↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/65

1.ユーザー登録

これより異世界追放刑本編が開始いたします。

ピピ……ピピ………


俺は天空で大魔王と対峙していた。

隣にはともに戦うヒロインみたいな誰か。顔はモザイクとかに使われる謎の逆光でよく見えない。

ブルーレイ・ディスク版なら見れるかな?


大魔王のビームで地上が焼ける空が割れる。

上を見ればあまりに大き過ぎる月が真ん中から裂け、中から巨大な目玉が覗く。

真下には巨大な口から舌のように飛び出た手が地面を削り取る。


ピピピ…ピピピ……


なんと地獄めいた夢だろうか。

そういえば俺は現実世界でも地獄に落とされてたな。

違うと言えば隣にいるヒロインの存在だ。彼女は俺に向かって何かを告げる。

俺も何かをしっかりと返す。何をいったかはわからんがきっと大切な事だ。

きっとこの二人は大魔王を倒し世界を救う。なんせ夢だから。

俺もいい加減に夢から覚めないと…

いや覚めたらそこが地獄なら覚めなくてもいいかな…


ピピピピピピピピピピ!!


「うるせぇ!!」


かけた覚えのないアラームに叩き起こされる。

俺はスムーズな動きでスマホをポケットから取り出すと停止をタッチして即座に止める。

いつアラームかけたっけなと思い起こすとそういえばこれ俺のじゃないんだったと気づく。


『お早う御座います。ゲストユーザー様』

「おぉう!? 喋った!!」


突然喋り始めるスマホをあやうく落としそうになる。

女性の声だ。かなり自然な発音だがどこか機械的な違和感を感じる。

スマホの画面には丸と直線だけで描かれた簡単な顔が表示されていた。


『スマホだから音は出ますよ。ゲストユーザー様』

「いやけど勝手に話し出すのはおかしいだろ」

『最新の機種ならユーザーの状態を把握して適切な応答を行うのは当然です』


画面上にドヤ顔が表示される。こんな簡単なパーツでも表現できるのって凄いと思う。

しかし改めて考えるとスマホと普通に会話している俺がやばい?


『早速ですがゲストユーザー様。ユーザー登録を行ってください』

「えっ正式登録ってなに? 利用料とかとるの?」

『いいえ! 料金は発生しません。永久無料です』


そのフレーズはネットの広告で何度か見たことがあるぞ。

確か追加サービスで料金を取るんだろ。


「タッチパネルで住所とか名前書くの面倒じゃない?」

『不要です! 簡単登録で所要時間は30秒以内です!』

「おお、それは凄いな。住所電話番号とか書くと結構時間かかるし」


既に俺は登録してもいいかなという気持ちになっていた。

流石にちょろ過ぎるのではないだろうか。

これから先、詐欺とかに気を付けよう。


「じゃ、じゃあ登録しちゃおうかな…」

『有難う御座います! それでは早速』


カシャンという音が鳴り、スマホの右側面が開く。

そこには細長い針が収納されていた。


『これを手首の内側にある静脈に突き刺してください! ぐさっと!』


俺はスマホをその場に投げ捨てた。


『何をするんですか! ハイスペック最新機種でなければ壊れてましたよ!』

「登録に突き刺し要求する殺人スマホが最新かよ!!」


登録に針を突き刺せとは流石に意味がわからない。

俺が勝手にただのスマホと思い込んでいるだけで、

その正体は妖怪・吸血スマホとかそんな類なんじゃないか。


『はぁ…わかりましたゲストユーザー様』


いまの「はぁ」が本気でどうしようもない人間を見た時みたいで少し腹が立つ。


『まずは現在ゲストユーザー様が置かれております状況をご確認ください』


その声ではっと気づく。

妖怪スマホとの会話に夢中になっていたせいで現状把握が遅れていた。

今座りこんでいる地面は草で覆われ、周囲は木々に囲まれている。

ここ半径3mほどは背丈の小さい草しか生えておらず、ちょっとした空間を形成している。

日は高く上っており、周囲は木陰で薄暗いがここは日光がよく当たる。

何かのサプライズで遠くの森に放置されたとかでなければ…

異世界に送り込まれたと見ていいだろう。

ここにきて現実が重くのしかかる。


『ゲストユーザー様。安心してください。私がいます』

『それにほら、足元をご覧ください』


言われた通り足元に目をやると黒いリュックサックが置いてある。

中身を確認すると、まず一枚の紙が現れた。


《刑罰条項第11条2項より以下の物資が受刑者に与えられるものとする。

 ・水1リットル

 ・パン100g

 ・菓子100円相当

 受刑者が特に望むのであれば、内容物に変更を認める場合もある≫


実際に確かめてみたところ、

ペットボトルの水1リットル、パン一個25gくらいが四個。

そして板チョコレート1枚が入っていた。


「俺要望いってねーよ!! 水よりスポーツドリンクがいいし

 板チョコよりチョコチップクッキーがいいよ!!」


何も言わず俺をこんなところに置いて行った職員たちに怒りを投げつける。

その怒りが届くことは永久にないだろう。

リュックサックの隅から隅まで探したがそれ以外は何もない。

本当にこんな僅かな食糧だけで異世界に送られたらしい。


『ご理解頂けましたか? ゲストユーザー様』


弱りはてた俺に悪魔のようにスマホが話しかけてくる。

きっとこうやって弱者を取り込むことで来期の商戦を勝ち抜くつもりなのだろう。


「…登録して何ができるっていうんだよ」

『ゲストユーザー様をお助けすることができます』


俺にはもうこの悪魔スマホに抗うほどの精神的な体力はなかった。

ふらふらと立ち上がり、投げ捨てたスマホを拾い上げる。

画面を見ると、絵文字で笑顔を作っていた。

カシュンと再び音がなる。勝手に収納されていたらしい針が再び現れる。


「これを手首に突き刺すんだったな」

『はい! ぐさっとやっちゃってください。ぐさーっと』


針をひっぱると後ろにコードが続いている。

俺は再び座り込んで一旦スマホをおいてから針で手首を指す。

ちくりとした痛みが寝起きで少しボケている俺を覚まさせる。


『もっと深くです。もーっと!』

「えぇ…」

『男の子なら我慢してください! ほら、ぐいーっと!』


この年になって男の子なんだからと言われるとは思ってもなかった。

針に特殊な加工でもしているのか、それとも俺に針治療の才能があるのか。

不思議と深く刺すことで痛みが増す事はなかった。


『登録中…登録中……』

「はやくしてくんない? これ抜きたいんだけど」

『もう少し待ってくださいね……登録終了!

 抜いて大丈夫ですよ』


それを聞きすぐさまずぷずぷと針を抜いていく。

思ったより深く差し込んでいたらしい。

血で濡れた針を指でふき取ると、元と同じように収納した。


『これで登録はほぼ完了です! 最後に名前を教えてください』

「結局入力するのか…」


画面に表示されたスペースに一文字ずつ名前を入力する。

文字入力は持っていたスマホと一緒のようだ。


『かいやなぎ…しゅん…様! で宜しいですか?』

「おう」

『それではシュン様とお呼びしますね!』


なら下の名前だけ入力すればよかったのではないか?

そんな疑問を他所に俺の新しいスマホは勝手に続ける。


『これよりわたくしSL/091はシュン様の助けとなり力となりましょう。

 あなたの御傍にある限りいかなる災厄をも払う盾となり、

 円環の果てに因果が掻き消えてもあなたの所有物であり続け、

 終焉の地に至ってもなお支える友人であると誓います』


いっている言葉が9割くらいわからない。

最近はこういう難しい単語を使ってまくしたてるのが流行りなのか。


『それでは、これから宜しくお願いしますね! シュン様!』

「おうよろしくな」


こうして俺はユーザー登録を経て、スマホを新調したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。