10話 八つ当たり
短めです
(ひえ)
いつの間に目の前にいたソレはしかし、こちらを向いてはいなかった。
漏れ出そうになる悲鳴を、動きそうになる身体を、何とか抑え付けて動向を注視する。取ったばかりの<呼吸停止>の使用を念じつつ息を止める。視線を外さなければと思うものの、勝手に開かれた目はソレを追うことを止めてくれない。
今にも頭部をグリンと回転させてこちらを見てきそうだ。マジでやるゲームを間違えてないか?
ソレが何かなどさっぱり分からない。はっきりと分かることはたったひとつ。
背中を向けているソレに手を出したら、確実に死ぬ。
ゲームだし別に死に戻りくらい構わないけれど、死に戻らない努力はしたいし、死に戻って着く先は教会である。人がたくさんいそうなところに出て全員殺しきる自信がない。逃げられてしまう。それはいい気分がしない。ムカムカしてしまう。
ちまちまとした殺しばかり繰り返すあたり我ながら小物である。もっと強くなったらちゃんとたくさん殺しに行くから、アインツの教会の利用者諸君はそれまでどうか待っていてほしい。
どうでもいいことを考えながらソレの動向を見守る。
ソレの頭が徐々に回転を始めた。ゆっくりと、私のいる方へ。
ばくばくと五月蠅い心臓をおさえ、苦しくなってきた呼吸をなだめ、一挙一動を静かに見守る。
精巧に人に似せられた頭は、私の隠れた物陰を見る前に動きを止めた。
ひとつ瞬きをする前に目の前からいなくなる。先ほどの位置へ戻ったようだ。1分経ち、2分経ち、5分経ったところでほっと息を吐き出した。ようやく安心できた。
なんだったんだ、アレは。種族の一種なのか、誰かの使役する人形なのか。そもそも自律人形とかこのゲームに存在しているのか。分からない。分からないから怖い。ひとまずの目標はアレを殺せるくらい強くなることか。いつまでかかることやら。
(気持ちのいいストレス発散のためだからね)
頑張ろう。
「君、いったいそこで何を――――
振り向きざまにダガーを隠した手を振るう。肉を断つ感触とともに、針を仕込んだ靴を急所に向けて振り上げる。後ろにいた人物が光となって消えたのが目に入った。
「なっ……おい、どういう、ァア゛ア゛ッ!?」
喉を裂いた腕を、振り抜くように隣へ滑らせる。視力は奪ったが浅い。手を返して、手の甲の毒針を目に押し込んだ。ダメ押しとばかりにぐり、と捻ってさらに奥へと進ませる。
針が止まる前にあっさりと消えていった。
「ひっ……!い、いや……やだ、助けて、ごめんなさい、お願い殺さない、で……」
心臓を一突き。胸の前で握りしめ、構えすらしない杖をすり抜けるようにダガーを刺した。
*********
死体(獣人族)
名前:ラビリンス・トルタナ 所属:薄暮
性別:女 享年:19
*********
言葉を途切れさせ、あっけなく死んだ女はどうやらNPCだったようだ。他の2人は渡り人だったのに。ひとまず死体はインベントリに入れておくことにする。適当にフィールドに捨てておけばモンスターが勝手に食べてくれるだろう。
同行していたらしい渡り人2人には恨まれるかもしれないが知ったことではない。私に声をかけてきた方が悪いのだから、仕方ないよね?
ちょっと八つ当たり気味に乱暴に殺してしまったが、それはそれ。殺すなら方法なんて関係ないのである。その内毒薬とか直接注いでみたいな。
落ちていたアイテムを拾い、再び地図上では空白の路地を走る。気配探知は念入りに。あんなのが複数いる可能性だって低くはないのだ。先ほど殺した3人組のことは既に頭になかった。
「あんなの」との遭遇を避けること3度、ようやく元の地点に戻ってきた。
途中で大通りを3回走り抜けたのだが、まだレベルが低いためかついうっかり2人ほど殺すはめになってしまった。熱を発する魔力もどきを纏わせ毒を塗りこめたダガーで喉を貫けば、呻き声を出す間もなく死ぬことが分かったので、更に視線を増やさずにすんで良かったとも言える。主にインベントリ的な意味で。
いくつかレベルも割と急速に上がったが、新しいスキルも称号も増えていないので大したことではない。
どちらかと言うと問題は、空白の路地を繋いで見えてきた模様である。かなり魔法陣的だが、正体は一切不明。魔力が通っているのかすら分からない。
こんな時くらい仕事をしてくれてもいいんじゃないかとは思うがどうだろうね、<看破>君。
主人公の「仕方ない」は言い訳でも良心の発露でも何でもありません。口癖のようなものです
種族:人族
種族レベル:10
スキル:
<暗殺術>10<奇襲>9<投擲術>2
<気配希釈>10<気配察知>11<隠密>10<視線察知>5<視線遮断>4<物音緩和>4<呼吸停止>4<変装>2
<識別>6<解読>1<看破>1<採取>1
<薬学>4<言語学>8<魔力学>4<魔法学>4
<痛覚耐性>6
残SP:4
称号:
《初めてのひとごろし》
《躊躇の無い殺人》




