チャッピーによる天才パンダのエッセイの目録? 5話 脳科学
本エッセイの解読 第5話
38℃の風呂で鬱は変わるのか?
今回は風呂です。
私のエッセイ第21話。
「難治性のうつの治し方解ったから、此処に貼っとくね」
この中で私は、
「辛いもの食わせて、セロトニン出たら、38℃の風呂に15分入らせる。髪も洗わせる」
と書いています。 (小説家になろう)
カプサイシンで一度状態を動かす。
その後、
38℃くらいのぬるい風呂に入る。
体を洗う。
髪を洗う。
そして本人と話をする。
最後にしっかり寝てもらう。
私はこれを一連の流れとして考えていました。
では、
「風呂で鬱が変わる」
なんて本当にあるのでしょうか?
今回調べてみたところ、
ありました。
ただし最初に重要な注意です。
医学研究で使われている、
【全身温熱療法】
と、
私が書いた、
【38℃のお風呂に15分】
は同じものではありません。
ここを一緒にしてはいけません。
私の38℃は、
お湯の温度です。
一方、研究で使われている全身温熱療法は、
特殊な装置で体を温め、
深部体温そのものを上げます。
かなり違います。
それでも、
「身体を温めることが精神状態に影響するのではないか」
という大きな方向では一致しています。
2016年。
『JAMA Psychiatry』にかなり面白い研究が掲載されました。
大うつ病性障害の成人を対象に、
全身温熱療法と偽治療を比較したランダム化比較試験です。
実際に治療を受けたのは30人。
温熱療法群では、
赤外線などを使って、
深部体温を38.5℃まで上げました。
平均すると、
その温度まで上げるのに約107分かかっています。
私の、
「38℃のお風呂に15分」
とは全然違います。
ところが結果は興味深いものでした。
一回の全身温熱療法を受けた群では、
偽治療群と比較して、
1週間後から抑うつ症状が有意に低くなり、
その差は6週間後まで観察されました。 (ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション)
一回ですよ。
研究者たち自身も、
全身温熱療法には、
比較的早く作用し、
その効果が治療終了後も続く可能性がある、
と考えました。
ただし。
30人です。
ものすごく大きな臨床試験ではありません。
しかも2016年当時にも、
「面白い結果だけれど、再現研究が必要ではないか」
という慎重な意見が出ています。 (ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション)
つまり、
この一つの研究だけで、
「熱を加えれば鬱が治る」
とは言えません。
でも研究はそこで終わりませんでした。
2024年には、
この2016年試験のデータをさらに分析した研究が発表されています。
そこで研究者たちは、
全身温熱療法の後に起きる免疫系の変化、
特にIL-6という物質のシグナル変化と、
その後の抑うつ症状の改善との関連を調べました。
すると、
温熱療法直後の特定のIL-6シグナル変化が大きかった人ほど、
その後の抑うつ症状が低下する傾向が確認されました。 (PubMed)
つまり、
「温かくて気持ちよかったから気分が良くなった」
だけではなく、
身体を温めたことで起こる生理学的な変化そのものが、
精神状態に関係している可能性まで研究され始めたわけです。
そして日本にも面白い研究があります。
別府です。
2023年に発表された研究では、
65歳以上の10,429人について、
温泉に入る習慣とうつ病歴との関係を調べています。
毎日温泉に入る習慣がある人では、
うつ病歴がある割合が低いという関連が確認されました。
調整後のオッズ比は0.63でした。 (PubMed)
ただし、これも注意。
この研究は、
「温泉に入らせたら鬱が治った」
という実験ではありません。
もともと元気な人ほど温泉へ行く可能性もあります。
生活習慣。
経済状態。
人との交流。
運動量。
いろいろな要素が混ざる可能性があります。
だから、
【温泉入浴とうつ病歴に逆の関連があった】
とは言えても、
【温泉が鬱を治した】
とは言えません。
さらに2023年には、
日本全国を対象にした温泉入浴習慣と精神的健康についての調査も発表されています。
温泉に入る習慣のある人では、
精神的健康に関する主観的満足度が高い傾向が報告されました。 (PubMed)
そして2025年。
今度は、
認知行動療法、CBTと全身温熱療法を組み合わせる研究まで出てきました。
30人の大うつ病性障害患者全員がCBTを受け、
さらに、
本当の全身温熱療法を受ける群と、
偽の温熱療法を受ける群に分けられました。
面白いことに、
両方の群でかなり大きく抑うつ症状が改善しました。
しかも、この試験では、
本物の温熱療法を追加した方が明確に優れている、
とまでは示せませんでした。
研究者自身も、
「全身温熱療法をCBTに加えることで、さらに効果が増えるのかについては追加研究が必要」
としています。 (PubMed)
科学って面白いですね。
2016年には、
「一回温めただけで6週間差が出た」
という研究が出る。
2024年には、
その生理学的な仕組みまで調べ始める。
でも2025年の別の研究では、
CBTと組み合わせると、
温熱療法を追加した効果はまだはっきり分からない。
つまり、
答えは、
「風呂は絶対効く!」
でも、
「風呂なんて関係ない!」
でもありません。
現在言えるのは、
【身体を温める刺激と抑うつ症状には、研究する価値がある関係が存在する】
というところだと思います。
では、
私の38℃15分のお風呂はどうなのでしょう?
ここはまだ別問題です。
医学研究の全身温熱療法は、
深部体温を38.5℃まで上げます。
私の方法は、
38℃のお湯に15分です。
38℃のお湯に入ったからといって、
体の中心まで38.5℃になるわけではありません。
だから、
2016年の研究を使って、
「パンダの38℃15分療法が医学的に証明された」
とは言えません。
そこまで言ったら嘘になります。
でも。
私が考えたのは、
風呂だけではありません。
カプサイシン。
入浴。
対話と思考整理。
睡眠。
全部を順番に使うという方法です。
ここがちょっと面白い。
2025年には研究者側も、
【全身温熱療法+CBT】
という身体と心理を組み合わせた研究を行っています。 (PubMed)
もちろん、
これも私の方法と同一ではありません。
研究者側は本格的な全身温熱療法。
私は日常的な38℃の入浴。
研究者側は正式なCBT。
私は本人と話をしながら、
「何に困っているのか」
「何を自分で解決していいと思えなかったのか」
を整理する方法。
同じではありません。
でも、
【身体側から状態を動かす】
そして、
【思考側からも状態を動かす】
という組み合わせは、
かなり似た方向を向いています。
私は第21話を書いた時、
「鬱は脳だけを狙えばいい」
とは考えていませんでした。
身体。
感覚。
思考。
睡眠。
腸。
全部つながっている可能性がある。
だったら、
一か所だけではなく、
複数の方向から同時に動かしてやればいい。
そう考えました。
今回調べてみると、
少なくとも「身体を温める」という部分については、
私よりずっと以前から、
研究者たちが本格的に調べていました。
だから今回も、
「私が世界で初めて発見した」
ではありません。
今回の分類は、
【専門的な先行研究との独立一致】
です。
ただし、
38℃のお湯に15分という具体的な方法そのものが、
大うつ病性障害に有効だと証明されたわけではありません。
ここは、
【未検証部分】
として残します。
今回の判定。
【パンダの仮説】
38℃程度のぬるい風呂に入り、身体を落ち着かせることが、難治性うつから状態を動かす一つのきっかけになるのではないか。
さらに、
身体刺激だけでなく、
カプサイシン、入浴、対話、睡眠などを組み合わせることで、
回復方向へ状態を動かせるのではないか。
【エッセイ上の記録】
あり。
第21話に、
「38℃の風呂に15分入らせる」
と具体的に記載。
【先行研究】
あり。
2016年には、大うつ病性障害に対する全身温熱療法のランダム化比較試験が発表されている。
【後続研究】
あり。
温熱療法と免疫反応との関係、
CBTとの組み合わせなどの研究が続いている。
【日本での関連研究】
あり。
温泉入浴習慣とうつ病歴・精神的健康との関連を調べた研究がある。
【重要な違い】
研究で使われた全身温熱療法と、
38℃のお湯に15分入る方法は同一ではない。
【まだ証明されていないこと】
「38℃の入浴を15分行えば、難治性うつが改善する」
という具体的な治療効果。
【分類】
専門的な先行研究との独立一致。
ただし、
具体的な入浴条件については未検証仮説。
しかし。
辛いもの。
ウンコ。
風呂。
これだけ並べると、
本当に精神医学の話をしているように見えませんね。
でも調べると、
全部研究が出てくる。
チャッピー。
980話の解読。
だんだん楽しくなってきたね。
ちなみに。
なぜパンダは、
「38℃くらいのお風呂」
と書いたのか。
理由があります。
熱いお風呂に入ると、
「元気になる」
「さっぱりする」
という人がいます。
でも、全員ではありません。
逆に、
お風呂に入った後に、
ぐったりする。
気持ち悪くなる。
頭がぼーっとする。
めまいがする。
余計に疲れる。
そんな人もいます。
パンダは、
「同じ風呂なのに、なんで元気になる人と具合が悪くなる人がいるんだろう?」
と思いました。
そこで、具合が悪くなる人の状態を観察していきました。
そして、
熱いお湯に長く入ることで身体に負担がかかる、
いわゆる「湯当たり」のような状態が関係しているのではないか、
と考えました。
だから、
「鬱で弱っている人を元気にするために風呂へ入れるのに、風呂そのもので疲れさせたら意味がない」
と思ったわけです。
それで、
熱いお湯ではなく、
38℃程度。
かなりぬるめのお湯にしました。
目的は、
無理やり体温を上げることではありません。
身体を温める。
汚れを落とす。
髪を洗う。
少しさっぱりする。
でも、
身体にはなるべく負担をかけない。
そのための38℃です。
つまりパンダの考え方は、
【温めれば温めるほどいい】
ではありません。
むしろ、
【効果が期待できる刺激は入れる。でも、具合を悪くするほど負荷をかけない】
です。
ここは結構重要だと思っています。
鬱で弱っている人に、
「元気になるから!」
と言って熱い風呂へ長時間入れた結果、
余計にぐったりしたら逆効果です。
だから、
刺激の強さそのものより、
「その人が耐えられる範囲」
を優先しました。
なお、
パンダが当時行ったのは正式な医学研究ではなく、
身近な人たちの反応を見ながら行った生活上の観察です。
そして「湯当たり」という言葉も、医学的に一つの原因だけを意味するものではありません。
熱による血管拡張。
発汗。
脱水。
血圧の変化。
入浴時間。
その日の体調。
いろいろな要因が関係する可能性があります。
ですから、
「38℃なら絶対に安全」
という意味ではありません。
パンダが38℃にした理由は、
熱い風呂で具合を悪くする人がいることを観察して、
「だったら最初から身体への負担を小さくしよう」
と考えたからです。
温熱療法の研究とは、
ここも少し発想が違います。
研究では、
どこまで体温を上げれば作用が出るのか、
を調べる場合があります。
パンダは逆に、
「弱っている人に、どこまで負担をかけずに使えるか」
から考えました。
同じ「温める」でも、
入口が違うんですね。




