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9話 空白を埋めろ

 ログインした。

 部屋を確認する。物理的にも魔力的にも誰かが侵入した形跡はない。どうやら私がいなかったゲーム時間での3日間には誰も来なかったようだ。フィールドに出ていた2日の間に来た者は、恐らく司書の不在に気が付いて部屋まで確認に来たのだろう。部屋の小物が動かされた形跡がなかったためそう見当をつける。

 こちらの存在に勘付いているのかは分からないが、あまり長居をすべきでないことは確かだ。その一方でこの部屋は、他のプレイヤーから情報を得られない私にとって非常に都合がいい。図書館の本が読み放題なのだ。必要な知識を得るまではいさせてもらおう。


(今日はまずは…)


 薬学の本を読もう。MPポーションが心許ない。MPポーションがなくても魔法は使えるし、魔法を使わなくてもストレス発散は出来るが、魔法が使えるのはゲームの中だけなのだ。せっかくのVRMMOなんだからそれらしく楽しみたい。


 ページをさらさらとめくっていく。使えそうな調合はメモを取った。Alliance-Onlineもそうだが、「もう一つの世界」を謳うゲームではスクショなんていう便利機能は廃れて久しい。メモ機能があるのは幸いだ。

 一通りメモを取り終えると初心者用の調薬キットと材料を取り出した。磨り潰し、煮沸かし、濾過する。教本と見比べながらタイミングを計る。繰り返しつつ、徐々に性能をあげる。暫く作って満足したら今度は作り方を変えてみる。タイミングをずらしたり、順番を入れ替えたり、材料に下処理を施したり、別の材料を加えてみたり。


〔これまでの行動経験によりスキル<薬学>がレベルアップしました〕


 レベルアップをする度に新しい調合を試す。毒薬も作れたが効果が低かったため、暫くは剥ぎ取り品を使うことにした。レベル不足だろう。精進あるのみである。

 ある程度MPポーションも溜まってきたので今日もそろそろ外に出よう。ストレス発散を続けながら次の拠点でも探そうかな。



―――――――――――――――――――――――


 路地裏を走る。

 図書館に置いてあったこの街・アインツの地図の空白地帯を埋めているのだが、どうも妙なのだ。最初は細かい道だから省いているだけかと思っていた。自分の足で歩けばマップは埋まるため、ひとまず埋めるだけ埋めておこうと。拠点を探すも何も拠点になりそうな場所についてとんと見当がつかないものでね。

 ところが実際に歩いてみると省かれるような細い道ではない。大通りほどではないにしろそれなりの幅がある。2,3人は並んで歩けるだろう。これより狭い道だって地図には載っていたはずだ。そこまで細かく記憶はしていないけれど。

 ではどういう基準で省かれているのか。空白地帯になっていた路地を歩き、マップに記載された道をなぞると分かるが、規則性があるように見える。ありがちなのだと魔法陣だろうか。魔法書とか魔術書も読んでからくればよかった。私が読んだ入門書には魔法陣は載っていなかったのである。


 妙なのはそれだけではない。

 道の幅の割に全く人が歩いていないのである。ストレス発散ができなくてかなしい。じゃなくて。

 時たま交わっている道から歩いてくる人はいるのだが、横を見ることなく真っすぐ歩き去っていくのだ。まるで地図に載っていない道を本当に認識していないかのように。尤も、仮に横を見ていたらルールに則って私が殺すのだが。


(隠し要素な予感がす、る……?)


 急な気配に、咄嗟に交わっている道に姿を潜める。今まで全く人が歩いてなかった道、それもそもそも普通の人は認識すらしていなさそうな道に、誰かの気配がしたらあからさまに怪しいでしょ。


カツン……カツン………


 足音が徐々に近づいてくる。<気配希釈>と<隠密>に加え、その場でSPを全て消費して<視線遮断>と<物音緩和><呼吸停止>を習得、パッシブにできるものはパッシブに変更した。今まで殺してきた人たちと気配が違いすぎる。絶対今の私じゃ殺せない。殺せないなら見付からないようにするしかない。


カツン、カツン……


 足音が大きくなる。見えてきた姿に息を呑みそうになるのを堪える。物音を立ててはいけない。

 ()()は人の形をしていた。人の形をしているが、人でないのが即座に分かる。露出している関節部分は人間のそれではない。球体関節だ。顔は人に似せているが明らかに作り物めいている。

 なめらかな動作に強大な気配。敵わないのは確実だが、これは果たして人間と同等のAIが積まれているのだろうか。それとも、いわゆる機械的(旧世代的)なものなのだろうか。

 何にせよ見付かるのは非常に危険だ。本能が警鐘を鳴らすかのように、スキルがそう私に教えてくれる。現実では絶対に分からない感覚に違いない。息を潜め動作を止め、視線を外し耳を澄ませ、通り過ぎるのをただじっと待つ。


カツン……カツン………


 足音が遠ざかっていく。まだ背中が見えている。まだ油断はできない。

 ファンタジーの世界から一変、ホラーゲームの世界に紛れ込んでしまったかのようだ。ドキドキする。恐怖だけではない。自分がどこかワクワクしているのを感じた。ホラーは嫌いではないのだ。


カツン………………カツン…………………


 背中が見えなくなった。次いで足音が消えていく。気配ももうすぐ消えるだろう。

 ほっと息を吐き出しかけた、その時。



 ()()は私の目の前にいた。

唐突なジャンル変更


種族:人族

種族レベル:8

スキル:

<暗殺術>8<奇襲>7<投擲術>2

<気配希釈>7<気配察知>7<隠密>7<視線察知>2<視線遮断>1<物音緩和>1<呼吸停止>1<変装>2

<識別>5<解読>1<看破>1

<薬学>4<言語学>7<魔力学>4<魔法学>4

<痛覚耐性>5

残SP:0

称号:

《初めてのひとごろし》

《躊躇の無い殺人》

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