表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/65

2.異世界追放刑

ここでしか入れるタイミングなかった説明回なので見なくていいです。

後日世界観が気になったらいらしてください。

これより先俺に起こるであろう惨劇を共感してもらうには、

今のこの国あるいは世界がいかなる歴史を歩んできたか説明しなくてはなるまい。


歴史といっても何も古代エジプトのファラオがどうとか

始皇帝とか卑弥呼とかそういったところまで遡るつもりはない。

ほんの100年前、2145年のことである。


その頃、俺たちが住む島国の首都上空には眩い輝きを放ち、

下界を見下ろす絶対の存在があった。

中央に位置する球体をプラネティス・ソフォス、

それを囲む二つの輪をアイテール、メーヘラと呼ぶ。

世界統一を夢見た昔の人たちは、そこにあらゆる統治機能を詰め込んだ。

海の向こうで災害が起きればソフォスの要請で世界中から救助が行われる。

山脈の向こうで暴動が起きればソフォスの指示で鎮圧と判決が下される。

そこに勤めるごく一部は文字通りの天上人として君臨し、

地上を這い回る多数はその統治の元幸福に暮らし発展していたという。


しかしその統治はあまりに理不尽な事象により終わりを迎える。

突如としてプラネティス・ソフォスの真下に現れた異世界への裂け目から

多くの見たこともない獣や怪人が現れ、世界を蹂躙した。

連鎖するかのように世界各国で次々と裂け目が生まれ同様の悲劇を齎したという。

その最たるものは遥か遠い国にある二つの巨大火山を破壊して現れた二人の巨人であった。

歩くだけで津波を起こし、人凪ぎで都市を壊滅させる。

意思を持つ災害とまで言われた存在である。


当時の人類は今よりも遥かに高度な技術で洗練された兵器を持っていたが、

異世界の者たちは見知らぬ魔法めいたテクノロジーで人類に対抗した。

そして遂には抵抗空しく巨人の投擲によりアイテール、メーヘラは壊滅。

プラネティス・ソフォスは大打撃を受けた。

当然、中にいた天上人たちのほぼ全員は死に絶えたという。

限りなく無限に近いエネルギーでそれらはこの星が滅ぶまで浮き続けるらしいが、

そこにかつての輝きはなく、まるで死がいが晒されているような悲哀すら感じさせる。


詳細は不明だがそれから人類の徹底抗戦により異世界の悪者たちは一掃され、

異世界への裂け目は全て封印された。


プラネティス・ソフォスなき世界で生まれた新しい統治機関は、

人類の存続に対して全力で取り組んだ。

そうして行われたのが、技術の大幅な抑制と社会奉仕への極端な教育。

技術の抑制は世界平和のための武器であった軍が殆ど壊滅し、

その中で制御不能な存在を発生させないための対処だという。

厳密には2010年代から20年代ほどまで大衆の技術は退化したらしい。

もう一つの教育の変化は、まぁ俺も影響を受けていないとは言い難い。

つまりは人口が大幅に減った状態で反社会的な思考はそれだけで危機に繋がる。

それを防ぐためにほぼすべての教育機関で社会奉仕を大事にしろという

内容の改革が行われた。

親を大事にしようねとかをみんなを愛そうねとかそんな内容だったが

ついさっきの俺が動けなかった事からして、効力はあったようだ。


こうして、あれだけの災害に見舞われながらも

それなりに平和でそこそこ幸せな今がある。


そして今俺がいるのはプラネティス・ソフォス(の死がい)の真下。

つまり、裂け目のすぐ近くなのだ…


異世界への裂け目は封印したといったな。あれは嘘だ。

いや厳密にいえば完全な管理下に置かれていると言った方がいい。

向こうからこちらに何者かがたどり着く事は不可能だが、

こちらから向こうに送りつける事は可能である。

そして、それを利用した刑罰、それが


異世界追放刑。


死刑・終身刑・異世界追放刑。これが今の極刑である。

異世界に追放された者はそこに住む魑魅魍魎により食い殺される

あるいは奴隷となり死ぬまで非人道的な扱いをうけ続けるだろう…


…と、ここまでが異世界というものについての俺の全知識である。

授業でやっていた事にテレビで見たものを加えただけだが、

大体みんなこんなものかむしろ比較的詳しいのではないだろうか。


ちなみに現在俺はというと、ゴーグルとマスクをつけた白衣の職員により

所有物のチェックなどを行われている。

意外と厳密なものではなく、恐らくは危険物がないか確認しているだけらしい。

服装も連行時のままだし財布の中には5982円と最寄りのコンビニのカードが入っている。


「こちらオッケーです、H-092を零点隔離壁へ移送します」

「一人でですか? …問題ありません」


H-092というのが俺の今の名前らしい。

職員は俺の手錠にチェーンを付けると、その先端を握り俺を見ずに進んだ。


「なんで俺が…」

「不満なのはわかるが暴れてくれるなよ。

 親御さんに迷惑かけたくないだろ」


それを言われるとどうしようもない。

俺は連れられるがままに、埃一つない白い廊下を歩く。

ここまで綺麗な廊下を維持するのも大変だろう。

これから先の事が重くのしかかり俯くしかない俺にはそのピカピカはまぶしすぎた。


「職員さん。ご苦労様です」

「はっ、エージェント様。有難う御座います」


突然始まった会話に驚いて顔を上げる。

そこには俺を地獄に叩き落とした道先案内人の巻き毛女がいた。


「ここからの移送は私が引き受けます。職員さんはブロック3の待機室に戻って下さい」

「エージェント様自らですか。了解しました。お任せします」


チェーンが職員からエージェントと呼ばれた地獄の巻き毛に託される。

こっちよ。と短い声とともにまた廊下を歩く。

俺の速度に合わせているのか、次第に距離が縮まる。

殆ど横並びになった時、ふと向こうから声がかけられた。


「本当なら警備が二人つくはずなんだけど…」

「これを渡すために、少し無理をしちゃった」


その言葉の意味を噛み砕くより早く、ポケットに何かを入れられた感触がくる。

角が丸くて、長方形で、硬い…

常日頃から触っていたためか、俺は即座にそれがスマホであると理解した。

俺の持っていたものより一回り小さいだろうか。

そもそも俺の物はまだ家にあるか、捜査とかのために没収されているだろうし。


巨大な扉の前に来た。

白く潔癖過ぎるほどの空間をぶち壊す鉄の塊。

大量の杭とネジで封印されるかのように閉じられているそれが、ゆっくりと解放されていく。

ここで話さなくては二度と機会はない。

俺は隣を歩んだ女性に向かって、声を出した。


「あ、あのっ! あなたは…!」


彼女は最初会った時と同じように、真っすぐに俺を見る。

その奥底にある意思を読み取るほど俺は心理に精通していない。

生まれ変わったら瞳を見ただけで心が読める人になりたい…

いや、やっぱりいいや。それはそれで大変だろうし。

ただ。心の読めない俺にも彼女に何か強い意志と深い思いがある事だけは直感した。


「それ、絶対に手放さないでね!」


別に大声で叫んだ訳じゃない。しかしその言葉は俺の心に強く響く。

それと同時に扉の向こうから先程の職員など比較にならない重装備の…

最早鎧と形容するべき全身防護スーツを来た何者かがのっそりと現れる。

そいつ等が恐らくは睡眠導入剤か何かであろう、それを俺の首筋に注射する。

それでも俺はずっと、ずっと彼女の瞳の中にその真意を探し続けた。

よく見ると結構好みかもしれない。

そんな事を考えながら俺の意識は深い闇に落ちていく。

二度と覚める事のない、あるいは覚めなければよかったと後悔するであろう

深く何も見えない闇の中へ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ