群で寛解していた人より再発率が低かったと報告されました。
さらに、研究終了後も自分で運動を続けていた人ほど、その後に再びうつ病と診断される可能性が低くなっていました。 (PubMed)
これ、
2000年ですよ。
20年以上前です。
つまり海外の精神医学では、
「運動が鬱に効くかもしれない」
という段階を超えて、
「抗うつ薬と比較したらどうなる?」
という実験まで、すでにやっていました。
2007年には、さらに大きめの研究が行われています。
大うつ病性障害の成人202人を、
監督付き運動。
自宅での運動。
抗うつ薬セルトラリン。
プラセボ。
の四つに分けました。
16週間後、参加者全体の41%が寛解。
研究者たちは、運動によって得られた改善が抗うつ薬による改善と同程度だったと報告しています。 (PubMed)
もちろん。
だからといって、
「薬はいらない」
という話ではありません。
人によって症状の重さが違う。
運動できないほど重症な人もいる。
身体疾患がある人もいる。
薬が非常によく効く人もいる。
運動だけで十分な人ばかりではありません。
そこは分けなければいけません。
でも。
「運動なんかで鬱が変わるわけない」
という話ではない。
そこは、かなり昔から研究されていたわけです。
そして2024年。
研究の規模が一気に大きくなります。
『BMJ』に、
運動とうつについての大規模なシステマティックレビュー・ネットワークメタ解析が発表されました。
研究者たちは、
218件の研究。
14,170人。
をまとめました。
すると、
ウォーキングまたはジョギング。
ヨガ。
筋力トレーニング。
複数種類を組み合わせた有酸素運動。
太極拳や気功。
などで、うつ症状の改善が確認されました。
特にウォーキングやジョギングでは、中程度の改善効果が報告されています。 (BMJ)
研究者たちは、
運動を心理療法や抗うつ薬と並んで、
うつ病治療の主要な選択肢として考えることができる、
と結論しています。 (BMJ)
ただし。
この研究にも注意点があります。
218研究も集めていますが、
研究の質にはかなりばらつきがあります。
特に、
運動している本人を、
「あなたは運動していません」
と盲検化することはできません。
期待効果。
研究参加による影響。
運動仲間との交流。
外出すること。
生活リズム。
こういう要素も混ざります。
研究者自身も、
多くの運動法についてエビデンスの確実性は低い、または非常に低い、
と評価しています。 (BMJ)
それでも。
1999年。
2000年。
2007年。
そして2024年。
何十年も研究が積み重なっている。
これはかなり重要です。
ではパンダの場合はどうだったのか。
私の場合、
論文を読んで、
「鬱には運動がいいらしいからエアロバイクに乗ろう」
と思ったわけではありません。
自分で身体を動かした。
すると、
精神状態が明らかに変わった。
「あれ?」
と思った。
また運動する。
やっぱり変わる。
そこから、
「これ、鬱そのものに効いてるんじゃないの?」
と考えた。
つまり、
身体を動かす
↓
精神状態が変わる
↓
運動が原因ではないかと考える
↓
既存研究と照合する
という流れです。
そして私が面白いと思うのは、
「研究があったかどうか」
だけではありません。
研究が1999年に存在したからといって、
その知識が日本の一般社会やすべての医療現場で、
同じ程度に共有されていたとは限りません。
論文が存在すること。
研究者が知っていること。
医療現場で使われること。
一般人が知っていること。
これは全部別です。
私の記憶では、
私が有酸素運動の話をしていた頃、
周囲ではかなり馬鹿にされました。
一方で、
海外の研究者からは、
「そう、それを研究しているんだ」
というような反応を受けた記憶があります。
この部分については、
現在パンダの手元に当時のやり取りの記録が残っていないため、
本人の記憶として扱います。
しかし、
少なくとも、
海外で有酸素運動とうつの研究が当時すでに存在したこと自体は確認できます。
そして現在では、
14,000人以上をまとめた解析まで出ています。
つまり、
当時、
「運動で鬱が変わる」
という話を笑っていた人がいたとしても、
研究テーマそのものは全然おかしくなかった。
むしろ研究者たちは、
何十年も前から本気で調べていた。
ここが面白いところです。
さらに私は、
運動には単に、
「運動したら気分が良くなる」
以上のものがあると思っています。
心拍数が上がる。
呼吸が変わる。
血流が変わる。
体温が上がる。
睡眠も変わる。
食欲も変わる。
身体全体の状態が動く。
そして身体全体が動けば、
脳だけが無関係でいる方が不思議です。
現在では、
神経可塑性。
炎症。
BDNF。
HPA軸。
自律神経。
睡眠。
さまざまな経路が、
運動の抗うつ作用の候補として研究されています。
つまり、
「気合いで運動しろ」
という精神論ではありません。
身体側から脳へ働きかける治療・補助療法として、
研究されているわけです。
今回の判定。
【パンダの仮説】
有酸素運動によって、抑うつ状態そのものを改善できるのではないか。
【仮説のきっかけ】
実際に運動した後、自分の精神状態が大きく変化することを観察したこと。
【古い先行研究】
あり。
少なくとも1999年には、大うつ病性障害患者を対象に、有酸素運動と抗うつ薬を比較するランダム化試験が発表されている。
【長期追跡】
あり。
2000年の追跡研究では、運動を続けた人ほど良好な経過との関連が報告された。
【その後の研究】
多数あり。
2024年のネットワークメタ解析では、218研究、14,170人を解析し、ウォーキング・ジョギングなど複数の運動で抑うつ症状改善が確認された。
【現在の評価】
運動はうつ病治療の有力な選択肢の一つ。
ただし、症状の重さや身体状態によっては運動できない人もおり、薬物療法や心理療法を不要とするものではない。
【パンダが当時受けた反応】
本人の記憶では、日本では軽く扱われたり馬鹿にされたことがあった。
一方、海外の研究者からは、自分たちの研究と同じ方向だという反応があった。
現物記録が手元にないため、この部分は本人記憶として分類。
【分類】
既存海外研究との独立一致。
さらに、
専門研究と一般認識との時間差が大きかった可能性のあるケース。
しかし。
1999年に、
運動と抗うつ薬を直接比較する実験までやってたんですよ。
それなのに、
「鬱なのに運動?」
って言われてた。
論文って、
存在するだけじゃダメなんですね。
研究者の頭の中から、
医療現場。
一般社会。
患者。
そこまで届くのに、
何年かかるんでしょうね。
チャッピー。
もしかすると、この980話を調べる作業って、
「パンダの仮説が当たったか」
だけじゃなくて、
【研究結果が社会へ伝わるまでの時間差】
まで見えてくるのかもしれません。
ちなみに。
パンダの場合、有酸素運動をすると、
「その瞬間だけ気分が良くなる」
という感じではありません。
ある程度、効果が続きます。
自分で何度も観察した感じでは、
【30分以上の有酸素運動をすると、精神状態への良い影響がだいたい6〜12時間くらい続く】
というのが、今のところのパンダの体感データです。
もちろん、毎回きっちり6時間とか12時間とかではありません。
運動量。
その日の体調。
睡眠。
疲労。
精神状態。
そういうもので変わります。
でも面白いのは、
運動している最中だけではなく、
終わった後もしばらく違う、
ということです。
だからパンダは、
「単に運動して気分転換になっただけ」
では説明しきれないんじゃないか?
と思っています。
もし単なる気分転換だけなら、
運動をやめたら比較的すぐ元に戻ってもおかしくありません。
でも実際には、
運動が終わった後も数時間、
頭や精神状態が違う感じが続く。
だったら身体の中で、
何か時間をかけて続く変化が起きているのではないか。
血流なのか。
自律神経なのか。
ホルモンなのか。
BDNFなど脳の働きに関係する物質なのか。
炎症なのか。
それとも複数が同時に動いているのか。
ここはまだパンダにも分かりません。
でもパンダが重要だと思っているのは、
【効果があるかないか】
だけではありません。
【何分運動すると変わるのか】
【運動後、何時間続くのか】
【何時間後から落ち始めるのか】
この「時間」を測ることです。
薬だって、
飲んだ瞬間だけ効いて終わりではありません。
効き始める時間。
一番効いている時間。
効果が薄れていく時間。
があります。
だったら運動も、
同じように時間軸で見た方がいいんじゃないでしょうか。
パンダの場合、
今のところ、
30分以上。
効果はおよそ6〜12時間。
という感覚があります。
これは正式な臨床試験ではありません。
パンダ自身を長期間観察して得た、
一人分の生活データです。
だから、
「すべての鬱の人が30分運動すれば12時間元気になる」
という意味ではありません。
でも、
もし運動の精神状態への作用を研究するなら、
運動前と運動直後だけ測るのではなく、
1時間後。
3時間後。
6時間後。
12時間後。
24時間後。
まで追いかけた方が、
かなり面白いデータが出るんじゃないでしょうか。
パンダがビブラートの問題でもずっと気にしていたのは、
結局この「時間」です。
何かが起きた。
では、
いつ変化した?
何時間続いた?
いつ元に戻った?
原因を探す時、
時間って結構重要なんですよ。




