サニセル・デニスの泣き言
お待たせしました。
サニセルサイドです。
勉強は出来ても自分勝手な思考のサニセル。お花畑というより情緒面の成長が出来てないのでお子さまです。
ずっと一緒だった。
だから居なくなるなんて思わなかった。
なんで。どうして。どこで間違えた。
兄上の、兄さんの所為だ。兄さんが勝手にイーラとの婚約を解消したから……だからイーラは僕の隣にいないんだ。僕はゆっくりと兄さんの部屋まで行き兄さんに話がある、と告げた。イーラの誕生日会の翌日。
「なんだ?」
「兄さんなんで勝手なことをしたのさ」
「婚約解消のことか?」
「そうだ!」
「何を言う。お前がイデイラ嬢に婚約破棄を申し出たのだろうが」
兄さんの言葉に僕はウッと黙る。確かに僕は婚約破棄を突き付けた。ハルナルが婚約者のいる男性とお付き合い出来ないと言うから。ハルナルとデートするために。口説くのが大変だったんだ。距離を縮めて2人きりで話をして手を繋いで常に一緒にいて。そこまで僕に許していたくせに
「やっぱり婚約者が居る殿方とはお付き合い出来ないわ」
なんて言うから
「イデイラのこと? 彼女はずっと一緒の幼馴染みで母親同士が仲良かったから婚約したけど、婚約者とは思ってないし幼馴染みだね。いや、幼馴染みとも言えないな。寧ろ母親みたいなものだよ」
と説得した。そうしたら婚約破棄をしてくれたら付き合ってくれるって言うから言っただけなのに。そのうちハルナルとケンカして別れる事になってしまったらまたイーラと婚約すれば良いって思ってたのに。だから別に国王陛下に申し出て認めてもらう必要などないし貴族院にも報告しないでハルナルが僕に飽きるか僕がハルナルに飽きたらまた婚約しようって言うはずだったんだ。
なのになんで勝手に婚約解消してるのさ。おかしいじゃないか。
「ハルナルと付き合うのに婚約者が居るとダメだって言うから婚約破棄を突き付けただけでハルナルとケンカ別れしたり飽きたらまた婚約すれば良いと思ったから言っただけだ」
不貞腐れた僕に兄さんが大きく溜め息をついた。
「お前は勉強は出来るくせに精神的な面の成長がまるで無いな、相変わらず。婚約者が居る男と付き合えないというミクル子爵令嬢が正しいだろう。というか婚約者が居るのに女を取っ替え引っ替えするお前は既に浮気者として社交界では有名だ。王命でも政略でも無いのに婚約を続けているイデイラ嬢には同情が集まって居るんだ。実際お前との婚約が解消された途端に彼女は見合い話が殺到しているだろうな。しかもザルツ侯爵家の女当主。その婿なんて跡継ぎになれない次男坊や三男坊には好条件だ。お前はそんなことも分からずに遊び呆けていたがな。本当に阿呆だな。イデイラ嬢以上の好条件の婚約者など居なかったというのに」
「だからそれは兄さんが勝手に!」
「俺は散々注意したはずだ。女遊びをやめろと。イデイラ嬢に愛想を尽かされるぞ、と。実際愛想を尽かされただろうが」
「イーラは何も言わなかったから愛想を尽かしてなど!」
「は? あれほどイデイラ嬢も諫めていただろう。婚約者が居るというのに他の女との距離が近いと」
「あれは嫉妬だ! 嫉妬なんて醜いだけで」
「だから、嫉妬か嫉妬じゃないかはともかく。婚約者が居るのに関わらず他の女との距離が近いのを諫めていたんだろうが! それをイデイラ嬢を侮辱し、私の注意にも鼻で笑うお前にイデイラ嬢が愛想を尽かしても何にもおかしくないだろう」
「だけどっ! じゃあ今度から誰が僕を起こしてくれる?」
今朝は眠れなかったから今までずっと起きてただけ。だけどこれで眠ったら明日以降は誰が起こしてくれるというのか。
「自力で起きろ」
「そんな無理だ」
「じゃあミクル子爵令嬢に頼めば良い」
「ハルナルがそんなことしてくれるわけないじゃないか! イーラと違ってハルナルは僕の母親代わりになれない!」
「……それだよ」
「それ?」
「イデイラ嬢が言っていた。お前がミクル子爵令嬢に“イデイラは婚約者というより母親だ”ということを言っていた、と。イデイラ嬢は別にお前に恋していたわけでもないし愛していたわけでもない。幼馴染みとしての情が多少あるし婚約を解消して欲しいと訴えてもイデイラ嬢の両親も私達の両親も聞き入れなかったから婚約者であり続けた。だが、ミクル子爵令嬢に母親だと言っていたのを耳にしてもう無理だ、と思ったらしい。婚約者として見られていなくてもせめて幼馴染みとして見てくれていると思っていたのに、母親代わりとして見られていては疲れたそうだ。結婚してからも求められる役割が母親だけでは女侯爵としてザルツ家を盛り立てても夫が夫の役割を果たしてもらえない、と諦めたそうだ」
イーラが……イデイラが話を聞いていた?
いや、それよりも母親代わりに思っているから婚約解消をされた?
だってイーラちゃんしか僕を起こせないのに?
僕はどうやら良く寝る子らしい。放っておくと12時間以上は眠れる。そして起こしてもらうにしても母上は愛人に夢中で僕を見てくれなかった。侍女や執事や父上や兄さんでさえも何度起こしても起きない僕に嫌気が差していたと思う。
唯一僕が起きるまで起こし続けてくれるのがイーラちゃんだけだった。雨の日でもイーラちゃんの体調が悪い日でも殆ど毎日僕を起こしてくれた。嫌な顔一つしないで。ずっとずっと何年も何年も。イーラちゃんが起こしてくれることがイーラちゃんの愛情だって思ってた。だから僕はずっとイーラちゃんに好かれているって思ってた。
愛人に夢中で僕を見てくれない父上と母上。
兄さんは少しは僕を見てくれたけど婚約者が出来たら婚約者が1番になった。
執事含む使用人達は父上と母上の言うなりだし僕を雇い主の息子としか見ていない。
イーラちゃん以外誰も僕を見てくれない。
イーラちゃん以外誰もサニセルを愛してくれない。
たった1人、イーラちゃんだけが僕を愛してくれているってずっと思ってて。だから僕が何を言っても何をしても許してくれると思ってた。
それなのに。
「イーラちゃんは僕の母親が嫌だったってこと……?」
「婚約者でもあり幼馴染みでもある同い年の男に母親を求められても普通の女の子は困るだろうし嫌気が差すだろうな」
「そんな……。イーラちゃんだけはずっと僕を好きで居るって思ったのに」
「その驕った考えがイデイラ嬢を傷つけている。いいか? お前は二度と彼女に会おうなどと考えるな。分かったな?」
兄さんが僕を部屋から追い出した。
なんで?
イーラちゃんが僕を好きだって思っていたのにイーラちゃんは違う? イーラちゃんは僕のことが好きじゃなかった……?
分からない。分からない。分からない……
だから僕はザルツ侯爵家に足を向けた。でもイーラちゃんに会う事は出来なかった。追い返されたから。もう二度と来ないで欲しいと執事経由で聞かされた……。イーラちゃんが僕の婚約者じゃなくなった。二度とイーラちゃんには会えない。
なんで。なんで。なんで?
イーラちゃんは僕と一生共にいるって思ってたのに……
これにて完結です。
サニセルは情緒面の成長が望めない限りお子さまのままです。
だからこれ以上は何も……。
オマケ。
読者様から意見をもらいましたので、イデイラ母について。
イデイラ母とサニセル母は親友です。サニセル母があんなんなのに。
正確に言うとイデイラ母はサニセル母を尊い人物と自分の中で決めているのでサニセル母の全てを良い方に捉えてます。
サニセル母に愛人が居る事さえ彼女が望むなら正しい事、と思っています。所謂盲目。
イデイラ母はそんな女性でした。イデイラ父を好きじゃなかったので余計に。